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    dondadondadon

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    光オル

    良き友人 凍てつき肌を傷つける風雪に晒され、いつ訪れるとも知れないドラゴン族への防備を重ねる、キャンプドラゴンヘッド。そんな最前線に位置する砦に、よく鞣された柔らかく肌触りのいい革製品が出回るようになったのはここ最近の事だという。
     5年前の霊災以降、急激な寒冷化に見舞われたイシュガルドだが、相次ぐ戦いによる資材不足と伝統を重んじる気風の為に騎士たちの装備が変更される事はなかった。今ではすっかり慣れたとはいえ、手や足先に霜焼けやひどい場合には凍傷をこさえる現実は依然としてここにある。
     身重の妻のため、主よりしばらくの休暇を許された私が久方ぶりにキャンプに戻ると新兵たちはもちろん、ヤエルやコランティオまでもが暖かそうな革製品を身につけていた。彼ら曰く、最近ドラゴンヘッドに立ち寄る冒険者が職人として良い腕を持っているらしく、技術を磨くためと作った品を譲ってくれているようだ。
     口々に親しみを込めて冒険者を褒めそやす同僚たちの姿を珍しく思いながら両手いっぱいに持った大荷物を抱え直し彼らと別れる。長期間砦を離れることを許してくれた主の心遣いにたいそう感動した妻とご両親が、あれもこれもと持たせたそれらは腕の中でずっしりと存在感を放つ。袋からはみ出したワインは相当に上等なもので、主も喜んでくれるに違いないと私は頬を緩めた。主は贈り物を遠慮するだろうけれど、きっと最後には受け取って太陽のように笑ってくれるに違いない。  
     その様子を想像しながら休みで私室にいるという主に向かって歩を進める。件の冒険者も今日は来ているようだったし、あとで姿の一つでも拝んでみようとノックし名乗った扉の中から「戻ったのか!」と弾んだ主の声が聞こえて来た。「すまないが手が離せなくてな、入っても大丈夫だ」と呼びかけられ素直にドアを開けて中に入る。両手が塞がっているので難儀しながら入室するとベッドに腰掛けた主の前に見知らぬ男が1人、膝を折ってひざまづいていた。
     彼は主の晒された足を膝に置き、銀の毛を辿るように膝から脹脛、くるぶし、足先へと手を滑らせている。時折巻尺を出し、ぐるりと計を測っては足元に置いた手帳にメモを取っていく。足の指一本一本を確認するように触れ、つま先を手で覆うように形を確認する仕草を何度も何度も繰り返す。

    「無事に産まれたとは聞いていたが、元気そうで安心したぞ」

     見知らぬ男の狼藉を目の当たりにし、呆気に取られ声を出すことすら忘れている私に、這い回る手を気にすることもなく主は満面の笑みを見せた。混乱する頭で今日までもらった休暇の礼や家族からの言伝(どれも感謝の言葉ばかりだが)、心ばかりの贈り物について伝えると、やはり主は困ったような顔をして一度は遠慮するも最後には受け取って、「ありがとう」と太陽のように微笑んだ。
     そうして主は見知らぬ男の名を呼び「部下がいいワインを贈ってくれたぞ、今夜お前もどうだ」と言って変わらず足をいじくり回す男の頬に一度触れた。メモをとり終えたらしい男はようやく顔を上げ、膝に乗った足を優しい手つきで支えると、傍に置いてあった靴を履かせてから床に下ろした。立ち上がり顔を向けた彼の目が、誠実そうに瞬く。
     我々に比べたら小さい背丈に屈強な筋肉を纏った男がいいのか?と落ち着いた声色で問う。平然とした態度に、先ほどの光景に動揺しているのは私だけのようで、ひどく恥ずかしくなった。
     もちろんだ、と一言いうのがやっとで足早にその場を立ち去るも、最後に振り返った時に見えた内緒話でもする様に鼻を近づけ微笑む2人の姿にまた動揺して、階段を2段踏み外したのは仕方のない事だと思う。
     満身創痍の体で食堂に辿り着き、私の持ち込んだ土産の品をつつく騎士たちに混ざる。疲れ切った私の姿に「どうした?」と心配を隠しもせずに寄ってくる仲間たちにぽそりと「あの冒険者は何だったんだ」と呟くと顔を見合わせた彼らは揃ってこう言った「我々の良き友人、そしてオルシュファン様の特別さ」お前も洗礼を受けたんだなと笑う仲間たちの顔は、このクルザスの地にあっても晴れ晴れとしている。
     そうして新しい風吹くドラゴンヘッドに馴染むのに3日もかからなかった私は、新兵たちが動揺し顔を見せるたびに笑ってこう言うのだ。「彼は我々の良き友人、そしてオルシュファン様の特別だ」


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