シュウに彼氏ができるかも、なんて考えたくもなかった。だってオレたちはずっと仲良しの友達で、大親友で、誰もその間になんか入れないと思っていたから。
「はあ………」
「………」
もう何度目かもわからないため息。ミスタも、もう何回もオレの話を聞いてくれたから、いまさらつっこんでもこない。
そう、最近ずっとオレは元気がない。先週、シュウが知らない先輩に告白されているところを見てしまってから。
告白されたシュウが、満更でもなさそうに笑って、指で髪を耳にかけたんだ。オレはその仕草がなんだかとても女の子っぽく見えて、自分の知らないシュウに驚いて、すぐにその場を離れた。
シュウがなんで返事したのかはわからない。だから、もしかしたら、考えたくもないけど、もうシュウはあの人の彼女になってるかもしれない。
「………みすた」
「ハイハイ」
「………」
「言わねえって! そんな気になるなら直接聞けってば!」
ミスタはシュウの双子の弟だ。結果を知ってるかも、って何回も聞いてるけど、それに関しては頑なに教えてくれない。自分で聞けって言うんだ。…でもさ、それができたら苦労しないよ。
臆病者ってみんな笑うかも。でももしシュウに彼氏ができてたらオレはどうすればいい? もう一緒に帰れないのかな? 二人でゲームしたりも? オレとの約束より、彼氏との約束を優先したりするの?
考えただけで悲しくて、視界が滲む。ミスタに見られたくなくて、唇を噛んで俯いた。
男らしくない。わかってるさ。でも、どうすればいいかわからない。シュウを失うのが怖い。どうしてこんなに怖いのか、わからない。
「ルカ」
シュウの声。どうやら幻聴まで聞こえるようになったらしい。重症だ。
今日はもう帰ろう。ミスタには悪いけど、一人になりたい。荷物だけ家に置いて走りにいくのもいいかもしれない。
溢れそうな涙をなんとか引っ込めようと頑張る。泣き顔なんて誰にも見られたくない。
「ルカ、泣いてるの?」
涙が引っ込んだ。シュウがオレの顔を覗き込んできたのだ。耳に髪をひっかけて、大きな目をぱちぱちさせる。オレと目が合うと、口角が上がって、目が細められた。
「泣いてないじゃん。よかった、ねえ一緒に帰ろうよ。最近全然ルカいないんだもん」
「な…っしゅ、え、」
「ああ、ミスタに聞いたんだよ。ルカ元気なさそうだし、僕から逃げるし。どうかしたのかなって。じゃあ直接話せってミスタが」
「おら、直接聞けって」
「うん?」
シュウが首を傾げる。久しぶりに対面するシュウに緊張する。シュウってこんなに小さかったっけ、こんなにいい匂いしたっけ、こんなに目大きかったっけ、こんなに、可愛かったっけ。
「ぁ…あ、えと、ふは、は、あはは」
「?」
なんとか誤魔化そうとするけど、うまくいかない。不思議そうな顔をしたシュウが、オレを見上げる。いつのまにかミスタはいなくなっていた。
「い、一緒に…か、帰…る? ふふ、ははは」
「? うん、そうだね、行こう」
そうだ。バイバイするまでに、なんとか聞き出そう。シュウに彼氏が、できていませんように。