近くのホテルのカフェに朝食を食べに行く。休日の、たまのささやかな楽しみだ。
海を眺めるこのホテルはクラシックホテルとして知られており、観光客も多く訪れる。気が向いたときに散歩がてら歩いてそこに行き、ちょっとした非日常を味わう。
これまでは一人で通っていたそこに、今は連れと共に通っている。
「またたくさん盛ってきたな」
連れの男…うちの居候がプレートに色々積んで戻ってくる。白ごはんと佃煮、炊き込みご飯。みそ汁、そしてスクランブルエッグにソーセージ。
「全部、食べる」
「無理だよ。そう欲張るものではない。あと、野菜を食べろ。主治医の指示だ」
「野菜……草のあじ…」
小さくぼやく男にサラダの小皿をおしやる。どうせ食べないと思い、先に用意しておいた。それを仕方なさそうに受け取り、しゃくしゃくと食べ始める。小気味いい音をたてて食べる姿は、なんだか少し動物っぽい。
「せんせ、何、持ってきた?」
「パンとポタージュとスクランブルエッグ。ここのパンは旨い」
しっかりと固く食べごたえのあるパンは、海外での生活を思い出させる。たまにその頃を思い出したくなると食べに来る、という思いもあるのだ。
あの頃抱いていた夢は破れ、希望とはずいぶんかけ離れてしまったが…今の暮らしはなかなかに気に入っている。
「せんせ、食べるのゆっくり」
いつの間にか先ほどのプレートを空にした居候が次のを持ってきていた。
今度は甘いもの尽くしである。そのうちのいくつかをこちらに寄越した。
ヨーグルトとシリアルとスプーン。居候はそれだけ置いて座ると、パイナップルをうまそうに食べた。
「せんせの、いつものやつ。今日は、いちごヨーグルト」
「ありがとな」
…朝から、互いの食事を気にかけるような相手がいる。これもまた、あの頃には想像もしていなかった幸せの姿だ。まさに禍福は糾える縄の如し、である。