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    dondadondadon

    @dondadondadon

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    dondadondadon

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    転セバ
    ガラス越しの逢瀬が好きすぎて毎ジャンル書いてるけどいまだ飽きることが無いので一生書きますねこれは…

    人魚の恋人人魚の恋人

     それは地下聖堂だったり、図書室の奥まった席、人通りの少ない廊下のソファーだったり。「親友が友人とキスしているところを見るなんてごめんだね」とオミニスが1人寮に戻った後。晴れて恋人となった僕と転入生は肩を寄せて他愛の無い話に笑い、許される限り時間を共有するのが日課になっていた。もちろん、彼が学内にいる日は、の前置きが付くけれど。(胸躍る冒険に置いて行った事を拗ねた声で揶揄った時には僕の機嫌を取るように「許してセバスチャン」と転入生が生え掛けの髭も気にせず何度も頬擦りをしてきた事もある)
     魅力的な目で微笑み、ハッフルパフ生らしく人に囲まれ請われる男が自分だけを見つめるのは優越感に浸るには十分だ。そうして消灯時間が近づいた頃どちらともなく顔を近づけて「おやすみ」と唇にキスをする。君が初恋なんだと照れたように眉を下げる転入生との逢瀬が好きだ。
     転入生とキスができるから、彼が学内にいる夜を心待ちにするくらいには夢中になっている自覚は嫌と言うほどしている。でも付き合いたてなんてこんなものだろうし、なにより唇を合わせながら嬉しそうに手を握ってくる彼も、きっとこのひと時を待ちわびていると信じて過ごしてきた。
     だと言うのに今日!、彼は終始落ち着かない様子でソワソワしていたかと思えば、キスひとつせず「面白いものを見せてあげる、1時間後に君の寮の談話室で待ってて」と走り去ってしまった。
     転入生のことだから、きっとそれは面白くてワクワクするものに違いない。違い無いけれど………それって僕とのキスよりも大事なことか?
     日付の変わった談話室で一人きり、恋に恋でもしてるような、とにかく面白くない気持ちを抱えたまま冷える空気から逃げるように寝巻きの襟元を引いた。約束の1時間にはまだ少し早いかと持ってきた本を数ページ捲る。
     
    コンコンコン コンコココン

     耳慣れないけれど、確かに聞き覚えのあるリズムの反響が耳に届く。硬い音で奏でられたヘルガ・ハッフルパフの名前に思わず胸が躍った。先ほどまでのイラつきが嘘のように消えて行くのがわかる。
     一体どうやって忍び込んだのか!本を机の上に置く暇さえ惜しくて放り投げ、薄暗い室内で目を凝らし転入生を探す。
     いくつかソファーを通り過ぎ、低い階段を飛ばして、足をばたつかせる犬の標本を横目にしてから辺りを見渡したタイミングでもう一度硬い音の反響。今度は5回、きっと僕の名前だ。上がる口角を隠せずに今度こそ捕らえた音の出どころに目を向けると湖につながる窓に影が差している。
     ガラスを挟んだ向こう側で横向きにした杖を口に咥えた転入生は楽しそうに目を細めて大きく手を振って僕を呼んでいた。

    「信じられない、君!どうやって」

     彼のいる窓に寄って笑顔も隠せず話しかける僕を見てお互いの声が届かない事に気がついた転入生は悩んだように顔を捻り、少しの間を置いて何か思い付いたのか、目を開き杖を手に持ち替えて水中でペンを滑らせるように動かす。

    『エラ コンぶ おしえ きみ』

     杖先からでた光が文字のように一瞬浮かんでは消えていく。いつだったかの夜、何を読んでるのと聞く転入生に鰓昆布の話をしたなと思い出した。あんな何気ない会話を覚えて、水魔の蔓延る冷たい湖の中で自慢げに水を掻き分ける彼を想うとキスの一つが何だって言うんだと心の内から転入生への愛しさが湧き上がってくる。
     そんな胸中も知らず、文字が反転しないように書くのに難儀して眉を寄せる転入生の表情が珍しくて、口から漏れる笑い声がとうとう抑えられなくなった。

