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    くいっくすた

    @quickst0000

    置き場です。長いの書か(け)ないしあんまりえちくもないですが…読んでくださった方、ありがとうございます🙏

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    くいっくすた

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    クリスマス前から6日間の現パロ門キラです。ハロウィンに続き引くほど遅刻して載せます。
    イベント事のまとまったお話がほんとに間に合わせられません…。
    ※年齢操作しています。自分の思う原作軸門キラより10歳くらい若いイメージです。門さん40手前くらい、きらし20代後半~30手前くらい。
    ※オチウもヌンヌンもないよ!ちょっとだけもにょもにょはあるかも!

    #門キラ
    #金カム腐
    golden-camRot

    シックスデイズワンダー(あるいはホーリーチキンレッグスの威光)――クリスマスに欲しいのは沢山のものじゃないの。
     そうだな、そう思う。休みだよな。またはこのシフトを分かち合って半分、いやせめて二日くらい出てくれる人。今日、二十日からクリスマスの二十五日までフルで六連勤だ。六連勤自体はさほど辛いことじゃない。勤め人なら普通にあり得ることだろうし、世の中もっともっと長い日数の連勤をこなしている人がいることくらい知ってる。でもこの六連勤は普通のそれとは段違いに削られるんだ。心が。疲弊する。萎れてしまう。不幸だとは思わないまでも、流れに受け入れられず川の取水口で引っ絡まっていつまでもくるくる廻ってる枯れ枝を見てるみたいな、なんとも言えない侘しい気持ちになるんだ。
     赤い三角帽子に申し訳程度のムートンもどきなモコモコがついた真っ赤な上着とズボン。どっちも割とペラくて、見た目だけは世のお祭り騒ぎに自分たちもきちんと則っていますよということしか示せない、低すぎる防寒性能。結局ベンチコート着るんだからこんなの仕込んでおく必要あるのか? この装備でこれから寒風に晒され声を枯らし、ひたすら虚空に向かって叫ばなければならない。
    「チキンいかがですかー!温かいチキン、すぐにご用意できまーす!!」
     辛い。辛すぎる。二十代のフリーター男性なんて立場はコンビニ的には一番扱いやすく、深夜だ早朝だと頼られがちになるのはまぁどこも同じだろうけれど、俺たちにだって周囲と同じようなこの期間の過ごし方を選び取る権利はある。権利は。だが、予定がない。つまるところ、待っている人もいない。何もない。
     先月下旬、バックヤードでパソコンを眺めながらシフトを組んでいた店長の視線を感じ、「キラウㇱくんあのさ、」と言いかけたところをなんなら食い気味に「俺繁忙期出られます」と言ったことは認める。確かに自ら言った。でも夢を諦めた訳ではない。半年前、散々浮気だ家出だを繰り返したのち共有の家財道具をいくつか持ってどこかへ消えてしまった元彼。あいつよりは素敵な人が現れた今を過ごしている夢を。いい子には……していたはずなんだけど。
     電子レンジを残して炊飯器とコーヒーメーカーを持っていったチョイスをむしろ心配してしまったのがいけなかったのだろうか。周りにはダメ男製造器とか言われるが、自覚があるならそんなこと言われていないだろう。つまりは無自覚の、恐らくは悪癖だ。そうか、ダメか。
     早速気分が盛り下がる中、店舗前のスペースに出した会議机には白地に緑のチェック模様のビニールクロスを掛けてある。少し硬くて扱いにくかったのが、ここ三年くらいこの時期に使っていて、折り目の位置がだいぶこなれて掛けやすくなってきた。その上に設置されたホットスナックのショーケースは金銀のモールで縁を飾られている。本部から送られてきている宣伝用ポップを貼り、夕方バイトの女子高生が描いたクリスマス柄のイラストをラミネート加工したものも取り付け、脇には昼間のパートさんが作ってくれたフェルト製マスコットのチキンを入れた籠を置く。会計は現金が基本で手提げ金庫を渡されていて、カードとか電子マネー系の場合は本数を書いた整理券を渡して店内で決済してもらう。こうして完成された特別売出しの布陣こそが六連勤を戦い抜く我が武器だ。なんていうか、人の手による温もりはあるんだ。
     当店はやや中途半端な立地にある。駅前からアーケードで続く新しい店も多い賑やかな商店街を抜け、小さい飲み屋や割と古くからの商店が続くエリアの中だ。横断歩道をあと二つほど抜けたら住宅街の入口という狭間の位置にあたり、そこまで目立たない。だからこそこういう手作り感だったり声出しだったりのアピールが必要になる。白く留まるため息に視界をうっすら遮られながら、会議机の後ろに置かれた保温用発泡スチロール箱の蓋を開ける。中の調理済みチキンをホットショーケースに適宜移して温め直すのにはこう見えて塩梅になかなか繊細な加減を要する。慣れが物を言う。しばらくの間チキン屋にジョブチェンジする店長もチキン運び屋にならざるを得ない俺も、二十三時からの夜勤の子と代わり店外販売を終えるまで長期戦の構えに入った。

     とはいえ初日はまだクリスマス本番感が薄いせいもあって例年大して売れない。それこそ近くのお店の人が賄い代わりに買っていったり、塾や予備校帰りの中高生が小腹満たしをしていくケースの方が圧倒的に多い。こちらも肩慣らしといったところだし、去年の勘を取り戻していくにはちょうどいい。
     あと三十分ほどで店外販売も終了かという二十二時過ぎ、一人のサラリーマン風の中年男性がふらりと店にやってきた。見るからにくたびれ果てた風貌でため息をつきながらうなだれている。肩から提げたビジネスバッグにのしかかられるようにコートを着た上体が傾いていた。顔色もあまり良くないように見える。目立つところといえばその姿と頭のてっぺん、何て言うんだっけ? ソフトモヒカン? みたいなラインが黒髪であとはグレーヘアになりかけの少し変わった髪色くらい。チキンいかがですかの声がけにも反応なく、店内に吸い込まれていく。
    ……と思ったら後ずさりしてきてショーケースの横に立ち止まった。
    「あぁ、チキン……。そか、もうそんな時期だよね。周りみんな赤と緑ばっかだもんねぇ」
     口元だけでぼそぼそ話すような声量に、独り言なのか話しかけられたのか判断しかねてたっぷり一拍反応が遅れた。
    「あ、はい。今日から店の外で特別販売してるんです。お持ち帰り用の袋ご用意できますよ。おひとついかがですか?」
    「うー……ん、段々油ものキツい年頃になってきてさぁ。疲れてるときとか胃もたれしちゃうんだよねぇ悲しいことに。……あーでも美味そうだな。うん、一本ちょうだい」
    「一本ですね、ありがとうございます。会計は現金でしたらここでしていただけます。電子決済の場合は整理券を持って先に店内でお願いします」
    「あ、そうなの。じゃあ中でお酒買ってきたいから一緒に会計してきてもいい?その間に包んどいてくれると助かるんだけど」
    「分かりました。ではこの整理券をお持ちになって、レジでお会計なさってください。用意しておきます」
     ありがとねぇ、と気の抜けた返事でその男性は店内に入っていった。ホットスナックの紙袋はクリスマス限定パッケージで、鈴だの柊だのが描かれそれなりにらしさを演出してある。手の中で紙袋を広げてからショーケースの扉を開けると、あたたかな湯気とともにスパイスの効いた脂の香りがふわりと鼻を撫でていく。それなりに身体を動かして働いている身分として、この匂いにはやっぱり食欲が刺激される。皮を剥いでしまわないよう、むっちり綺麗なきつね色に揚がったチキンをトングでそっと掴んで入れる。口を折り返したあとテープで留め、ビニール袋に紙ナプキンと共にしまってテーブルに置いておく。それからすぐビニール袋に缶をぶら下げた男性が戻ってきた。髪色でそれなりの年齢なのかと思ったけど、深く皺が刻まれている感じでもなく案外年はいってないのかもしれない。
    「あー、ありがとさん。今日はこの発泡酒とチキンで一杯やるね」
     ビニール袋からわざわざ出して見せてくれた五百ミリリットル缶にはプリン体ゼロ糖質オフと書いてある。せっかくの気遣いが揚げ油で帳消しにならないか少し心配だけど、缶を袋に戻したところでチキンを渡してあげると「いい匂いするね」と鼻を近づけて微笑んでいた。ひらひらと手を振りながら去ってゆく猫背を見送りながら、あの人もきっと忙しい人なんだろうな、大変だな、となんとなく思った。



