早朝シルバーアッシュ家邸宅のベットに横たわりながら、ドクターは素数ではなく、危機契約の配置を数えて正気をギリ保っていた。
ぐっすりと眠っているシルバーアッシュの抱き枕になって、いったい何時間たったろうか。
(…全然起きない)
自室ではないからか、朝方ふっと目が覚めてしまった。やはり今日も後ろからガッシリと抱きしめられており落胆してから随分たつ。
ムースから聞いたのだが、猫は気に入ったぬいぐるみを抱いて寝る習慣があるらしい。
大型猫化雪豹種なシルバーアッシュも同じようで、一緒に寝て目が覚めた時は大抵はこの状態になっている。
もちろん二度寝なんて出来やしない。シルバーアッシュのありとあらゆる何もかもが当たっているからだ。
肩口に見える銀髪、背に触れている逞しい胸、それに男なのでガッツリと性器までも。おまけに背後から聞こえる、寝息に交じった良い甘めな声のオプション付き。
これは危機契約の配置を数えても、気が気ではなくなってしまう。
同じベットで眠っているという事は、当然夜も共にしている訳だ。事後の身体をぴったりとくっつけられていると、落ち着かなくて困ってしまうのに。
無駄と分かっているが、胸に回された腕から逃れようと身体を揺すって抵抗を試みる。だが悲しいかな、やっぱり身動きひとつできない。
何度も何度も、逃げようとした。けれども大柄な猫化の腕力は睡眠時でも健在のようでビクともしない。
さすが真銀斬を打てる腕力、特化3の威力は伊達じゃないようだ。
「…っ」
と、背後でシルバーアッシュが、もぞもぞと動いた。これはチャンスとばかりに、腕から逃れようとした瞬間。
「ん…」
寝ぼけているのか、シルバーアッシュはドクターのうなじを急に舐めてきた。
「ちょっ、何してるんだよ!」
文句を言いながら逃げようとしたが、より一層つよく抱きしめられてしまう。強引にシルバーアッシュまで引き寄せられ、事態は最悪の展開を迎えている。
腰と肩口を固定されて、いよいよ動くことさえ不可能。何よりも遠慮無しの力で抱きしめられて痛みがある。
「いててっ、あの~シルバーアッシュさん?」
華奢だが一応男性なドクターの骨がミシミシいってる。か弱い女の子なら折れているんじゃないだろうか。
熟睡中なところ悪いが、このままでは危機契約の配置さえ数えられない。
と、低音の掠れた声がドクターの名を呼んだ。
「もう、すこし…」
舌っ足らずな言い方に幼さを感じる。いつもは横柄な王様のシルバーアッシュだが、幼少期に甘える機会が無かったからだろうか。
甘えベタな面が多いと、深く付き合うほどに理解している。
その為か、たまにみせる子供のような表情に、ドクターは弱かったりした。
「仕方ないなぁ」
後頭部を傾げてやると、ぐるぐると爆音の喉ゴロが聞こえてきた。姿はみえないが、どうやらシルバーアッシュは喜んでるようだ。
こう見るとただのよく喋る猫のようで、図体のデカさを覗けば非常に愛らしい。
ふと、柔らかな声がドクターを呼んでいた。
「ん、私は此処にいるよ」
大人しく寝ているなら害はないどころか、可愛らしさもある。
ところが、先ほど舐められたうなじを、今度は思いっきり噛み付かれた。
「いッたぁ~ッ!」
鋭い痛みに色気皆無な声で絶叫したが、シルバーアッシュは起きない。
「おいっ!噛むのはナシだよ、シルバーアッシュ!」
前言撤回、やはり王様は何処までいっても王様なのだ。
怒りに身を任せ、腕から這い出ようと藻掻いてみたが起きないし、動かない。
じりじりと痛むうなじを、今度は優しく舌先で舐められドクターは身を固くした。
シルバーアッシュの舌先が這う度に「ひっ」と意図せず、細かな悲鳴が飛び出る。
痛いし舐めるし、苛立ちのボルテージがぐんぐん上がってきた。
「こいつ…起きてるんじゃないのか?」
声に出た恨み節は流される。だが遠慮がちに、うなじを舐める舌先は止まった。
噛まれた後に舐めるのは、昨晩の情事がフラッシュバックする。
太ももや、鎖骨あたりを噛んだ後に、赤い舌先で丁寧に舐められたことをドクターの身はしっかりと覚えていた。
「んっ」
じんわりと熱が帯びてくる。朝なのに、シルバーアッシュは寝ているのにも関わらず、ひとりで盛っているのが情けなくなってきた。
ハッハッと短くなった呼吸を抑えたい。けれども腕ごと抱きしめられているので身じろぎさえ出来ない。
シーツで唇を塞いで、弾みだした息を抑えようとした。悲しいかな、切羽詰まった状況に興奮してる。
無視できないほどに、下半身が熱くなってきた。
被虐思考をもつドクターは自分の身を呪いたくなる。マゾになったのも、爆睡してる後ろの大型フェリーンのせいなので、苛立ちはしても欲求は解消されなかったりする。
「うぅ…」
唯一動かせるのは指先だけで、自身の性器を弄くることも出来ない。
ここまで切羽詰まると素数さえも浮かばず、ドクターは浮かれた身体を持て余していた。
さっさとイキたい、気持ちよくなりたい。
「シルバーアッシュっ」と呼びかけてみるが、返答はなし。
また力任せに出ようと藻掻いてみるが、やはりビクともしない。このままでは体力も精神力も奪われて、残るのは精力のみ旺盛な最低の状況になる。
ドクターは恥ずかしさから泣きそうになってきた。
「エンシオディス、起きてってばぁ」と悲鳴に近い声で叫んでみた。
「ん…う」
一瞬だけ腕の力が弱まり、左手の脱出成功。喜んだのもつかの間で、直ぐに確かな力で抱き寄せられてしまった。
「コイツっ!」
左手のみが自由になったが、それ以外は強い握力で封じ込められている。だが後ろから規則正しい寝息が聞こえているのが安心材料になった。
(…早くイキたい)
理性が溶けているから仕方ないと言い訳して左手のみで性器を弄くる。常に強めの快感を与えられているから、物足りなく焦らされているようで辛い。
快感を追いすがるように、腰をもぞもぞと動かしてから、ハッとして止めた。
身体を激しく動かしでもしたら、シルバーアッシュが起きてしまう。この状況で無駄に整っている顔で迫られると非常に面倒くさい。
続きはえちえちにしたいですね…しかし今回の危機契約が難しくてとてもつらい(´;ω;`)