日中でキスをせがんだり、不意打ちでキスをするのは2号だ。1号からは滅多にない。常にスーパーヒーローとして、ヘド博士のガンマとして行動している。2号もそのつもりでいるが、自分はちゃんと“隙を見て上手く息抜き”をしていると思う。それに対して1号は良しと思わないし、同調などしてくれない。まあそこが彼らしくて良くて好きで、そういう関係になったのだが。
不満はないかと言われたら少し……? いや、ない。ないよ。だって1号は————
皆、寝静まって真っ暗な夜。誰にも見つからない秘密の場所で、ガンマたちだけの時間が始まる。仰向けになる2号にそっと覆い被さる1号が、恭しくお手本のようなキスを落とす。真昼間に受けたお返しなのか、その倍の回数と愛を込めたものをくらう。決まってする場所が額、こめかみ、瞼、頬、首筋、そしてようやく唇。どこもかしこも甘く優しいのだが、とにかく長い。唇を押し当ててたっぷり数十秒かけ、離れたかと思えば角度を変えてまた同じくする。焦ったくてたまらない。丁寧に施された2号の体は弱々しく痺れて震え、電子回路中が1号のことしか考えられなくなる。
「2号……」
そんな状態を知ってか知らずか、1号が目を細めて笑いかける。ああ、なんてかっこいいんだろう。途端に2号の顔面がオーバーヒートを起こし所為、赤面状態になる。
「あっいちご……っお、おねがい! その顔、ボク以外に見せないで」
「え?」
「はかせにも、みんなにも見せないでぇ……ぜったい好きになっちゃうからぁ……!」
堪らない唸り声を溢して1号の胸にしがみ付く2号。突然の可愛らしいお願いに1号の体がギシリと音を立てて止まる。
何を言っているんだこいつは。その顔とはどんな顔だ。わからない。私が何をしたというんだ。それはそれとして2号が買い被りすぎているのを正さねば。お前が誰しもから人気になるのはわかりきっているが、私はそうはいかないだろう。もちろんスーパーヒーローであることは信念であり、博士の理想とする正義の……
「——ね、いちご……1号ってばぁ!」
はっ、と1号が覚醒する。目下に未だに自身の胸元を摑んで、上目遣いで心配そうに見上げる2号がいた。
「あ、すまない。考え事をしてしまっていた」
「……もしかしなくても、ボクが変なことお願いしたから、だよね。ごめん。気にしないで」
「違っそんなことは……」
明らかに落胆している2号に何と言葉をかけて良いか、咄嗟に詰まってしまう。やはり自分は気の利いた事の一つも言えない、お堅い奴なのだと思う。だから、正直に伝えるしかないのだろう。1号は一つ咳払いをして、2号を抱き起こすとお互い座ったまま向かい合う姿勢になる。
「お前が私のどんな顔を見たか知らないが、恐らくこんな時でしか見せないと思う……から、安心してくれ」
真っ直ぐ見つめ、偽りなく言葉にした。
言われた2号はポカンとした表情をし、すぐさま軽く吹き出して笑った。
「なぜ笑う」
「んー? ふふっ。1号がだーい好きだからだよ」
嬉しそうにぎゅっとしがみつく2号。何だか釈然としない気持ちになるが1号の表情は満更でもない。そのまま2人は仕切り直して、博士が心配しない程度の時間まで今日も互いを確かめ合うのだった。