     二十一日。実際のところ今日だってそこまで売れるわけじゃない。近所の住人と思しき奥様のグループ客が昼に早めのクリスマスパーティだといって八本入りの箱を買っていってくれて有り難かった。その後は大体昨日と同じような売れ行きで、早くも弱気が出た店長に「声出し二割増しでお願い」と頼まれた。時給は一円も変わらないが、まぁなにしろこの期間は店長と一蓮托生に近い状態だから一.二割増しくらいで頑張った。

     さてそろそろショーケースの電源を切って拭き掃除を始めようかと思った二十二時半頃、昨日のサラリーマン風男性が今日も店にやってきた。どうも昨日よりさらに疲れた様子で、近くまで来たら目の下にびっしりクマがあるのが見て取れた。忙しかったのだろうか、それとも何かトラブルでもあったのか。心配される義理もないだろうけれど、あの猫背と相まっていかにもギリギリのラインで踏ん張っている人のように見えてしまう。なんだかやたらと周りから心配される人っているもんな。昨日はこちらの存在にすら気づいていない様子だったその人は、今日は真っすぐこちらに向かってきた。
    「おー、昨日はありがとね。食べたよチキン。なんか美味かったよここの。胃もたれもなくて、気に入っちゃってさ」
    「そうでしたか。それなら良かったです。ありがとうございます」
     にこやかに応えはしたけれど、うちだって普通のフランチャイズ店なのだから全国どこでも味は同じはずだ。たまたま好みの味だったのかもしれない。
    「そうそう。だから今日も買っていこうかと思ったんだよね。まだ残りある?」
    「ええ。もう片付けようかと思ってましたけど、まだ大丈夫です」
    「じゃあ一本お願い! お酒買ってくるからまた準備だけしといてもらえるかな? 整理券ちょうだい」
     すっかりシステムを把握してくれたようで、整理券を手に店内へと入っていく。昨日と同じように会計の間に紙袋に包み、紙ナプキンと共にビニール袋に入れて準備する。油ものがキツいと言っていた割に早速リピートしてくれるなんて有り難い話ではある。だけどこのペースはどうなんだ。今日は昨日より明らかに疲れた顔だったのに続けて揚げ物で大丈夫なんだろうか。肴で飲むときはメシ食わない派とかなのかな。今日も一本だけということは一人用なんだろうか。……客の私生活を詮索する趣味なんかないけど、買っていく物から透けてしまう背景があるのは仕方ない。
     戻ってきた男性の手にはハイボールの五百ミリリットル缶が握られていた。「今日はこれで食べるね~」疲れた顔の割に明るい声でそう言うと、丸い猫背は住宅街の方に向かって歩いていった。商店街の外れより一段暗い住宅街の闇に溶けていくような後ろ姿。屋外電源のコンセントから抜いたコードをショーケースの足元に巻き付けながら、今日も何を飲むかの報告をしてくれたあの男性を律儀な人だなと思いつつ、ほ、と白く息をついた。



