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    dondadondadon

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    dondadondadon

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    光オル

    どこまでも遠い人何処までも遠い人

     閉ざした門の遥か先からやって来た、かつて英雄と呼ばれし冒険者。それが、疲れた顔をして、それでも輝きを失わない目で真っ直ぐに我々を見つめて来た男に対する認識だった。
    かの帝国の侵攻を阻み、三国を救って見せた男が今はウルダハの女王暗殺の罪で追われる身とくれば、冒険者に対して憐憫にも似た感情を覚える事はあれど、良い感情など抱くわけもなく。ただ、自分は父の意向に従うことしかできないでいた。
     自分の胸を騒つかせたのは、冒険者を迎え入れるように父に募ったのがあの男だったという点だ。
    銀剣の名を冠する、フォルタン家らしからぬ色彩で立つ腹違いの弟。遠い昔、共に遊んだことも、駆けた事だってあったはずだが、今ではもう思い出せない。
     自分の中にある幼い頃の記憶といえば、父に裏切られたと義理の息子をなじる母の姿と、暗い目をして顔を背けるあの男の姿だけだった。
     私と弟を撫でる優しい母の手が、微笑むその顔があの男によって歪むことに耐えられなくて。いつしか自分はオルシュファン・グレイストーンという男を心の底から嫌悪するようになっていた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     イシュガルドの中でも名門と名高いフォルタン家の邸宅は広く、各所に大きな窓が備え付けられ皇都の街並みを一望できた。そんな邸宅の奥の奥、人のあまり寄り付かない小部屋の前にひっそりと街並みをうつす、一際大きな窓がある。そこから見る街並みは荘厳で美しく、いつでもざわつく心を慰めてくれた。
     だから珍しく邸宅に長居するあの男が気になり、どこか落ち着かない心を持て余していたから、いつものようにその窓辺で微睡もうかと足を向けた。

     足音すら飲み込む柔らかい絨毯の上を進みながらふと目的地に目を向けると、何処からか持ち出されたソファーに背を預け、厚い雲と雪に覆われた営みをぼうっと見ている冒険者の姿があった。
     お気に入りの場所を取られたからといって怒るほど狭量ではないが、一角にやけに馴染むその姿が忌々しくて踵を返そうとした時、静かな足音が一つ、自分の居る廊下とは逆の方向から現れた。
     何処となく気まずく、そっと壁の影に隠れた私が見たのは、ホーバージョンを脱ぎ幾らか軽装になったあの男が、両手に持ったマグを揺らしながら冒険者の側に腰を下ろす姿だった。
     人の手を決して借りようとしないだろうあの男が自ら用意したであろう、普段フォルタン家で好まれる紅茶よりも少しだけスパイシーな香りを漂わせたマグを渡すと、冒険者は今まで呆けていたのが嘘のように暖かな笑顔をあの男に向けた。
     初めて見た時と変わらない強い光を灯した目を甘く緩ませて肩が触れる距離にあの男を招く。それを嫌がるどころか、嬉しくて堪らないとばかりに嬉色を纏わせたあの男は肩も足もしっかりと触れ合う距離に身を直した。肩をよせ取り止めもなく会話をしている2人を自分は動くこともできず、自分はじっと見つめていた。
     時折自身より少しだけ低い位置にある旋毛に顔を寄せるあの男に応えるように、片手で薄い頬を撫で、そのまま鼻同士を擦り合わせて冒険者は目の前の男を愛おしげに見つめている。
     我慢が出来なくなったとばかりに深く鼻を触れ合わせる二人の唇がついには重なって、啄むようなリップ音とあの男の頬を撫でる仕草。そうして一度離された唇がもう一度繋がって、微かな水音が交わされたことに気がついて、ようやく固まっていた私の足は動き出し、もつれるようにその場を後にした。

     私は、あの男のあんな姿をこの日初めて見たのだと思う。母はもちろんだったが、父も積極的に息子たちに触れる性分ではなかったし、私も含めた家のものはどこかあの男を遠巻きに見ていた。   
     アインハルト家で共に遊んでいたというエマネランとあの男の親友だというフランセルはわからないが、少なくともこの家の中であの男がこんなにも他者触れ合うことはおそらく初めてだったのだろう。あの姿はそれ相応の衝撃とひどく胸を刺す嫌悪感を抱かせるには十分だった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     人のあまり寄り付かない小部屋の前にひっそりと街並みをうつす、一際大きな窓の前。晴れ渡った蒼天の日差しを受けて、英雄殿が微睡んでいた。そこに弟の姿はなく、かつての姿を模した機械人形が寄り添うように英雄殿の横に座り腕に頭を預けている。
     かの帝国の侵攻を阻み、三国を救って見せ、ウルダハの女王暗殺の罪で追われた冒険者は、今や1000年の遺恨を断ち切りイシュガルドすら救ってみせた。
     前髪を下ろすとより弟と似た顔になる私を見て、一度だけ酒宴の席で涙を流した彼を見て、惹かれていると気がついた時には全て遅かった。私には彼を慰めることも、励ますこともそばにいる事さえ許されなかったのだから。それ弟にしか許されなかったことだった。
     世界を巡り救い、その疲れを癒すようにこの窓の前に座る彼に、私は生涯寄り添えることはないのだろう。こんなにも近くにいるが、彼の心は何処までも遠い場所にあった。

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