    『それ どこで』

    『み つりょしゃ』

     水掻きのついた手を大きく広げて首筋に現れたエラを自慢げに見せてくる姿をもっとよく見たくてガラスに手をついて転入生の姿を覗き込む。鰓昆布の影響か転入生の碧い目がいつもより明るく輝いて見えて、飽きもせずに見つめ続けた。
     たった数センチに感じる転入生との距離に(ああ、ガラスさえなかったらキスできるのに)と思ったのと、転入生が小さな気泡をこぼしながら「おやすみ」と口を動かしたのは同時だった。
     真摯に見つめる双眸に吸い寄せられる。僕の手にいつもと形が違うけれど、同じ大きさの手を重ねて転入生は首を傾けた。石の天井に反響する水の音だけが響く談話室で、恋人たちは見つめあったまま静かに冷たいガラスに唇を寄せた。
     柔らかい感触も、握る手の温もりも感じないガラス越しのキスはあまりにもロマンティックだけど、長く唇を合わせていると恥ずかしさがようやく戻ってきて顔に熱が上がる。そんな僕が見えているのかいないのか分からないけれど、転入生は楽しそうに目元を緩めて微笑んでいる。
     キスを終えてゆっくりと体を離す僕の頬を転入生の手が撫でるように動くのと、ガラス一面に大きな影がさしたのは同時だった。

    「転入生!!!」

     大きな触手が作る渦に巻き込まれた転入生が必死に水を掻き分けて上へ上へと逃げる姿が徐々に見えなくなっていく。その間も巨大な触手は湖の中で躍るように蠢き、見慣れた革靴が片足分水の中へと沈んでいく。
     心臓が強く跳ね、どうして杖を寝室に置いてきたんだと冷や汗をかきながら助けを呼ぼうと寮の出口へ身を翻そうとした瞬間、転入生がすごいスピードで水底に泳いで行った。
     ぽかんとして固まっている僕を置いてけぼりにして無事に靴を拾った彼がひらひらと手を振りながら「大丈夫」だと口を動かす。喋った拍子に逃げた杖を慌てて咥え直すと転入生は荒れる水流にも慣れたのかすいすいと水面に向かい、やがて消えていった。
     人間離れしたその姿に、僕は時間もはばからず大声を上げて笑うしか無かった。

    ――――――――――――――――――――――――

     あれだけバカ笑いしたけれど、運良く監督生にバレることも無くベッドで朝を迎えたセバスチャンの機嫌は最高潮だった。鼻歌交じりに髭剃りをあて終わってから、眠るオミニスを叩き起し服を着せ朝食を食いっぱぐれないように部屋を出て大広間へと向かう。

    「ほんとうだよ!人魚がそこで誰かとキスしてたんだよ!」

     昨日の夜に見たんだ!!!と大声をあげる1年生の周りを低学年の生徒たちが目を輝かせて取り囲んでいる。

    「ほんとうに見たの?夢じゃないの?」

    「ほんとうだよ!それにほら、ここにキスのあとが残ってるでしょ」

     小さな腕を伸ばしながら指さす先に唇の跡がいくつか残ってるのを見つけた彼らのざわめきは、今や談話室いっぱいに鳴り響いている。“人魚の恋人はスリザリン生”だと。

    「しまった」

     笑いに笑って、息も絶え絶えに寝室に戻ったせいで逢瀬の痕跡を消すのを完全に忘れていたことを思い出したセバスチャンの微かなつぶやきを、隣で寝ぼけていたはずの親友は聴き逃してはくれなかった。

    「…それでミスターサロウ、今度は転入生と何をやらかしたんだ?」

     君が朝から上機嫌なのも、昨日遅くまで帰ってこなかったのも関係あるだろう、とじっとりと見つめてくるオミニスにバツの悪さを感じながら、わざと色を着けた声色で返す。

    「オミニスも気になるか?ガラス越しの…」

    「…やっぱりやめておくよ。何度も言うけど親友と友人のラブロマンスなんて、俺は本当にごめんだね」

     舌を出しておえ、と嘔吐く振りをしたオミニスは「それはそれとして、彼がどうやって湖に忍び込んだのかは聞かせてもらうぞ」と片眉をあげて囁いた。彼のこういう所が強かで本当に好ましい。
     返事をするように肩を叩くと満足したのか、オミニスは杖を翳して大広間へと歩き出した。その後ろに続きながら、朝一番に部屋まで届いた転入生からのフクロウ便を開く。

    “寝間着姿のセバスチャン初めて見たよ、なんだかいいね”

     ちょっとした危険を犯したとは思えないほど簡素で、どこまでも色ボケた手紙を前にニヤつく顔を抑えるのは、同じく恋する男たる僕には不可能な話だった。
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