     二十二日。そろそろ売れ行きがそれっぽくなり始めた。今日は昼間に少年野球チームの親御さん方からクリスマス会をするのでチキンを二十本買いたいと打診があった。さすがに在庫で賄えなかったので一時間後に来てくれるようお願いをして、現チキン屋の店長がめちゃくちゃ揚げた。現運び屋の俺はめちゃくちゃ運んだ。予約も受け付けていたが、その期間を過ぎこういう突発かつ断るには合理的でない本数の注文が多くなるのがこのへんの特徴だ。いよいよかと気合いを入れ直して臨む。それ以外にも三、四本以上の購入者が何組か続き、今日はそこそこ慌ただしかった。
     塾帰りの子どもたちが買い食いして去っていった二十時半過ぎ。今日も男性は店に現れた。ここまでの二日よりだいぶ早い来店だったから思わず「え」と声が出てしまった。あちらももう自分の顔を覚えたらしく、こちらを見るとへらりと笑って手を上げながら真っすぐこちらにやって来る。ああ、ちょっとガニ股なんだな。
    「いよぅ。今日も出てるんだね、お疲れさん。 ちょっと早いからチキンまだ大丈夫だよね? なんかすっかりハマっちゃってさ、買って帰りたかったし仕事家に持ち帰ることにして出てきちゃったよ」
    「家でもお仕事されるんですね、お疲れ様です。チキンまだたくさんありますよ。準備しておきますか?」
    「うん、お願いしていい? 本日分の労いの一滴買ってくるからさ、ちょっと待っててね」
     そろそろ疲れ始めているせいか、待っててねの一言で不意に胸がむずついた自分に驚く。この三日間うちのチキンをやけに気に入ってくれたこと以外何にも知らないのに。……やっぱりちょっと疲れているのかもしれない。
    「あ……」
     店内に向かって踵を返した瞬間、男性が膝からかくんと折れてふらついた。幸い咄嗟にテーブルに手をついて転倒は免れたが、思わず手を伸ばした俺も彼の腕を掴んでいた。
    「だっ、大丈夫ですか!?」
    「ああー、ごめんね。だいじょぶ。ありがとね、ちょっとクラッとしただけだから。すこぉし疲れてるのかもしれないわ」
    「あの、ちゃんとお休みとか睡眠とか、取られてますか……? 失礼ですけど、最初にうちにいらしたときからあんまり顔色良くないなって思ってたから……」
    「え? 休み? えーと、あれ? 今月入ってからマトモに休みあったっけかな……」
    「えっもう二十日過ぎてますよ!? そんなに休んでないんですか? そりゃ体調も悪くなって当然ですよ……って、すみません、お客様の状況何も知らないのに……」
    「心配してくれてるの? ありがとねぇ。いやぁ単に年末だから慌ただしかったってのもあるけど、取引先の会期末に合わせてやらなくちゃいけなくてさぁ。こっちはこっちで三月に自分とこの決算もあるってのに参っちゃうよねぇ」
     はぁ、とため息をついて笑った下がり眉の困り顔は今までで一番近くにあった。店内の照明に照らされる表情をよく見れば血色をあまり感じない肌にうっすら無精髭が生えていて、汚いわけではないけどいかにも健康的な生活ではなさそうな雰囲気が漂っている。少しかさついた頬に、ひび割れかけの唇。せっかくのコンビニなんだから、もう少し体調管理に役立ちそうなものも買っていってくれたらいいのに。思わずじっと顔を見てしまって、男性は少し気まずそうに笑った。
    「あ、でもやっと明日あたりでカタがつきそうでね。もうちょい踏ん張ればやっと休めるかなって感じなんだよねー。だから明日への活力にさ、お気に入りを連れて帰りたいわけ。一本、お願いね」
    「明日土曜ですけど、週末もお仕事なんですね」
    「そそ。最後の詰めなの。なんだかんだ要決裁みたいなのが出てくるから結局誰か上がいないとダメでさ。ハンコ押せる人間の中では俺が下っ端だしね。ま、しがない中間管理職の運命ってやつ」
     この人が言う通り「上の中では下っ端」なのであればやはりそこまで年はいっていないんじゃないだろうか。三十代後半? ギリギリ四十代いかないくらいとかなのかもしれない。
     それにしても連れて帰りたいお気に入りだとは、チキンにそこまで言ってもらえるなんて有り難い話だ。店長にお褒めの言葉をいただいた報告をした方がいいだろうな。きっと明日以降もノリノリで揚げまくるはずだ。
    「ありがとね、もう大丈夫」
     空いていた腕でぽんぽんと肩を叩かれるまで掴んだ腕がそのままだったことをすっかり忘れていた。慌てて引っ込めると、その人はポリポリ頭を掻きながらさっきより柔和な笑顔を見せた。案外表情豊かで、鼻筋なんかは結構通ってる。疲れが曇らせてはいるけれど、改めて見ればなかなか渋みのある面立ちだ。
    「あー、仕事持ち帰ってきたけどこれ食ったら満足しちゃいそうだなぁ。かっこ悪いとこ見られちゃったし、これ以上ガタくる前に早めに寝た方がいいのかもね。明日頑張るかなぁ」
    「冷え込みも厳しくなってきてますから、あまり無理して身体壊さないでくださいね……」
    「ほんとだねぇ、若い子に心配かけちゃったな。とりあえず買ってきちゃうね」
     そう言って店内に入った背中がなんだかまだ心配で、お酒のコーナーに佇む姿をずっと見守っていた。すっかりお留守にしていた正面から「ねぇ店員さん、ちょっと」と声を掛けられ振り返ると、知らぬ間に小柄なおばさまが犬の散歩がてらチキンを買いに来ている。
    「わっ、すみません! チキンですか? 何本ご用意しますか?」
     ちょうど接客タイミングが重なってしまい、あの人の今日の晩酌メニュー報告はチキンを渡す瞬間に袋の中をさっと見せてもらっただけになり、会話はできなかった。控えめにするという意志なのか、アルコール度数三%のチューハイ缶だったと思う。たぶん三百五十ミリリットル。休肝日とはいかないようだけど、気遣うつもりがないわけでもないのかな。ゆずの絵が見えたのは今日が冬至だからだろうか。
     おばさまの対応をしつつも、去っていく後ろ姿を視界の端に最後まで入れていた。……あの人の体調を気遣ってくれる人は近くにいないんだろうか。酒量の加減とかじゃなくて、食う寝るの世話をしてくれるような。だからまぁ恋人とか、家族とか。さっき肩を叩かれた手は、そういえばこの三日間ずっと手袋をしていたから指輪のある人なのかどうかは分からない。でももしそういう人がいるのなら、明日あたりからは家族サービスだとか恋人と過ごしたりとかがあるんじゃないのか?俺にだってかつてはあったんだ、そういうの。急に気持ちが重くなった。裏を返せばここまでさほど沈まずに来られていたということでもある。どうしてだろうな。……この自問自答はほとんど答えなんか透けていて、考え込むほど難しくはない。そして本当はあまり考えない方がいいことだ。
     それにしても休日出勤までするほどの忙しさでそれをこなすのだとしたら、間違いなくさらにくたびれるだろうし、今度こそ倒れてしまうかもしれない。
    ――しっかり休ませてあげたいなぁ。
     昨日あたりから勝手な妄想とお節介心が頭の片隅に浮かんでいる気はする。いや、割としっかりいる。でも俺だってもう結構休みたいし。意味なんかないけどちょっと張り合ってみてお茶を濁す。そうやって、自分の中に輪郭を取り始めている「柔らかそうなもの」のしっぽをぼかす。予防線ともいう。
     漂う香ばしい匂いに何かもらえることを期待したのか、チョコレート色の身体に可愛らしいセーターを着たミニチュアダックスフンドが腕の中でおばさまにわん! と呼びかけ元気にしっぽを振っていた。
     


     二十三日。本番はこれからとはいえ、連勤も中日を超えた。土曜だ。週末は客層も客が多くなる時間帯も変わる。昼間から一杯やりたいお父さんとか、数世帯での持ち寄りホームパーティーとか、平日にはなかった需要が増える。明日あさってが勝負なのは分かりきっていて、だからこそ今日をどう捉えるかが流れを掴む上で大事なんだ。
     ほとんどチキン屋店長の受け売りだけど、人の流れとか考えとか、そういうものに寄り添って考えたり予想立てするのはなかなか面白い。商売ってこうやって創られていくんだなという実感が湧く。今年はクリスマスイブが日曜だから予約が分散傾向になっていて、店長もいつもより調整難しいんだよねぇと悩んでいた。その一枚奥にあるのは人の暮らしと世の流れだ。社会、なんて言われても肌に触れてくる感覚なんかなかったけど、実際はこんな身近でハッキリ形になって存在していた。この仕事をしてみなければきっと思いもしなかったことだ。見知らぬ人が暮らす様が目には見えなくても目の前を行き交って、重なって、織られて日々は出来上がる。
    ――だから少しだけ知っている人の暮らしが今までより気になったりするのは自然なことだよな。うん。ましていよいよその佳境だと言われていたならなおさらだ。休日出勤すると言っていたあの人、今日は何時頃に来るんだろう。そもそも来る確証なんてないんだけど。

