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    dondadondadon

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    転セバ
    転入生の最も恐ろしいものの話

    キャビネットの闇の中休日の大広間といえど、朝食の時間ともなるとそれなりの人で溢れている。ベッドで惰眠を貪るルームメイトを見捨てて唸る腹を満たすべく空いている席を探すも、お気に入りの席は高い声をあげて笑う女子の集団が占領しているし、グリフィンドール寮の席は空いているけれど、スリザリンの色を纏って混ざるほどの勇気はない。そうして何とか見つけて座った席の隣にはハッフルパフの色をした男子生徒が我が物顔で座っている。
     5年生からホグワーツに入学した転入生、そして今ではホグワーツの英雄と名高い彼はサロウとゴーントと仲がいいらしく、休日でも平日でもスリザリン寮の席に腰掛けている。それまで普通の学校に通っていたというマグル生まれの彼は、僕達ほど寮の垣根を気にしてはいないらしい。今日も彼の横にはシリアルのボウルをかき混ぜる眠そうな目をしたサロウがいる。床でよく寝ている姿を見るゴーントは、今日は一緒に居ない。きっと彼も寝坊組だ。
     転入生が来るまで、サロウはいつもゴーントと2人で行動しているイメージが強かったが、以前より暗い目をするようになった彼の横には、今ではどちらかと言うと転入生の方がよく寄り添っている。スリザリンでも一目置かれるサロウの懐にするりと入り込んだ転入生は流石ハッフルパフと言うべきだろうか。

    「それで、へキャット先生が君に特別授業をしてくれるって?」
    「うん、ボガート?って言うんだっけ」

     ボガート!休日だって言うのに君もついてないなと笑うサロウの言葉に耳を傾けていたのは僕だけではないようだ。遠くで騒いでいた女子たちは耳を澄ませ、向かいに座る3年生は口の中にパンを詰め込んだまま静止し、他寮の生徒も身を乗り出して様子を伺っていた。
     入学して一年足らずでホグワーツを救ってみせた男が恐れるものが何なのか、常に娯楽を求める学内で今日の一大イベントになるのは無理もない話だった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「これはまた、随分と見物客を増やしたものだね」

     闇の魔術に対する防衛術の教室は、いつになく大盛況だった。1年生から7年生まで男も女も関係なく通路にはみ出すほどの人だかり。いち早く大広間から教室に移動した僕は壁側一列目を確保した。こんな面白そうなこと見逃せない。未だ部屋で寝こけているルームメイトにも聞かせてやろうとほくそんだ。

    「全く君は人気者だな」

    へキャット先生と同じく呆れたように肩をすくめるサロウを見て、転入生は困ったように眉を下げている。

    「僕が失敗したら君が助けてよセバスチャン」
    「君が失敗するとも思えないけど、その信頼には応えるさ」

    転入生の肩を叩いて離れるサロウは、ちょっと失礼と声をかけて僕の横に滑り込んできた。

    「いいかい、ボガートが現れたら“リディクラス、ばかばかしい”だよ」

     はい先生、と答える転入生は杖を構えてキャビネットに向き合い、みんな息を殺して何が出てくるのか見守った。
     キィキィと軋んだ音を立てて扉がゆっくりと開く。開かれた扉の中から砂埃に塗れたローブと、泥が跳ねた革靴が音もなく降りてくる。もう一歩踏み出して光に晒されたボガートは、動揺したように目を潤ませるセバスチャンの姿をしてそこに居た。
     周りの生徒たちが動揺したように「あれってサロウか?」「仲が良いんじゃ・・・」と口々に言い始める。転入生は言葉もなく杖を震わせ、隣にいるサロウは驚いたように固まって、口をはくはくと動かした。薄汚れたサロウの姿をしたボガートは手を伸ばし転入生に近づいていく。

    「転入生、僕がしたんだ。僕がお」

     転入生の顔が怒り染まったと思った。いつも柔らかく微笑むのが似合う彼の目が眩しいほどの怒りを湛えた瞬間、轟音と肌を指すような痛みで意識が一瞬飛んだ。
     悲鳴と物の焼ける嫌な臭いに気がついた時には自分は教室の床に横たわっていた。逃げ惑う生徒を守るへキャット先生を遠くに見ながら僕は目の前で寄り添う2人を視界に映す。真っ黒に焦げて今や跡形もないキャビネットを背に、転入生はサロウを抱きしめ、サロウも縋り付くように転入生の背に手を回し身じろぎひとつしなかった。
     その後の事はぼんやりとしか覚えていなくて、気がついたら医務室のベッドの上だ。災難だったなと菓子を片手に見舞いに来たルームメイトは「魔法の暴発だって?英雄も怖いものには敵わないんだな」なんて笑うものだから、僕はそうだなと曖昧に笑うしかない。
     彼らの一番近くにいたから、僕には聞こえていた。ボガートが何を言ったのか、転入生が何を恐れていたのか。
     決して口には出すまい、知っていることも悟られてはいけない。それがぼくの為でもあり、きっと彼らの為だから。

    「ぼくがおじさんを殺した」

     救いを求めるように転入生に手を伸ばしたボガートの声をかき消すように、僕は爆発ボンボンを口の中に放り込んだ。
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