8月支部編 0月「歪み」ある昼下がり、ゆずの木支部の職員達は今日も死屍累々の中で働く…
「───ん?なんでしょう、あれ…」
ゴンザレスは何か不思議な物を見つけた。
それは黒い歪みで、見ているだけでも吸い込まれそうだ。
「ゴンさん、それ触らないでください」
後ろにいたレンが、怪訝な顔をして言った。
「触りませんよ。見るからに危険ですし…。
それにしてもなんですか?あれ」
「あれは…僕もよく分からない。
でもあれが僕らをどこか別の場所に飛ばすことだけは確実です」
「なるほど…?」
「しかし、あれ危ないですね。カラーコーンとか置いて誰も入れないようにしたいですけど…」
ブーーッブーーッブーーッ
何かが収容違反を起こしたようだ
「っ!こんな時に!?」
そう言ったレンの後ろには、既に大量の蝶の群れが。
「レン!!」
ゴンザレスがピンクを構える。
レンは爆発魔法を唱え、大半の蝶たちを吹き飛ばした。
しかし、レンは後ろで大きくなった歪みに気づけなかった。
着地したはずの床の感触がない
「うわっ!しまっ…!」
「大丈夫ですか!!」
「ゴンさん!来たらダメだ!!
管理人Hを呼んで!!あいつなら、あいつならどうにかする!!」
そう言ったレンは歪みの中へ消えていった。
「レンーーー!!!」
ゴンザレスの叫び声が廊下に響く。
すぐに、死んだ蝶の葬儀の鎮圧を終え、焦りを抱えつつゴンザレスは管理人ルームへと走った。
────────────
「待って、どうして…なんで急にいなくなって!?」
管理人Hは、パソコンの画面を張り付くほど必死に見ている。突然いなくなったレン、パウリヌス、エデン、アラン、アラの行方を追っているのだ
「どうして突然ゴンちゃん以外のハイランカーとレンくんが?
フィルター越しじゃ見れない何かがあるのか?なら現地に行かないと…か?」
椅子に掛けていた上着をとって、身支度を始める管理人H。
「ちょっと行ってくる。ゆずさんあと頼むわ」
「わ、わかった!こっちも色々調べてみる」
このゆずの木支部の管理人、柚木さんこと管理人Yも、かなり焦っているようだ。
そりゃそうだ。大量の職員が原因不明の失踪なんて、落ち着いていられる訳がない。
しかも、突然消えた挙句、セフィラ達の応答がないんだ。異常事態以外の何物でもない。
管理人ルームから出ようとした時、その愛くるしい青色は、息を切らしながらこの部屋に入ってきた。
「管理人!管理人Hはいますか!」
「ゴンちゃん!!」
「ゴンザレス!!」
「ゴンザレス!無事!?」
「ゴンちゃん、何があったか教えてもらえる!?」
「───はい」
息を整え、ゴンザレスは私達に状況を説明してくれた。
──────────
「なるほど…。要は時空の歪みが発生してんのか……」
管理人Hの見えないはずの顔が険しくなった。
「時空の歪み?」
管理人Yは首を傾げた。
いつも真剣に管理人しているが、今日は一段と真剣な顔つきをしている。
「うん。まぁあれだ。最近、ルナちゃんとかルミナちゃんとかがこっちに来るようになったでしょう?
それで、その……頻繁に世界を繋ぎすぎたせいで、時空の歪みが発生しちゃったんだね…」
管理人Hは少し申し訳なさそうだ。
世界と世界を繋ぐのが自身の魔法だから、罪悪感があるのだろう。
「それで、レン達はその時空の歪みに巻き込まれた……ってことですか?」
ゴンザレスは不安そうにしながらも、冷静に話を聞く。流石としか言いようがない。
「そういうことになる。
おわぁ〜…どのみちまっずいなぁ…」
管理人Hは頭を抱えた。
「何がまずいの?」
管理人Yが管理人Hに訪ねる。
「ええとね…時空の歪みに巻き込まれたら、どこかしらの世界には繋がるんだけど、それがどの世界かわっかんないんだよ…
だから、もしかしたら全く別の、危険な世界にいたりすんのかも?」
「それまずくないですか!?」
「だからまずいっつってんじゃん?」
案外あっけらかんと出された情報に、二人はひどく戸惑っている。
「どうすんのそれ!?どうしよ、ゴンザレス以外のハイランカー全員そっちに……というか戻って来れるの!?」
「Yさん、落ち着け。
どこの世界にいるのかが分かったら、迎えを出しに行けると思う。だから……」
「でも肝心のどこなのかが分からないんじゃ意味ないじゃないですか!!」
ゴンザレスのもっともな言葉に「そうだよなぁ…」としか言えない管理人H。
「そう、だからね?
今から私が時空の歪みの中に潜って、どこの世界に行ったのか辿って来る」
「それ、大丈夫なの?」
ゴンザレス以外のハイランカー達が巻き込まれて戻って来れないということは、相当危険であるということを物語っている。
それで心配している管理人Y。しかし管理人Hは…
「ワンチャン帰って来れない⭐︎」
…軽くこんなことを言うのだ。
「ダメじゃないですか!!」
ゴンザレスが強めにツッコミを入れる。
今はそんな軽口を言える状況ではないはずだ。
「いやでもそれ以外に方法が……」
管理人Hがそう言った時、管理人Hの携帯が鳴り始めた。
「なんだよこんな時に────ってオデリ!?」
「?どなたですか?」
「……えっと、うちの支部、8月支部の職員……」
「え?」
「ちょっとごめん!出て来る!!」
そう言って管理人Hは部屋から出た。
「ちょっと、待ってください。管理人Hってここの管理人じゃなかったんですか!?」
ゴンザレスが驚いた様子で管理人Yに聞いた。
「あれ?言ってなかったっけ?はづさん…Hさんはここの支部の人じゃないよ?」
「え、えぇ?それってここにいて大丈夫なんですか?」
「…まぁいいんじゃない?アンジェラさんが許可してるんだし…」
「えぇ…?」
それでいいんですか、アンジェラ様…とゴンザレスは思った。
その時、
「 「 「
ま じ で ! ! ? ?