     夕方からは明日以降のピークを避けた予約組が受け取りに来た。その様子を見てつられた飛び込みのお客さんが並んだりもして、やっぱり今年は難しい。チキン屋店長は嬉しい悲鳴だと言っているが、そろそろ身体に染みついた揚げ油の匂いが取れなくなる頃らしい。中学生の娘さんにチキンが歩いてるみたいだと言われたそうで、しょぼくれながらフライヤーをつついていた。
     二十一時過ぎになって近くのスナックのママさんがお客さんに頼まれちゃったからと箱買いしていき、残りはもうほとんどないけど、まだあの人は来ていない。……間に合うかな。いやだから来るかなんか分かんないんだって。
    「あ゙ぁー、なんとか終わったっぽいよぉー」
    「!」
     まだ聞き慣れたほどではないけど、耳にはしっかり残っている少ししゃがれた声。慌てて顔を持ち上げた、ということはいつの間にか下を向いてしまってたんだな俺。……よくない。
    「お疲れ様ぁ、今日も出てるのね。お互い頑張りますなぁ。いやーしかしくたびれたくたびれた」
     へにゃ、と笑う顔のクマは一層色濃くなって肌はカサカサでまた無精髭だし、どう見ても今までで一番疲れた顔をしている。それでも山場に目処がついた解放感からなのか、纏った空気は昨日までより軽やかな気がした。だけどこうやってギリギリをかいくぐってしまうからこの人は無理を重ねるのかもしれない――。焦った。胃から喉にちりっとせり上がってきたのが大して知りもしない人相手に抱える焦りだった。そんなの普通におかしいだろ。
    「あとは家でもなんとかなる感じかな~。もーお客がしつこくて。ダメ直しは仕方ないけどまとめて言えよ、具体的に言えよって。散々振り回しといて『何でこんなに時間かかるの?』だよ? 黙って見ててくれればとっくに終わってましたけど? ってぇの」
     ひゃひゃひゃと笑った顔には安堵が透けて見えたし、目にも力がある。悪態こそついているけど表情は明るい。もしかしたら空元気なのかな。
    「ってごめんね愚痴ばっか言ってて。君もこの繁忙期だもの、毎日忙しいでしょ? ずっと外にいるのも辛いよなぁ。頭が下がるよ、ご苦労様」
    「いえこちらこそ、ほんとにお疲れ様でした。無事山場抜けられたみたいでよかったです。俺、身体は丈夫な方だから動いてるのが性に合うみたいで。なので、お客様が胃もたれしてないようなら今日もしっかりチキン用意しておきますよ」
    「ははは、よろしくー。じゃあちょっと行ってくるね、待っててね」
     待っててね。絶対何の含みもなく発せられたのだろうその言葉が自分の内側にじわりと沁み出してきている。血管に入り込んで、血液に乗っかる。全身に運ばれてしまう。待っていたな。この人が来るのを。うちのチキンが好きなだけの人を。
     心なしか堂々と店内に入っていく背中を見送ってから、予測を始めるのは今日のお伴の一杯に何を選んでくるのかだ。割とあれこれ飲む人みたいだけど、今日の楽しげな雰囲気ならスパークリングワインとか? お客様の雰囲気であれこれ勝手に想像するのは店員あるあるだ。その「よくあること」で遊んでいるだけなんだ。お茶は濁せるだけ濁す。

    「今日はいいの飲んじゃうんだー。我慢しないよ! ほら見てよこれぇ」
     ほどなくして戻ってきた男性の手に握られていたのは綺麗な星が黒丸に浮かんだビール。五百ミリリットル缶が、二本。やっぱり今日はいつもより大盤振る舞いになるらしい。にこにこはしゃいじゃって可愛い、と素で思ってしまってまた込み上げかけた感情を奥歯で噛み潰す。これは良くない。非常に良くない。
    「今日はこれで乾杯だなぁ」
    「……そうなんですね」
     ああ、なんだ。ほらやっぱり乾杯する人がいるんだ。あー、危なかったな。ほんとに危なかった。もう結構気落ちしてるくらいには危なかった。いやギリギリセーフだセーフ。あーあ早く上がって帰りたい。なんで明日からが本番なんだ。やっぱり辛い、辛すぎる。……勝手にほのかなものをよく知らない相手に見出しかけてた俺が悪い。分かってる。そもそも同じ指向であることを期待している時点で分が悪すぎるんだよ。無駄な賭けに出る主義はない。ないんだ。
    ……どんな人がこの人の前に座るんだろう。これだけ忙しそうな人が相手だと何かと気苦労はあるんじゃないだろうか。優しくて包容力のある人かな。でもどうあれこんな嬉しそうな顔を見ていられたら一緒に嬉しくなれるんじゃないか? あたたかい部屋で、あたたかい空気で。
     しない方がいい深追いをしている。正面にいるのだろうモザイク状態の人影を首から上だけ自分にすげ替えて、マッチ売りの少女のように儚い夢を一瞬だけ見た。一周回って自虐だ、こんなのは。
    「あ、ごめん言うの忘れたわ。今日二本にしてもらっていい? あちゃー、あとの一本分もっかい会計してくるね」
    「え? あ、はい……」
     あたたかい夢がダメ押しで自分を殴ってくるパターンまではさすがに想定してなかったぞ。くっそ。なんか照明暗くなったかな。手元が急におぼつかない。包装にいつもよりずっと時間がかかっている。テープを二回貼り直したせいで紙袋の端っこがほんの少しだけ切れた。目立たないし商品には影響ないから許してほしい。今こっちの方がもっとビリビリなんで。
    「寒い中ご苦労様! 君はまだもう少し仕事あるんでしょ? ずいぶん冷えてきてるからあったかくしなね」
     追加分の会計を済ませて戻ってきたその人がベンチコートの背をわしわしと二往復さすってから肩を叩いた。また律儀にも袋の中を見せてくれて、星のビールももう一本追加されていたことを知る。
     それまでと変わらない雰囲気だったけど「期待したの? 残念だったね」とでも言われたような気がする。そんなこと言う人ではなさそうだけど、心境的にトドメを刺された。照明が暗い。目の前が暗い。川の取水口でくるくる廻る枯れ枝が脳内にカットインする。やっぱりこうなるのか。チキン二本とビール三本を手に、にこやかに去っていったガニ股はクリスマス関係ない仲間じゃなかった。後ろ姿を見送りながら、ちょっと手を伸ばしかけていた柔らかそうなものにはもう触れないんだろうなと悟る。なんにも始まらないで終わったみたいだ。元から何も無かったか。
     明日からの本番たぶんめちゃくちゃ働くなぁ、俺。



