水無月「お祖父様、少し休憩にしませんか」
葦名ホールディングスの最上階、いわば天守閣とでもいう広間が葦名一心の執務室であった。
そこに入ってきた男が茶器を手にしているのを見て、一心は手を止めた。
「弦一郎。わざわざお前が茶を淹れにきたのか?」
「今日はエマは休暇をとっておりますゆえ。それに、ちょうど草笛に寄る用があり、甘味を買って参りました」
草笛というのは弦一郎の親戚である、九郎の経営する和菓子の店である。
郷土の菓子をはじめとした折々の菓子を求め、県外からわざわざ訪れる客も多いという。
開店から間もなく始めた和カフェも連日賑わっているようだ。
「せっかくの孫の気遣いだ、頂くとしよう」
一心がデスクから立ち上がり、スーツのジャケットを椅子にかける。そして応接用の窓辺のソファに座ると、ゆっくりと足を組んでくつろいだ。
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