」 」 」
管理人Hの馬鹿でかい声が管理人ルームにも届いた。
「え、うるさっ…。なんかあったのかな?」
管理人Yがそう呟いた時、管理人Hは笑いながら部屋に戻ってきた。
「ふっふふふふふふふふふふふふふ…」
「大丈夫ですか、管理人H…。何があったんです?」
ゴンザレスが心配そうに聞くと…
「 「 「
我 々 は 勝 利 を
手 に し た ー ー ー ! ! ! !
」 」 」
管理人Hは先程と同じ声量でそう言った。
「は?え?勝利??」
管理人Yは困惑している。
「そう!勝利したんだ我々は!!」
満面の笑みでそう言った。
「どういうことですか?」
ゴンザレスが説明を求める。
「ごめんごめん。ちゃんと説明するよ。
今こっちの職員オデリと話してたんだけど、
どうやら8月支部にみんながいるらしい」
「 「 本当(ですか)!?!? 」 」
ゴンザレスと管理人Yの声は廊下にまで響きそうだった。
「うん、それで…オデリ、今アランちゃんとアラちゃんと一緒にいるんだよね?」
『はい、そうですよ〜!』
『ゴンザレス〜!そっちは大丈夫!?』
電話の奥から明るい青年の声と、聞きなれた明るい声が聞こえる。
「アランさん!!アラさん!!」
「アラン!アラ!無事!?」
『私もアラもなんともないですよー!』
『大丈夫』
アラン、アラのいつも通りの声を聞いて、ほっとするゴンザレスと管理人Y
『ほかの皆さんもこっちに来てるはずなので、探して保護しますね』
「オデリ、頼んだよ!!というわけでゴンちゃん、向こうまで迎えに行ってくれないかな?
今日の業務はもう一旦終わりにするから」
ポータルはこれね。と、管理人Hは空間を歪めて扉を出現させた。
「分かりました、行ってきます!」
「 「 行ってらっしゃーい! 」 」
管理人2人に見送られながら、ゴンザレスは扉の奥に消えていった
「さて、オデリ。ゴンちゃんそっち行ったらよろしくね」
『はーい!』
そうして管理人Hは電話を切った。
「ふぅーっ……あとアンジェラに報告して……歪みの消去?あぁーーー……」
管理人Hは天を仰いだ。
「報告私しとこうか?はづさんは早くあれ消してきなよ。二次被害が出るかもだし」
「おん、せやな。じゃあ頼んますわ」
「はいよー」
管理人達は、それぞれの業務に取り掛かろうとした。
その時だった。
「あっあーーーーーーーー!?!?!?」
「なになに突然どうしたはづさん!!」
「あっばばばばばばばは……
オデリーーー!!!!」
再び管理人Hが職員オデリに電話をかける。
『はい、こちらオデリで…』
「おおお、
オデリオデリオデリオデリオデリオデリオデリオデリ!!!!
落ち着いて聞いてくれ!!!!」
『……管理人、まず貴方が落ち着いてください』
「あ!!ごめん!!」
管理人Hは深く深呼吸した。
「ふうっ…それでなんだけど、
オデリ、今どこにいる?」
『えっ今ですか?今は……
コントロールチームにいますよ』
「コントロール……」
管理人Hの顔が青ざめる。
「オデリ、絶対にレンくんとゴンちゃんはコントロールチームに入れないで!!」
『??
は、い。分かりましたけど……なぜ?』
「……神未満が脱走するかもしれねぇ」
『は!?神未満が!?』
「特に、特にレンくん。レンくんは近づけちゃいけねぇ!!!
レンくんはさ……償いの亡霊なんだよ…」
『??
それは……どういう……』
「オデリさ、今報告書見れる?
見れるなら償いの亡霊の報告書見てほしんだけど…」
『え、あ、はい……』
電話の奥から、「どうしたんだろう?」とか、
「またなんかやらかしたの?」とか言う声が聞こえる。
『!!
か、管理人……これ……』
「あ、見つかった…?」
『は、い……多分。え、これ……そういうことですよね…?』
「うん、そういうことです……」
『まずくないですか!?』
「だからまずいって言ってんじゃん?」
電話の奥からかなり切羽詰まった声が聞こえる。どうやらアラン達もこのことを把握したようだ。
『すぐにレンさん見つけて保護しますね!!』
『私達も協力します!!』
「ありがとうみんな。
最優先で頼む」
『はい、それでは失礼します!!』
電話が切れた。
「……えっと、どういうこと?」
管理人Yは不思議そうな顔で管理人Hを見た。
「あぁそうだよね!説明しますわ!!」
管理人Hは、8月支部に収容された幻想体達について説明した。
「待って?それやばくない!!??」
「だからやべんだって…。
最悪の場合……
……全員、ここに帰って来れなくなる─────」
8月支部編、開始!