     二十四日。結論から言おう。忙しい。以上だ。だって店にいる間中チキンしか売らないわけじゃない。今の世の中は基本人手不足で回っている。配送が来れば対応するし、レジが混めば金庫持ってカウンターに戻り客を捌く。そんなときに限って複合機がお釣り詰まらせたりするし、ギフトシーズンだから宅配便の依頼が多かったしネットプリントの年賀状受け取りも何組も来た。忙しいんだほんとに。それらの隙間がチキンで埋まっているという構図。
     何度も言うがこの業界で二十代フリーター男性が重宝がられるのはこういうところにある。とにかく体力がいる。案の定めちゃくちゃ働いているし、ほんとはあんまりやる気ないけどその方が余計なこと考えないからこのまま勢いでこなしてしまえたらいいなと思っていた。いたのに。都合の悪いことに朝からぐずついていた空模様がとうとう雨に傾いて、昼過ぎにはしっかりした雨足になってしまった。これは本当にとてもまずい。
     予約の客は受け取りの時間が決まっているからそれでも来てくれる。中には明日にしときゃ良かったなんてぶつくさ言ってる人もいたけど、一定の客入りは予想できる。一番の問題は通りすがりで買っていってくれる浮動客が激減することだ。傘を差して歩かれると視認性が下がってこのコーナーの存在自体に気づいてもらいにくくなってしまう。だからといってこれ以上軒先をはみ出して機材を濡らすわけにいかない。店長が青ざめて頭を抱え、右往左往しているのがチラチラ視界に入る。
    「本格スパイスのあたたかいチキン、いかがですかー!!すぐにお持ち帰りいただけまーす!!」
     だからあとはもう声を張るしかない。暇になりたくないんだ。余計なこと考えたくない。半ばヤケクソの声出しは全然店の為なんかじゃないけど、店長は店の中から俺に手を合わせている。口パクの「ありがとね」もセットで。
     夕方から受け取りのピークが始まると客足も段々活気づいてきて、チキン屋は起死回生のフライヤーアップラッシュをしていた。ついで買いのホットスナック販売量も増えるからだ。しかしなんだか必殺技っぽくないか、フライヤーアップラッシュ。……暇になりたくないんだ。
     庇の下にいたつもりだったけど、跳ね返る雨粒がいつの間にやら足元を濡らしていたらしい。二十時半を少し過ぎた頃にはミスチョイスのキャンバス地のスニーカーはじっとり湿って元の黒から一段色が濃くなっていた。つま先が凍るほど冷たくて、爪痛いで冷たいをまさに体感している。客足も一気に減った。必死に避けていた余計なことが後から後から湧いては頭の中を占領していく。
     イブだもんな。持ち帰りした人たちは今頃家でゲームしたり特番観たりしながら楽しんでいるんだろう。まだ外にいる人だって恋人や家族や待っている人があるなら大多数は食べに行ったり愛する人に作ってあげたりもらったりなんじゃないか。ここでチキンを売っていて、それが今晩を幸せに過ごしている人たちの幸せの一助になれているかもしれないことは本心で悪くないなと思う。それってきっとどれも幸せな光景なんだろうし。
    ……でもどうして俺の幸せの一助には誰もなってくれないんだ。ああ女々しい。いっそ雪になってくれれば塗り替えられる白の中で色々と諦めもつくものを、絶妙なラインで氷雨を跨いだり戻ったりするくらいなものだから忌々しい。いまだ細く長く空からもたらされる冷たい糸の切れ端を睨みつけても虚しい。風向きで目に入るし。腹立つ。
    「あらあら、寒い中ごくろうさまだこと。こちらまだいただけるかしら?」
     何も見えない夜空をぼーっと見上げていたせいでまたお客様に気づかなかった。集中力を欠いているな、あと少しなのに。
    「すみません、ちょっと雨の様子が気になってよそ見してました」
    「無理もないわ。こう寒くちゃ立ってるだけでも辛いもの。雨の中、クリスマスイブに遅くまで大変ね。お若いのに偉いわ」
     目の前に立っていた上品な白髪の年配女性はダウンコートを羽織り、お財布と小さなエコバッグだけ手にしていた。治安もいいこの地域では割とよく見かける奥様のおつかいスタイルだ。
    「チキンおひとつでよろしいですか?」
    「ええ。一度食べてみたかったの。せっかくだから今日にしましょうと思って」
    「そうでしたか。当店を選んでくださってありがとうございます」
    「うふふ、近所に住んでいるんですけどね、前から気になっていたのよ。一人暮らしが長いものだから段々と同じものばかり食べるようになってしまって。何か目新しいものが欲しくなったの」
    「ああ、それは素敵ですね。お口に合うといいんですが」
    「亡くなった夫も新しもの好きの人だったし、買って帰ったら喜んでくれるんじゃないかしらと思って」
    「喜んでもらえたら俺も嬉しいです。あたたかいもの、すぐにご用意しますね」
     優しいお話がすっかりささくれ立っていた心にグッとくる。手早く準備は進めながら、このお客様の食卓が少しでも楽しく美味しいものになるように願いを込めて丁寧に包装した。
    「お待たせしました」
    「ありがとう、楽しみだわ。……そうだ。さっきご近所さんにいただいたものだけど、おすそ分け。これどうぞ」
     女性がエコバッグから出してきたのはみかんと透明なセロハンに包まれた一口サイズのチョコレート。
    「いただいていいんですか?」
    「たくさんもらったからいいの。クリスマスに渡すにはあんまりささやかだけど、プレゼントよ。お疲れ様、メリークリスマス」
    「ありがとうございます……メリークリスマス」
     不意の出来事だったけど、冷え切った身体と心に小さな明かりを灯されたような気持ちになった。少し弱ってたというか荒れてたから何だか泣きそうだ。離れてなお続く絆か。あたたかいな。感情として相応しいのか分からないけど、それは羨ましい。

     あの人は来なかった。予想はできていたことだ。ただ取水口の枯れ枝はくるくると、脳内で一層寄る辺なく廻っていた。



     二十五日。やっと連勤ともおさらばだ。肌感覚だけど、昨日と比べると浮ついた空気やざわめきが一気に落ち着いてきている気がする。クリスマスソングに重なって今度は第九が響き始める。やっと解放が近づいてきてるけど、この熱狂と移り気が少し恨めしい。なんというか、この国民性に俺たち二十代フリーター男性は苦しめられているような……。主語がでかいってやつか。こんな恨みがましいからサンタは来ないのかな。確かにいい子じゃないかもな。
     でも俺だってずっと闇をはらんでいたわけじゃない。元彼がいなくなったときは結末を予見していた部分もあったから、答え合わせみたいな気持ちだった。恨みつらみよりも「今日だったか」とまず思ったくらいだ。同棲記念日だった。たぶんあっちはそんなのもう覚えてなかったんだろう。
     割とからりと思い出せた半年前の破局より、一昨日厚いベンチコート越しにさすられただけの背中の感触の方が全然生々しい。情けないことに何度も反芻しながら本日引き取りの予約客を捌いていた。
     正直言って今日は元々消化試合の気持ちが強い。ポップもチキンのマスコットもビニールクロスも今日を終えれば倉庫で長い冬眠に入る。チキン屋も運び屋も再転職だ。だからあとは大波被らず穏やかに特売期間を終えたい。たぶんあの人はもう来ない気がするし。まず連日チキン食べてたらさすがに飽きるだろ。飽きたんじゃなくても続けてたものがふっつり途絶えたときってそのまま見向きもしなくなったりするじゃないか。
     まして週末は乾杯する相手がいたんだ。油がキツい自覚のある人が毎日揚げ物食べてるとか言ってたら相手が普通止めるだろう。それでしばらくは揚げ物禁止令とか減酒令とか出されたりして。お籠りモードで野菜多めの鍋でもつついていちゃつきながら聖夜の鐘が鳴る、とかそんな感じだ。
     ここを通って住宅街方面に向かうけど、あの人がそもそも近くに住んでるのかどうかも分からないんだった。普通にふらっと来たりするのかな。そしたらちょっと苦しいな。なんかふにゃっとした雰囲気のある人だったな。……困り顔で笑うのも可愛かった。くそ。見ないふりしてたけど、くたびれ加減も結構好みだったんだよなぁ。

