あいしてるっていわないで持ち寄りのディナーなジャンクフードから、思い思いに開け始めたつまみのお菓子。そこから当然酒が入ってきて、五人で同居中のリビングルームはやや混沌の体を見せ始めていた。
誰が言い出したのかもわからない、いつの間にか『愛してるよゲーム』が始まっていたのだ。
ミスタがすごく可愛こぶりながら「愛してるよ…俺にはアイクだけだからさ…」と告げたなら、「ありがとうミスタ。まぁ…君の心には昔から他の誰かが居るんだろうけどね…」と何かドラマティックな何かが起こっている。
『愛してるよゲーム』ってこんなだっけ?と胡乱に眺めながら、照れたり笑ったりしてしまって負け判定にならなければいいかと思い直した。
いやこれ確実に悪ノリのミスタから始まってるな、とアルコールで回らない頭が今更解析したところで、隣りにいるシュウにアイクがとても優しい目を向ける。
なんとなく、この組み合わせの掛け合いを聞きたくない。ルカはわざとポテトチップスを数枚まとめて口にバリバリと放り込む。そして炭酸のきついビールを煽って、今度は違うフレーバーのチップスの蓋をガボッと音を立てて開けた。
「ルカ、るぅかぁー」
つんつん。呼ばれて肩を突かれてそちらを見ると、アルコールにほんのり頬を赤くしたシュウがじっとこちらを見上げている。
いつもより無防備にふにゃふにゃと笑っていて、控えめに言って最高に可愛かった。あまりの可愛さに声も出ずに凝視していれば、彼の手のひらがルカの胸元にぺた、と触れる。
「僕らの番だよ。えーと、ね」
いつもほほ笑んでる形の唇が、ゲームの文言を作ろうとした瞬間。ルカは咄嗟に、手を出していた。
「!?」
「あっ。あああ〜〜…ちょっとまってタイム」
ぱふっと、両手のひらでシュウの鼻から下を覆って、且つ喋れないように押さえてしまった。
ねこだましをされた猫のように目を丸くして固まってしまった彼へ、また言語化できそうにない気持ちを持て余す。
なにこれ。なんだこの気持ち??
まだ愛してるよとは言われてないから、とりあえず負け判定ではないけれど。今はそれどころじゃない。
どうやったらこの場を乗り切れるのか、それだけが知りたかった。だって、
「んふ?」
「あああ、」
手のひらの向こう側から、ルカ、と名前を呼ぶ熱い吐息がする。それにまたぐるぐるとした感情が迫り上がってくる。あの、口の端がきゅっとあがった、かわいい口元が、今この自分の手にかすかに触れて、喋っている。
こちらの動揺に反して、むと顰められる眉は、不満げになんで?と問いかけてきていた。
てしてしっと腕を叩いてくる指先さえもうかわいい。
「ち、違うんだよ、シュウ」
「……、む?」
「言われたくないんじゃなくてっ」
「?」
「あっ、そうだよな、シュウにはよくわからないと思うんだけど!」
「??」
「こんなゲームとか冗談で言われたくないんだよ!!」
「???」
「シュウから、だけは。
ほんとの愛してるがいい!」
叫ぶように言い放ってから、あれ俺今なんて言った?と、男は一気に正気に戻った。
自然と落ちていた視線を上げれば、零れ落ちそうな程に見開かれたアメジストの瞳。目の前の呪術師の見える肌すべては、真っ赤に染まっていて。
先程まで居たはずの悪ノリの同居人3人の姿は、いつの間にか消えていた。