おとなになったら「わしの嫁しゃまになっとーせ!」
「そうだなぁ、お前が立派な男士になれたら考えても良いかなー?」
突然だがうちの主はオタクである。それも坂本龍馬のガチオタだ。新撰組への風当たりは強いんじゃ…… と警戒したのは一瞬だった。
「兼さん……? 兼さんだ 土方さんの刀キタァアアアアア」
えっ、なにこれこわい
ドン引き(というのだと後で教わった)する和泉守兼定の目の前には苦笑いする大和守安定がいて、「沖田総司……」と呟くなり崩れ落ちて号泣された僕よりマシ、なる大変微妙な経験談を頂戴した。
尚、加州清光は「可愛がってね」を言うタイミングを逃したし、堀川国広は「こっちに兼さ」まで言ったところで「すぐ呼びます!」と舎弟の勢いで綺麗に土下座されたし、長曽祢虎徹に至っては「これが、近藤さん、の……」と魂抜けかけてまともな自己紹介は半日後になった。
新撰組の刀でも全然問題なく大丈夫だった。むしろ尊死なる概念を突きつけられて動揺するのは自分達の方だった。
アクティブで力強いオタク力(ぢから)で次々に刀を迎えては大感動の嵐で大変おもしろ…… いや、頼もしい(のか?)主であることは一時間も同席すれば嫌でも「解らせ」られる、そんな刀剣オタクでもある主だった。
ちなみにオタクといえばの「解釈違い」については大変おおらかだ。
「真実なんて人の数だけあるもんだと思う!」
話の解るオタクで良かった。
スイッチが入ると寿限無かな? と思うような長文息継ぎなし超早口で熱く熱くロックの勢いで語り出すのにも大分慣れた。リスニングはまだ出来ない刀の方が圧倒的に多いので、我に返った主がその度に「ゴメンネ主語りたい系オタクだから我慢できなくてゴメンネ」と謝罪bot化するのもご愛嬌。
とっても、(ある意味)平和な本丸である。
さて。そんな坂本龍馬ガチオタで刀剣オタクの人間が審神者になると決まったら選ぶものは一つきりだ。
「よ、よろしくお願い、します……!」
震える握手で迎えられたという最初の刀は当然のように陸奥守吉行だった。
「はー、だれたぁ」
「へいへい、お疲れさん。で、主の知恵熱は下がったか?」
「いんやあ、ありゃ当分ダメじゃにゃあ、こんまいわしにゾッコンぜよ」
「やっぱりな」
「やっぱりじゃ!」
でも、お陰でこの後は二人でゆっくり出来る、とにやける男は自分の恋刀だ。
来歴どうこうで睨み合うのも馬鹿馬鹿しい本丸に呼ばれたのが幸いして、「誰の刀か」ではなく、一人の仲間として付き合いが始まったのは大きかったかも知れない。
昔の話をしよう物ならキラッキラの目をした主がワクワクで聞いているし、どちらの話も尊重する人を前に妙な喧嘩なんかできるはずもない。互いに知らない話には興味が湧いたし、同じ時代を懐かしむ相手と会話が増えるのは当然だった。
仲良くなれば良いところはより輝いて見える物だ。好ましい、が好きだ、に変わるのも早かった。
モダモダするのは間怠っこしい! と速攻かけて口説いて、と思ったら「先越されたにゃあ」と笑われ、お返しとばかり真っ赤になるまでそれはそれは熱烈に口説かれた。
そんなわけで互いに好き合って結ばれた恋仲は大変順調だし、主は何かが召された。
「うちの子達が付き合ってる……!」
という言葉が何に感動してのことだったのかだけは直感的に「知らない方がいい事もある」と頷き合って二人とも触れていないが、応援されていることは理解した。理解があるって素敵。そういうことにしておこう。平和が一番だ。
そんな本丸に『陸奥守吉行』の写しを迎え入れたい、と相談された時、男士の心は一つだった。
あ、これ絶対なんかの前フリだ。
搬入された段ボール箱で手を切りそうになった審神者に「主ー!まだ早い、まだ早い!」と複数が叫んだ辺り、自分達も大分毒されてるな、と思いながら陸奥守吉行(写し)がお披露目された。
へえ、改めて見るとお前も綺麗な刀だよなー、などと賞賛や関心を受けて照れ臭そうにしていた陸奥守の顔は珍しいもので、和泉守もその表情を見られたことが嬉しかった。
そして翌朝。予想通り、その子は本体の側にちまっと座っていたのだ。
絶対何かあるだろうと気になって大広間を覗いたら、にこーっ、とチビっちゃい、それこそ陸奥守吉行のミニチュアみたいな「まさに写し」な子供がこっちを見て名乗った。
「わし、陸奥守吉行いいます」
「おう、知ってるぜ。うちの陸奥守の写しだな」
頷いて貰えたことにぱっと嬉しそうに笑って、高揚した様子のおちびちゃんは言った。
「きれーなおヒトじゃぁ……」
一目惚れゲットだぜ。
どこかで聞いたセリフを脳内再生しながら和泉守は思った。こいつぁしばらく休暇決定だな、と。