     もう少しで夜勤の子が来る時間。ショーケースの電源を切ってコードを巻き付け、このあとはいつもより念入りな分解清掃が待っている。六日間を共に戦い抜いたガラス扉には毎日掃除しても点々と残る油の跡。でもこの数だけうちからクリスマスの風景が生まれていったんだ。
     そうやって、名も知らないお客様たちの生活だったり思い出だったりの一部に自分が密かに関われているのって悪くない。改めて思い返してみると、連勤なのも自分は全然リアルが充実しない人なのも苦しかった。これはプライベートの目から見た本音。でもオンタイムの目で見ればこの数日だけでも色々な人の色々な暮らしの端っこを垣間見られて、それは楽しかった。なんとなくでモラトリアムの続きをゆるりと歩いているところがあるのは自覚していたけど、道を固めていくのもいいのかもな。その上で客商売はたぶん、性に合ってる。
     泡沫のようなことをあれこれ考えながらも片付けは順調だった。うっとおしくなった三角帽子はもう脱いでしまってベンチコートのポケットに突っ込んだ。小物から先にダンボールにまとめて「クリスマス商材」と書いた貼り紙をして倉庫にしまう。ショーケースの中身は外して、洗える部分をシンクに持ち込んで業務用洗剤に漬け込み。ガワの方は作業台に移動させてモールとポップを剥がした。こいつらもご苦労様だったな。お祭り騒ぎの依代みたいなものが少しずつ解体され、手元から普通の冬の夜が取り戻されていく。まぁ明日には年末年始商品コーナーを拡大して拵えるんだけど。
     あとの廃棄品だったり未使用資材の返品についての段取りを店長と軽く打ち合わせて、店外販売コーナーに戻った。最後に剥がしたビニールクロスは今年さらにこなれて、畳むのがだいぶ楽になっている。むき出しの会議机を見たらほんとにクリスマス終わったんだなぁと実感も湧いてきた。

