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    mmikumo

    @mmikumo 文を書きます。ツシマの石竜、刺客と牢人好きです。渋くてカッコ良い壮年以上のおじさまたちをだいたい書きます。

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    スマホのメモにあったデトロイトの900900ギャビンの供養。空港のラウンジの光景です

    出張前 早朝5時。デトロイト空港は日中の混雑が嘘のように静かで誰もいない。
     人の姿がほとんどない空港内は店舗もしまっており、底冷えして寒さが脚から這い登ってくる気がする。
     DPDのギャビン・リード警部補は、ラウンジに早足で滑り込むと、はぁ、と一息ついてソファに座り込んだ。
    「雪のフライトとかついてねぇな」
    「ギャビン、ご心配なく。天候による事故の危険性は数%しか変わりませんよ」
    「そうだ。数値など聞いても、運が悪ければ墜ちる時は墜ちる」
     まばらとはいえ、これから飛行機に乗る、という人々の集まるラウンジでとんでもない会話をするアンドロイドに血の気が引く。RK900ども、最新鋭のコミュニケーションモジュールはどうした。
    「お前ら墜ちるとか言ってんじゃねぇよ。他の客に睨まれてんぞ」
    「「おや」」
     金髪と黒髪の同じ顔した二人が、顔を見合わせて口をつぐむ。きらっきらと輝くような美形だが、変異してからというもの、ちょっとバカになったような気がするのは錯覚ではないだろう。
     飛行機の中で朝食は出るだろうが、その前にギャビンはクッキーを噛み砕いて手っ取り早く糖分を補給した。健康にはアレだとわかっているが、糖分を入れないと頭がしっかり働かない。もはや、気力だけで無理のできる年じゃない自覚はある。
    「何かきてんな」
     カフェオレ片手に、モバイルをチェックする。昨日から割とひっきりなしに届いていた通知は、ギャビンを崇拝するネコ型アンドロイド三兄弟からのものだ。
     13、21、22と呼ばれる3人はナインとノーヴェの後に作られた戦闘支援型アンドロイドである。ギャビンの思考パターンと若い頃の外見をモデルにし、そこにネコミミ&ネコ尻尾という謎のモジュールを付けた偵察、隠密行動モデル。
     この3人は、ギャビンを神のように親のように崇拝している。
    『ギャビン、気を付けてな!』
    『いってらっしゃい!』
     にゃうにゃうと甘えん坊のネコたちのように絡んでくる3人。そのひっきりなしの通知を覗いて、ナインが眉を潜めた。
    「朝5時に人間に連絡してくる奴があるか」
    「ねこちゃんだからねえ」
     ノーヴェはにこにことほほえましいと言わんばかりだ。同じRK900モデル、初めはただの色違いだったのに今では真逆ほどに性格がことなる。
     人間のツレよりうるさいアンドロイドといると、あっという間に時間がすぎる。
    「搭乗開始まであと10分程だ」
    「マジか。何にも暖まらねぇし休めてねぇ」
     飲み干してギャビンが立ち上がる。昔はドラマやらでカッコ良く出張するのに憧れていたが、今ではクソ食らえである。ギャビンは寝不足の体に鞭打って、快適なラウンジを後にした。
     アンドロイドに海外渡航の許可が下りて2ヶ月。そんな時期にちょうど欧州警察機構から協力依頼があって、3人でベルギーの首都ブリュッセルへ出張する事となった。
    『ギャビン、引率をしっかり頼むぞ!』
     上司のファウラーにポンポン、と肩を叩かれて二人のアンドロイドが海外初体験であることに気がついて冷や汗が垂れた。
     今やすっかり好奇心旺盛になったナインとノーヴェは、冷静な表情の裏で恐らく感情モジュールを興奮させているだろう。特にノーヴェは海外に行ってみたいなぁ、としきりに言っていた分心配である。
     昨日は強制的に定時帰宅を決行し、オフィスを出た瞬間に今後のスケジュールです、とリストを掲げてきたのに、こいつ全然ファウラーの話聞いてなかっただろ、と確信した。
     寄り道も許可せず、ギャビンに食事、入浴を速やかに済まさせてベッドへと追いたてるアンドロイド共。さすがのギャビンも22時就寝など数年ぶりである。当然、眠れなかったが。
     そうやって人間様を追っ払ったあと、二人で色々ごちゃごちゃと初めての旅支度に勤しんでいたようだ。
    「お前ら、昨日何時に寝たんだ?」
    「0:47-4:00だ」
    「僕は1:02-4:00です」
    「おい、充電は済んでんだろうな。つーかノーヴェ、お前何夜更かししてた」
     搭乗アナウンスを聞きながら、足早にゲートへ向かう。ノーヴェがふふ、と笑った。
    「えぇと…VR観光ガイドをDLしたら、面白くて見入ってしまって。すみません」
    「観光する時間なんかねぇぞ、たぶん」
    「えー……王立美術館……」
     途端にしょんぼりとする姿に、ギャビンが苦笑する。ナインがマイペースな弟機の肩を叩いて、慰める。
    「そう落ち込むな。警部補もガイドを読んでいたから可能性は0ではない」
    「お前、人の視界勝手にハックすんな」
    「していない。共用タブレットの履歴に出ていた」
     減らず口を叩きまくるアンドロイドの腕を一本ずつ掴んで立ち上がる。これじゃ警部補と部下というより、保育士とでかい園児である。
    「おら、ちゃんと着いてこいよ。これからチェックインをするんだ。パスポートは出しとけよ」
    「見せなくてもいけるぞ」
     掌にぱっと見せてくる。実に羨ましい。 
    「あとあんまりやかましいと、スリープモードにして貨物扱いにするからな。俺は飛行機で爆睡するから、うるさくすんな」
    「パワハラだぞそれ」
     うるさいが、ギャビンも手は離さないし、900たちも逃げたりもしない。そういう関係がいつものことなのだ。
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