白菜ロール 竜三が台所に立っている。肩まで伸ばした髪をポニーテールに結わえ、慣れた手付きでいくつもの鍋を同時に面倒見ていく姿もすっかり見慣れたものだ。
竜三に部屋を貸す代わりに、家事全般を任せて家賃を割り引く。こちらとしては面倒な家事を外注でき、竜三は良い環境で食べたい飯を好きに作れるという利害が一致しての下宿だ。
そのおかげで、以前より健康的になり、弓も心行くまで鍛練できるというものだ。
「センセ、そろそろ飯できるぞ」
「そうか」
胴着のままのこちらに、振り向きもせず言う。全く、自分で作らずともうまい飯が出てくるとは最高である。
シャワーの後にテーブルに行くとすでに皿が並んでいた。
「今日はロール白菜と、なめこのみそ汁と冷奴。あと黒豆」
皿の上に二つずつ、白菜の俵が鎮座する。
「ロール白菜とはなんだ」
「今キャベツたけーから白菜で肉を巻いた。半分で400円近くすんだぜ?」
キャベツ半分400円が高いのか安いのかはよくわからん。
竜三がいなかった頃は、割引の品などを買うことはついぞなかったのだ。
一人暮らしでは消費するのに数日はかかるため、期限はなるべく長いものを買うか、その日限りで食って終わるものばかりだった。
おかげで冷蔵庫のなかはつまみと酒ばかりであり、初めて竜三が中を見たとき、センセ何食って生きてんの?と言われたものだ。
白菜を箸でつまめば、そのまま難なく切り分けることができた。トロリと柔らかく溶けた菜の中には、肉がしっかり詰まっている。
たっぷりと汁を絡ませたまま口に運べば、生姜のほどよくきいた和風の出汁が溢れた。
「和風か。うまい」
何とも白飯に合う味で、トマトのロールキャベツよりこちらの方が好みだ。
竜三が箸を止めないこちらを見て、満足そうに頷く。
「よっしゃ、センセ絶対こっちのが好きだなって思った」
誉められて素直に喜ぶのがかわいらしいところだ。
「嬉しそうだな」
「そりゃ、まあ…な。俺、ガキの頃から怒られてばっかでよ。
大人になって、何か周りに誉めてくれるやつ増えて嬉しい」
出会ったばかりの頃は、ただただ傷付いたような目で一人苦しいのを耐えていたやつだった。
それが今では不器用ながらも本心を見せるようになった。時々あまりにも無防備に腹を晒すから心配になるが、閉じこもるよりはましであろう。
「愛い奴だな。チョロすぎて心配になるが」
「ちょろ…って。そんなちょろいか俺?」
竜三が顔を赤くし、不満そうに言う。
「ああ…だがまあ、そんな怖い顔せずとりあえず甘いのでも食え。わしの黒豆をやろう」
「ん…」
好物の黒豆を差し出すとちょいちょいとつまみ始める。口にものを入れれば文句は言えん。
その姿に思わず笑った。
「そういうとこだぞ。簡単にごまかされおって」
「!はめたな、もうこれは返さねえぞ」
「構わん構わん。遠慮なく食え」
うまい飯と、それを一緒に囲むやつと。家族でも何でもない男二人だが、意外と悪くはないだ。