    「あー!! もう終わっちゃった!? 」
     調理済みチキンを仮置きしていた発泡スチロール箱の蓋の上にビニールクロスも置いて、一緒に店内に運び入れようとしていた。その背中に投げられた声はふにゃっとしてて、だけど雰囲気があって。でもどこか力の抜けたくたびれ感のあるしゃがれ声。……嘘だろ。
    「間に合わなかったかぁ……えぇー、もうダメぇ? もしかしてタッチの差だった? はあああー。もー、俺はいっつもこうなんだよぉ」
     今までよりはいくらか明るい顔色になっていたその人は、呆気にとられて何も言えなくなっている俺を前に一気にまくしたてた。
    「おととい帰ってからやっと休める! って達成感でもうご機嫌にチキン齧りながら、一人高らかにかんぱーい!なんてやっちゃってさ。あ、やるよね? いいことあったとき。やるでしょ? 一人祝勝会。なんなら司会やって乾杯の音頭もお祝いのスピーチもしたからね俺。それで調子よく一気に飲んじゃったら今度は気が抜けちゃったみたいでぐったりきてそのまんま気絶するみたいに寝ちゃったらしいんだよ。あ、おとといも美味しくいただきましたありがとね」
    「あ、いや、あの……」
     一人祝勝会って何だ。少なくとも俺は生きてきてそんなのやったことなかった。普通のことなのか? 乾杯するって、一人で? その酒宴は一人何役やってたんだ。いや今はそれはいいや。とにかくこの人はおととい誰かとグラスを合わせるためにチキンを二本とビールを三本買ったわけではなかったらしい。途端、発泡スチロール箱を持つ手に力が籠もる。……だけどそれなら残りのチキンとビールは何だったんだ。
    「そんで昨日なんかほんとになんも分かんなくてひたすらずぅっと寝てたの。そりゃあもう泥のように。今が昼なのか夜なのかも分かんないくらいメシも食わずに寝て寝て、やっと目が覚めた頃にスマホ見て、あれ今日クリスマスイブなの? って。二十四日ってそういやイブだったねって。二十三日にカタつける、しか頭になくてまたクリスマスとか全部頭から飛んでたんだよねぇ。こんだけチキン食っといて何言ってんだと思うでしょ? 俺も思う〜。でもほんとそんなだったの。まぁ結構追い詰められてたんだろうな」
    「でもよく眠れたならよかったです……」
    「いやーほんっとにひたすら寝た。んで今度は寝すぎてダルくてどうにもなんなくて。外に出んのかったるいなーみたいなこともあるかと思ってチキン二本買っといて良かったよぉ。しっかり冷蔵庫に入れてた自分を褒めたくなったね。だからイブはちゃんとクリスマスのチキンとして君のチキン食べてゆっくりビール飲めたんだよ、ありがとね」
    「いえ、俺何もしてないですし……」
    「いやいや、そんなことないんだって。大詰めのめちゃくちゃしんどいとこを助けられてたの。一日の終わりにここで小さなご褒美を君にもらって、二言三言他愛もない話をして帰る楽しみができたから頑張れてたとこあるんだほんとに。だから今日もと思ってたんだけどなぁ、クリスマスだしさぁ。あー、ほんと残念だ。急に別の客から今頃んなって内容変えたいとか言われて動けなくなっちゃって。ほうほうの体で手直しして会社出てきたら電車止まってるしさぁ……どうしてこうなんだろうなぁ俺ぁいっつも。一年間割といい子にしてたと思うんだけどねぇ」
     この人もサンタに忘れられちゃった人だったのか。コートのポケットに手をつっこんだままうなだれる男性を前に、自分の頭の中を冬の嵐が吹き荒れる。でもそれは枯れ枝を巻き上げて取水口に叩き込む世知辛さの風じゃない。
     この日に会えたことを運命とか劇的な言葉で飾りたくて浮かれてしまう単純さとか、やにわに息を吹き返して根を張ろうとする朽ちきらなかった期待や、やっぱりこの人の世話をしてあげたくなる困った性分。そういうのが一気にかき混ぜられてぶつかって、小さな火花があちこちに走るような。勝手に細胞分裂して増殖する色彩と温度のあるものがぐるぐる忙しなくめぐっている。たぶん世の人がときめき、とか呼んじゃっているものに覆われている。
     意を決して発泡スチロール箱を置く。なだれこんだクリスマスカラーより眩い彩りに弾け飛びそうな頭を抱えていた。今の血圧と脈を計ったらきっと医者が二度見する。
    「あの! っこれ、差し上げます。自分で食うつもりで買ったものなので、良かったら……どうぞ」
     箱の中には一本だけチキンが残されていた。自分で買ったのは……ほんとは諦めきれなかったからだ。この人がこんな風に今日ここに来ることを。
    「え、うそ。ほんと? いいの? 君のでしょ?」
    「いいんです。チキンだってこれだけご愛顧いただいてるお客様に食べてもらえる方が幸せですよ、きっと」
    「えーーーうそ!! 嬉しい!! お言葉に甘えちゃうよ俺。いいの? ほんとに? 」
    「はい……ただ、」
    「え?」
    「ちょっと待っててください! 」
     バックヤードに駆け込むと従業員用のミニ冷蔵庫を開けてビニール袋を取り出す。慌てていて、扉を思いきり閉めてしまったせいで店長が様子を見に来たけど「どうしたの?」を完全無視で急いで外に戻れば男性がきょとんとしたまま佇んでいた。あーくそ、かわいい表情しないでくれ。
    「あ、おかえり」
    「さすがにずっと揚げ物だと胃が疲れちゃうんで……。これ、グリーンサラダと白ワインです。これも差し上げます。ワインほんの少し振ってチキンあっためると香りよくて美味しいですから」
    「わぁ、至れり尽くせりじゃないの……でもそれはさすがにお代払うよ。いくらだった?」
     男性がコートに右手を突っ込んで財布を探ろうとするのをそっと押し止めてかぶりを振る。
    「いいです。こないだまでのお仕事終わったお祝い兼クリスマスプレゼントだと思ってください。消え物で申し訳ないですけど」
    「ええーすごい嬉しい。ほんとに嬉しいよ。でも今なんも返せるものがないんだよな俺」
    「サンタは贈るのが仕事ですから。お返し要らないです」
    ――強いて言うなら貴方のことがもう少し知りたいけど。この程度の淡いことを頭の中で思うくらいなら悪い子だとは言われない、よな?
    「うーーーん、ううーーーーーん」
     頭をポリポリ掻きながら何をか考える様子でうんうん唸っているのを見て、いつもと何か雰囲気が違う気がしていた理由に思い当たった。手袋をしていない。だからずっとポケットに手をつっこんでたのか。
    「あれ、今日は手袋してないんですか?だいぶ寒いのに」
    「え、ああ。そうなんだよ。今朝電車で揉まれてるうちに落として失くしちゃったみたいで。……ねえ、あのさ、そろそろ今年のサンタ業はおしまい?」
    「そうですね。もうすぐ夜勤の子が来るので引き継いだら終わりです」
    「うん、そっかそっか。そしたらその後はサンタが来るの? いやとっても失礼なこと訊いてるけども」
    「そうだったらこんな連勤してないですね……サンタかと思ったら炊飯器とコーヒーメーカー持ってっちゃったし」
    「ええ……何それ泥棒? 入られたの?」
    「そういうわけではないんですけど……まぁ出入りがありました」
    「あー、そしたらさ、俺が一日遅れでサンタ代わってもいいかしら? 明日ってお仕事ですかね?」
    「お客様に比べたらたいしたことない連勤でしたけど、一応休ませてもらえることになってますね」
    「よし、そしたら飲み行かない? おじさんにささやかなお礼させてよ。ってこれじゃナンパの台詞みたいだけどさ。でも君にもずっと頑張ってたご褒美が要るでしょ。 来る予定のないサンタより近くの労働者同士健闘を称えあおうぜ」
     からからと笑って右手でチキンを受け取り、ひっくり返った裏地とともにポケットから取り出されてサラダとワインの袋を受け取った左手に、指輪は……なかった。とりあえずなかった。とりあえず。
    「あ、俺門倉って言います。あはは、誘うのが先じゃ名乗るの遅ぇよな。ほんとナンパみたい」
    「キラウㇱ、といいます……」
    「おっけおっけ、キラウㇱくん。そしたら連絡先教えてよ。明日ここで待ち合わせでもいいけどさ」
    「あ、まっ……てください、えーと、あれ」
     焦りすぎてどのポケットにスマホを入れてたのか思い出せない。細やかな指示に定評のある監督のプレーサインくらいあちこち触った。赤くなりながらサンタ衣装の上着のポケットにあるのをやっと探り当て、取り出す間も門倉さんはふにゃふにゃ笑っていた。
     手は元から温かい方だけど、こんなに手汗をかきながら連絡先を交換したのは初めてだ。スマホが滑るし手も震えている。必死にごまかしながら新しく「ともだち」になった丸いアイコンには瀬戸物のたぬきが鎮座していた。
    「そのたぬき俺ね。なんか眠そうな顔とか、てれ〜んとかふにゃっとかしてる感じが似てるんだってさ」
    「フフ。あんなに必死にお仕事してたのに」
    「でしょお? ま、嫌じゃないんだけどさ。……狸にも牙はあるのにね」
    「え?」
    「ううん、なんでもない。キラウㇱくんのアイコンはこれ、鹿の角? かっこいいねぇ」
    「あ、はい。ありがとうございます」
    「なんか由縁があるならそれ明日聞かせてよ。楽しみにしてる。もー明日は絶対予定通り退社するから」
    「時間とか待ち合わせとか、俺合わせられますから連絡ください」
    「分かったー。んじゃ明日ね。チキンとサラダとワインほんとにありがとね、大事にいただきます。メリークリスマス!」
    「め、メリークリスマス!」
     ゆったり去っていく背中はやっぱり猫背でガニ股だ。でももう目が離せなくて、スマホを握り締めたまま片付けも忘れて住宅街方面に消えていく後ろ姿をずっと見ていた。やっぱりこっちに住んでる人かな。ビニール袋を両の手首にそれぞれ引っ掛けて、またポケットに手をつっこんで。一度躓きかけてた。
     姿が見えなくなってからスマホをタップしてみたらさっきのともだち一覧の画面のままで、たぬきのアイコンがいて、「門倉」と苗字だけで表示されていた。疲労が見せた幻覚じゃなかったことが嬉しくて、安心した。反面どうにもまだ不思議な感じがしてその場にしゃがみ込んでしまった。狸に化かされたかとほっぺたをつねったらしっかり痛い。よかった。いやよくない。それは夢かどうかを確かめるやつだ。あれ、どっちにも効くんだっけ。動揺が収まっていないことだけは分かった。
    「キラウㇱくーん、もうちょっとだから片付け頑張ってよぅ」
     自動ドアから上半身だけ出した店長が呼びかけていた。一緒に上がる予定のこの人だってずっと一緒にこの期間を戦い抜いた、いわば戦友だ。せめて今夜は娘さんに歩くチキンとか言われないといいんだけど。
    「……店長、クリスマスに欲しかったものよりもっといいものもらったときって、リアクションできないもんなんですね」
    「え、ほんとにどうしたの? 明日休みだから! ゆっくり休んでいいから! 片付けしてよぉ」
     店長の泣き言は右から左で、スマホの画面をもう一度確かめてからそっとベンチコートのポケットにしまった。夢見心地だったせいで会議机の脚を畳んだときに指を挟んだ。けどあまり痛くなくて、また夢じゃないかと不安になったりして情緒がいまいち怪しいまま今年のサンタ業を終えることになった。その様子を心配したのか、店長が帰りに「これ食べな」とミックスナッツの小袋をくれた。今日の肴にするつもりだったらしい。
     帰宅後、シャワーを浴びてからもらったミックスナッツと冷凍の鍋焼きうどんと梅酒ソーダで軽く晩酌した。気分は高揚しきっていて、昨日までのどんよりが嘘みたいな自分の現金さもなかなかのもんだ。だって取水口の枯れ枝はいつの間にか消えていて、頭の中はもう明日交代で来てくれるサンタがふにゃっと笑う顔で埋まっている。
     思い出していたらぶり返した緊張とやっぱり消しきれない期待で眠れなくなって、右手には秘密が……できてしまった。いや、左手もちょっとあります。悪い子だと言われたくないから、正直に……。

