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    dondadondadon

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    dondadondadon

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    穴熊転×セバ
    人の視線を恐れるセバの話
    (闇の中クエネタバレ満載)

    可哀想なセバスチャン・サロウ 叔父を殺したあの日から、あんなにも輝かしいホグワーツでの日々は途端に色を無くして、ただ己の心を蝕むばかりになった。
    決闘常勝、罰則常習犯だけれども憎めないスリザリン生、そうして親しまれてきたはずの男が今や可哀想なセバスチャン・サロウだ。妹は呪いのため遠くへ去り、叔父は不幸な事故で亡くなった。親しかった生徒も先生も皆一様にセバスチャンへ憐れむような目を向ける。その視線が叔父の死の真相を知った時どう変わるのか、どんな言葉を投げつけられるのか、考えるだけでも血の気が失せた。
    罪を忘れてはいけないと思いながら、アズカバンに送られる事を心の底から恐れている。そんな惨めで、情けない身を活気溢れる校内に置くだけで痛む胸をもはや隠すことも出来ず、あの日以来人目を避けて生きていた。
    今や落ち着ける場所と言えば転入生の隣だけだ。出会った頃から変わらない態度で隣に立ってくれる朗らかで、いつの間にか恋仲になり交わった愛しい男。
    必要の部屋の中、魔法生物を飼育している草原で座る彼の膝に頭を預けて横になる。その頭に手が触れ、彼と出会った頃より幾分もきしんだ癖毛を優しく梳かす感触に目を閉じる。彼だけが……セバスチャンが叔父を殺したことを本心では悔いていない事を知っている。妹を失った事だけが本当の後悔だと知っている。それでもたった1人、転入生だけがそんなセバスチャンでもいいと言った。衝動を抑えきれず彼の前で癇癪を起こした日に「君のした事が正しいとはきっと言えない。でも君がしていなければきっと僕が」そう言って転入生はセバスチャンに微笑んだ。縋るように握りしめた彼の腕には叔父の炎に焼かれたケロイドの跡がある。本当は消せるだろうその跡を彼は消さなかった。叔父を殺さなければ転入生が、もしくはセバスチャンが死んでいたのだと見せつけるように引き攣れた醜い焼け跡はそこにある。
    流石ハッフルパフと言うべきか、転入生のセバスチャンへの忠誠心は相当なものだった。オミニスすら説き伏せ彼が罪人を守り囲うのは、ただセバスチャン・サロウのことを愛しているからだというのだ。

    腹の上にのそりと何かが乗る感覚に過去へと飛ばしていた意識を戻す。瞑っていた目を開き腹の上に目をやると黒ぶち模様のムーンカーフが1匹気持ちよさそうにくつろいでいる。
    「その子は君のことが大好きみたい」
    髪を梳かす手はそのままに転入生は穏やかな声色で言った。
    「彼女を保護してすぐの頃に君が根気よくブラッシングしてあげてたでしょ」
    「ああ、あの時の子か」
    ほんの数ヶ月前なのに随分昔のように感じる穏やかだった頃のひと幕、妹の呪いを解くのだとかけずり回ながらも充実していた最後の日々の記憶だ。保護してくれた転入生にすら警戒を露わにしていた汚れまみれだったムーンカーフと睨み合い、櫛も通らないほどの毛玉で絡まった毛並みを根気よく梳かした。いつしか警戒を緩めて愛らしい目で続きをねだっていたあの姿が懐かしい。ここ最近痛むことばかりだった胃が甘えるムーンカーフの熱でポカポカと温まる。思わずほっと息をついて顔を転入生の腹に埋めた。
    頭上で低い笑い声が響くけれれど知ったことでは無い。彼が与えるこの安らぎをできるだけたくさん享受していたかった。
    「ねえセバスチャン、僕とデートしよう。そうだな…ホグズミードとかどう?」
    その言葉に驚いてセバスチャンは飛び起きる。腹の上で微睡んでいたムーンカーフが抗議するように鳴くので謝りながら頭を撫でてやるけれど、内心それどころではなかった。なにせ転入生は人の目に付く場所でセバスチャンの恋人のように振舞ったことがない。

    マグル生まれの彼は同性同士で愛し合うことをそれこそ罪だと教えられて生きてきた。魔法族、特に自分のような血統にこだわりがない家系なら結ばれるのが同性だろうと関係ないと教えるまで、恋人になった後は友人の距離感だとしても彼は頑なに人前での接触を避けようとしていたくらいだ。
    常識を擦り合わせてようやく「君を傷つけるのでなければ良かった」そう言って心底安心したように太く形のいい眉を下げた。それでも何かと話題になる彼はセバスチャンが揶揄されることを酷く嫌って今に至る。つまり人前でデートをした事がなかったのだ。
    「君、それは」
    「駄目?」
    碧の目が乞うようにセバスチャンを見る。彼はセバスチャンに見つめられると断れないなんていつも言うけれど、彼の目の方がよほどタチが悪い。
    「ダメじゃないけど……」
    「じゃあ決まり」
    明日の授業が終わったらホグズミードの入口で待ってるからね。
    そう言って転入生はセバスチャンの頭をもう一度膝の上に乗せると先程と同じように髪の毛を梳かしはじめた。どうしていきなりデートなんだと聞く暇すら与えられなかったけれど、授業の後というのはセバスチャンにとって魅力的だった。人目に晒されることにストレスを感じているけれど日が落ちた後なら気にしないで済む。そこまで考えた後、セバスチャンは思考をとめる。明日のことは明日考えればいいとセバスチャンは転入生の腹に甘えるように頭を向けて目を閉じた。

