野営地点を教わっていたので、迷うことはなかった。それに盟友から設営地点を丁寧に記したマップを渡されていたというのもある。
テントは部隊編成で別けているらしく、盟友は空いている予備隊で眠ることにしたそうだ。
満月が輝く夜。
見回りのオペレーターが私を見つけると、こそこそと声を潜めている。好奇の眼差しも想定内だ。
『招集されてないのに何故』その声を無視して、盟友のいるテントへと進んでゆく。
ふと盟友がいる筈のテントからサルカズの男性剣士が出て行った。彼は私よりも、やや早くロドスのオペレーターになったと盟友から聞いている。
するりと慣れた足取りで地面を避けて、私に見向きもせずに去ってゆくサルカズの剣士。
どうやら地雷が今夜も盟友のテント付近には埋まっているらしい。私も彼にならい、地面を避けて通った。
何処かに地雷を仕掛けた人物が見張っている。視線を感じるが、それも想定内だ。
この視線も私を監視するだけで、コンタクトをとる気配はない。私もまた、そうするつもりはなかった。
盟友のもとに来た私に剣士である彼は、実のところ気がつかない。
いや、そんな筈はないだろう。それにはっきりしている事がある。あの剣士は盟友の様子を確認しに来た。
興味のない素振りをしているが、盟友に対して特別な感情を持ち合わせていると私は感じている。
どうやら今夜の一件で確信に近づいたようだ。
月が陰ったのを見過ごさず、黒い容姿は途端に闇夜に溶けていった。
テントに入り奥で丸まっている寝袋に向かい声をかける。
「盟友」
起きない。彼はただ眺めるだけで終えようとしていたのだろうか。
ならば、そろそろ諦めれば良いものをと考えるが、此方から口に出す必要もない。
何をどうしようが、盟友は私のものなのだ。勝者の余裕は美しくないと称されているが、他人の評価など必要ない。
「盟友」
テントの奥にいる寝袋が、再度呼びかけた私の声に反応して動いた。
「…シルバーアッシュ?」
盟友のテントに入り、寝室を共にすることを誰も出来ない。
私だけだ。その答えが全てを物語っている。
寝袋から這い出てきた素顔の盟友の髪を梳く。愛らしい目元は眠たげで重たく見える。
「会いに来てくれたの?」
そう言いながら盟友は寝袋を放り出して、私に向かい腕を伸ばした。
柔らかく差しのばされた手を取り、テントにしゃがみ込む。
「あぁ、そうだ」
「そうなの?へへ、ありがと」
盟友は眠たげな瞳を細めて、可憐な笑顔をこぼした。
「野営に出てるときも、来てくれるんだね」と口にしながら、私のシャツを握る。これは盟友の癖らしい。
「あれほど丁寧なマップを送られたのだからな。お前の誠意に応えるまでだ」
このシャツを握る仕草は何かを考えているときや、余裕のないときに出る仕草だ。
「どうした」
「ん、えっと…」
盟友は少し間を開けてから、おずおずとまた私のシャツを握り直した。
「一緒に寝てくれるかなぁ…なんて」
「構わない」
「本当?良かった。あのね、野営用テントに敷くマット新しくしたんだ」
嬉々として話しつつ、私のシャツから指先を離す。そして放り出した寝袋を漁ると毛布を抱えて戻ってきた。
「もしかしたら、一緒に寝る機会があるかなぁって。この毛布もね、新しいの貰ったんだよ」
「そうか。私が来るのを待っていたのか、お前は」
盟友は私に毛布を掛けてから、ニコリと微笑んだ。
「寒いから一人で眠れないんだもの」
「私で暖を取りたいというのか」
「うん」と言いつつ、今度は私の手を柔らかく握った。
普段は手袋で覆っている盟友の華奢な指先があらわになっていた。素肌の細い指が私の手の甲を撫でる。
「そう、寒いから。もっと、ぎゅっとして」
「…承知した」
盟友を抱きしめると、私の首筋に頬を埋める。
「温かい」
「お前が冷えているだけなのかもしれない」
重たげなまぶたが、ゆっくりと閉じてゆく。
「だから待ってた…嬉しいよ、来てくれて」
うつらうつらとする盟友を抱き寄せて、簡素なマットに身を委ねた。私の胸元にしっかり収まった盟友。
「愛らしいな、お前は」
マットや毛布を新調し、私が来るのを心待ちにしている。マップを懸命に書き、いつ来るだろうかと悩む盟友の姿は想像だけでも充分愛らしい。
私はテントのなかで、共に眠る権利を得ている。
これは誰にも譲るつもりはない。私だけが盟友の特別、そういう訳だからだ。
そろそろ諦めてもらいたいが、もちろん私からは口にしない。
おしまい~