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    dondadondadon

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    光オル

    自慢の娘 甘い匂いと、華やかな飾りで彩られた季節になると父はいつも忙しそうに街の中を駆け回る。季節が巡る度誰かが父を呼び助けを乞い、父も満更ではなさそうに手を貸すのだ。そして、その日を私はいつも待ちわびている。
     いい匂いのする花束に、父が作ったのであろうチョコレートというお菓子、冒険の中で手に入れた珍しい品々。それらを私の背負うカバンに隙間なく詰め込み、「今年も任せたぞ。母さんによろしく伝えてくれ」そう言って頭を撫でる父の声が何よりも好きだった。 いつだって先を走る父と兄の背中を追ってばかりの私が、父から任される年に一度の大仕事。やる気に満ちて跳ね回る私を見て、兄は黄色い頭を震わせて笑った。バカにされたようでどこか悔しく、鼻を鳴らしてそっぽを向くと兄は謝り額をこすり付けてくる。その仕草を合図に父は兄と共に人々の元へ、私は2人に背を向けて母の元へと駆け出した。
     暖かな森を慣れた足取りで抜けると、やがて冷たい大地に包まれる。生まれ育った土地の感触に懐かしさを喜びを感じつつ、一直線に、ひたすらに家を目指した。目の前に家の大きな門と入口でいつも迎えてくれる母の部下が見えてくる。大きく一声かけると、母の部下は家の中に何かしら叫ぶと大きく手を振り道を開けた。
     自分のために開けられた道に気を良くして滑り込むと、母が大きな両手で私を抱きとめる。いつぞや父を乗せて雪の中に突っ込んだのを覚えているのか、母は私がはやるとき、怪我をしないようにと手網を引いていつしか抱きとめてくれるようになった。
     私を育てた強くて立派な群れのリーダーである母は、待っていたぞと嬉しそうに笑う。わさわさと黒い頭をひとしきり撫でられるのを堪能した後、背を向けて荷物をアピールした。私の任務は母にこの荷物を渡すことなのだ。任せてくれた父の期待に応えるべく数度ステップを踏むと、母は荷物に手をつけた。
     花束を受け取り香りを嗅ぎ、チョコレートを見て笑い、最後に荷物の中に入っていた紙を手に取り、熱心に読み耽る。
     そうして、母はとろけるような笑顔になり「…お前の父上は元気にやっているようだな」と私に仕事の終わりを告げた。
     達成感に震える私を片手で撫でながら母は何度も何度も紙を読み返し続けた。鼻の頭を真っ赤に冷やしながら父の名残を目に焼きつける母は、「オルシュファン様、そろそろ中に」と兄とおなじ髪色の部下に呼びかけられるまでこの場から動くことは無かった。母と触れ合える貴重な時間を奪われて恨めしく思うけれど、部屋に入っていく母が楽しそうだから私も楽しい。
     寝床に戻りうつらうつらと目を閉じながら思う。ひとつわがままを言うならば早く父と兄が帰ってきて、遠駆けのひとつでも出来ないかなと言うのが目下、私の願いであった。
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