    ーーーーーー

    セバスチャンが授業を終えてホグズミードの入口に着いた時、既に転入生は石垣の上に腰掛けやけに手に馴染んでいる本に目を通していた。カラフルな表紙に可愛らしい挿絵の踊るそれは魔法界でよく知られる童話の本で、少し前にセバスチャンが転入生にプレゼントしたものだった。魔法界の童話を知らないと言う彼のために記憶にある物語を即興で語り聞かせた時、転入生があまりに楽しそうに聞くものだから。なけなしのお小遣いをはたいてそこそこ値の張る本屋で1番美しい装丁の本を彼に贈った。
    「君、またそれ読んでるのか」
    どかりと隣に腰掛けて声をかけると転入生は嬉しそうに視線を向けて微笑んだ。
    「何度読んでも飽きないよ」
    待ち人がやってきた転入生は吟遊詩人ビートルの物語と箔押しされたタイトルをなぞり宝物を扱うように丁寧にカバンに収める。
    自身が贈ったものを大切に扱われるのを見るのは少し照れくさくて誤魔化すように頬をかくセバスチャンに転入生は手を伸ばす。彼の手が、握り返されるのを待っている。
    人の営みを横に感じて怖気付きそうになるけれど、薄暗くなる街並みを言い訳に震えながら彼の手を取る。
    優しい温度が緊張で冷えた手を温めた。転入生の手に引かれるまま授業中にしたくだらない失敗の話や禁書の棚にあった興味深い古書、学校で流行りのイタズラグッズの話なんかを2人して笑いながら続けた。笑いすぎて顔が真っ赤に染まる頃、目の前には消灯ギリギリまで楽しもうとする生徒たちでひしめく三本の箒があった。どうやらデート先はここらしい。入口に入る前にするりと繋いでいた手を離す。転入生はちらりとセバスチャンを見たけれど、結局何も言わなかった。
    「やあシローナ、席は空いてる?」
    転入生は慣れたようにカウンターの中にいる店主に声をかけると、「もちろん、ちゃんと空けてるよ」と彼女はカウンターの右端の席を指さした。やけに見覚えのあるその席は、確か。
    「君と初めて来た時に…」
    「うん、あの時はゆっくり出来なかったから。だから初デートにはピッタリだと思わない?」
    と転入生は茶目っ気たっぷりに目を細めた。目の前に運ばれて来たバタービールの泡をこぼさないように掲げて転入生とセバスチャンは乾杯と小さく口にしてグラスを合わせる。他の生徒がそうするように口の周りに泡をつける転入生は厚い舌をペロリと出して泡の髭を舐めとっていく。
    そんな姿が愛おしくて、ここが人前でなければ拭ってやったり、キスのひとつでもできるのにと心で呟きながらセバスチャンもぐいとグラスを傾けて立派な泡の髭をこさえた。
    転入生に倣って泡を舐め取ろうと口を薄く開けた瞬間、不意に転入生の顔が近づき泡を舐められた。そうして声をあげる時すら与えられず、驚き固まるセバスチャンの唇に転入生は口付けた。
    いつの間にか添えられていた手が優しく頬を撫でる。
    転入生とキスをしている、それも人前で。そう理解した瞬間、セバスチャンの体がどんどん冷えていき、先程まで騒がしかった店内はどことなく静寂に包まれているような気すらした。ここ数ヶ月避け続けてきたいくつもの目が、自分たちに突き刺さる。
    「転入生っどうして!」
    ああ、見られている。恐ろしくてたまらない。
    「…僕とキスするのは嫌い?」
    「そうじゃない、けど、君は……誰か分からないだろうけど、あそこにいるのは噂好きの6年生だ」
    それもスリザリンの!
    それだけじゃない、奥の席に見えるのはセバスチャンと折り合いの悪いグリフィンドールのリアンダーだし、肖像画のフェルディナンドすらうるさいくらいの自慢話を止めてこちらを凝視している。
    「もちろん、知ってるよ。きっと今夜には僕たちのことでホグワーツ中大騒ぎだろうね」
    「だったらどうして」
    君は僕が人目から逃げてることを知っていたじゃないか、匿ってくれてすらいたのにどうして。
    1番信じていた恋人の裏切りを感じて涙目で転入生を見つめる。バタービールの泡を不格好につけたまま、こぼれそうになる涙を転入生の指がいたわしげに拭っていく。
    「これで、少なくとも君のことを探るような目で見るやつは居なくなる」
    そう言ってセバスチャンの口元に残る泡をもう一度舐めて唇にキスをした。
    「君は今日から僕とキスしたスリザリンのセバスチャン・サロウになるんだ」
    だからもう怯えないで。そう言って机で所在なくさまよっていた手を転入生は慰めるように包み込む。いつも柔らかく絡むその手が緊張に強ばっている。15年の間に刷り込まれた常識に反した行動を取るのは転入生をも酷く緊張させていた。
    それでも転入生は恐れを捨て、衆目に二人の関係を晒すことに決めたのだ。人からの視線に怯え、周囲から孤立し親友であるオミニスすら遠ざけようとするセバスチャンがただ以前と同じように過ごせるようにという願いが、彼にここまでさせたのだ。
    冷えていた身の内に火が灯り、転入生の献身に体の震えが抑えられなかった。

    ああ、彼に愛されている。守られている。

    そう思った途端、酷く心を苛んでいた人々への怯えは、嘘のように霧散した。自分は今日から転入生の恋人のセバスチャン・サロウになるのだから。何を恐れることがあるのだろうか。だから、堂々と請われるままに、彼に全てを差し出せばいい。
    そうして恐怖が消え去ったセバスチャンはうっとりした目で転入生を見つめると頬を撫でる手に応えるように彼の唇にキスをした。

    可哀想なセバスチャン・サロウはもうどこにもいなかった。
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