     翌日の待ち合わせは十九時だったけど、会えたのが二十時を少し過ぎたくらいだったのは門倉さんがまた仕事でトラブルに巻き込まれたから。でもこれはもう想定内だ。忙しいのもそうだけど、大事なときほどそういう目に遭うタイプの人らしい。
     ダメ男製造器と散々言われてきたけど今回はちょっと訳が違う。なんたって元から運がダメな感じの人だから。飲みながらゆっくり話す中で一人暮らしだということも分かったし、忙しすぎて自分のあれこれにはあんまり頓着がないらしいということも見えた。だからそんなあぶなっかしい人を多少の下心込みで俺が世話焼くくらいのことはしたって悪い子だとは言われないよな? な?



    ――クリスマスに欲しいのは沢山のものじゃないの。
     そう。ほんとにそうなんだ。休みなんだよ。俺たち二十代フリーター男性は今年もチキンをバンバン売る。主語がでかいと言われようが売る。売るけど、一人で走りきるつもりは毛頭ない。俺には休みが要るからだ。
     まだあの曲のことは国民のほとんどが忘れていて、どこからも全然聞こえてこないうちから密かにあの六日間を共に戦ってくれる仲間をスカウトし続けてきた。その甲斐あって今年は十二月の予定を聞いてくるときの店長にも心なしか気楽さが漂っていた。自傷に近い食い気味の「繁忙期出られます」も言わずに済んだ。
     どころかフライドチキンばかり食べたがる人に油分の制限をかけつつ、ローストチキンを作ってやる約束なんかしている。それから、野菜多めの鍋。あの日不貞腐れながら首から上だけすげ替えて一瞬見た儚い夢の景色は今年、首から下も俺にしてもらえることになった。
     ただあの人はほぼ確でトラブルに遭うはずだ。天気予報を見る限りここらへんは雪の街にはならなそうだけど二十時よりは絶対遅れて来るし、つむじ風には巻かれてくちゃくちゃの姿で現れかねない。でもサンタクロースがプレゼント抱えてる恋人になるパターンもあるんだぞ。プレゼントが無事な姿で届く保証はない。それでもこの二十代フリーター男性は幸せないい子だからサンタさんに感謝の手紙でも書こうかな。来てくれてありがとう、って。
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    くいっくすた

    DONE法務部✳️と工務部🦌のとこにいる✳️推しモブ子による観察記録。
    先日上げたバレンタインの話(問答無用の大遅刻)の日のモブ子視点。以前からたまにモブ子を書いていたので、ちょっとじっくり✳️🦌というか✳️部長の纏う「ニオイ」を探ってもらいました。
    途中途中の細かいとこの補完はできれば前の話を読んで欲しい…っ!
    🦌は影くらいしか出てこないです…。
    定点観測第X次中間報告―それでもモブ子は推したい― 総務、法務、品質、人事、我が経理。リモート業務がすっかり定着した当社にあっても、実は内勤部隊の出社機会は他部署に比べまだ多い。
     御用聞き的なところもあるし、現代的労働環境の申し子であるはずのITチームだって機器が社内にある以上全く出社しないわけにはいかない。
     内部の人間と関わるのが業務の大半を占める私たちは、皆の様子を気にかけておくのも仕事の一部だ。単に私がちょっとお節介焼きなせいもあるけど、職業病に近い。そしてこのところの私の気にかけ職人魂を断然揺さぶり続けているのが法務の門倉部長。
     総務との兼任部長というなかなかの重責ポストでありながら、そんな素振りをちっとも見せない。偉ぶるところはないし上下も部署間も関係なく誰にでも対応が柔らかい。というか柔らかすぎてもはやユルい。
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    くいっくすた

    DONEきょうはなんの日?【耳の日】
    ついったに不定期で載せてるきょうはなんの日シリーズ。ほとんどが140字なんですが、少しだけ長めのSSで。
    例によって3月3日の当日には全然間に合わずの大遅刻。
    竹で作るバージョンが百年以上前の科学本に載ってたそうです。北の大地に竹は自生しないので謎ルートで入手した謎の高級品仕上げに…。
    伝う 長い冬の鎖からようやく解放されつつあるらしい。開く花々に満ちるのはまだ先だろうが、雪解けの土の下には真新しい緑色の気配が顔を出し始めている。
     弥生初めの午後などまださほど温もりはしないものの長閑で、縁側には柔らかく陽が差し込む。座卓にガラクタ様の材料をがらがらいわせながら並べてみたら、早速好奇心の強い男が寄ってきた。
     皆出払って今日は夜まで暇だから気まぐれに思い立って、ちょっとしたツテで調達してきたものだ。いやまぁ大体暇なんだけど。今日はそれなりのやる気と創意が天から降ってくる方の暇な日だったのだ。
    「門倉何だこれ?わざわざゴミ拾ってきたのか?ジジイ見分けつかなかったか?何する気なんだ?」
    「ちょっとちょっとそう矢継ぎ早に訊くんじゃないよ。ひとっつずつ順に訊きなさいっての」
    4504

    くいっくすた

    DONEクリスマス前から6日間の現パロ門キラです。ハロウィンに続き引くほど遅刻して載せます。
    イベント事のまとまったお話がほんとに間に合わせられません…。
    ※年齢操作しています。自分の思う原作軸門キラより10歳くらい若いイメージです。門さん40手前くらい、きらし20代後半~30手前くらい。
    ※オチウもヌンヌンもないよ!ちょっとだけもにょもにょはあるかも!
    シックスデイズワンダー(あるいはホーリーチキンレッグスの威光)――クリスマスに欲しいのは沢山のものじゃないの。
     そうだな、そう思う。休みだよな。またはこのシフトを分かち合って半分、いやせめて二日くらい出てくれる人。今日、二十日からクリスマスの二十五日までフルで六連勤だ。六連勤自体はさほど辛いことじゃない。勤め人なら普通にあり得ることだろうし、世の中もっともっと長い日数の連勤をこなしている人がいることくらい知ってる。でもこの六連勤は普通のそれとは段違いに削られるんだ。心が。疲弊する。萎れてしまう。不幸だとは思わないまでも、流れに受け入れられず川の取水口で引っ絡まっていつまでもくるくる廻ってる枯れ枝を見てるみたいな、なんとも言えない侘しい気持ちになるんだ。
     赤い三角帽子に申し訳程度のムートンもどきなモコモコがついた真っ赤な上着とズボン。どっちも割とペラくて、見た目だけは世のお祭り騒ぎに自分たちもきちんと則っていますよということしか示せない、低すぎる防寒性能。結局ベンチコート着るんだからこんなの仕込んでおく必要あるのか? この装備でこれから寒風に晒され声を枯らし、ひたすら虚空に向かって叫ばなければならない。
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