※CCで都合良く3人でお世話になってる。
「よし、終わった!」
PCのエンターキーを軽快に押し、ゲーミングチェアを回転させて後ろを向くヘド博士。壁にかかっている時計の針は午後3時を示している。本日も予定通りに仕事を片せた。自分の有能さに笑みを溢さずにはいられない。
再度PCの方へ振り向き、席を外す前にデータの保存も抜かりなく行い、一時シャットダウン。陽気に鼻歌を歌いながらヘド博士は立ち上がり、とある場所へと足を運ぶ。
「今日は何を食べるかな〜っと」
歩きながら背伸びをしつつ、頭の中で大好きな甘いお菓子を思い描く。CCでお世話になって以降、ヘド博士の3時のおやつタイムはグレードアップされ、仕事への意欲が劇的に変わった。ブルマ博士の計らいでヘド博士のお気に入りのお菓子が全て、毎日常備されている。RR軍にいた頃は最推しのクッキーはあったものの、他のお菓子はマゼンタの好みのものばかりで、食べられる量も限られていた。
“やる気アップに繋がるならこれくらい、安いもんよ。ママやブラ達も食べるし、気にしないで“と、ブルマ博士の言葉に、ヘド博士は頭が下がる思いだ。本当に毎日この時間が待ち遠しい。
「昨日はケーキを食べたしな……悩むなぁ」
己の欲にじっくり聞いてみる。喉が渇いていて、ちょっと暑い。となれば一択だ。甘くて冷たくて美味しいアイスクリーム! もちろん高級なパッケージの、有名なカップアイス。
食べたいものが決まり思わず駆け足になる。
(あっ。せっかくだしガンマ達と一緒に食べたいな)
最近、食事機能を備えたガンマ。まだアイスクリームを食べたことはない。データを取りたい気持ちはもちろんあるが、それよりも美味しいものを一緒に共有したい。
そう思ったヘド博士はガンマが修行してくると言っていた重力室へ、行き先を変更した。
◇
「おーいガンマ! そろそろ休憩、を……」
重力室の扉を開けたヘド博士だったが、目の前の光景に愕然とした。自慢のガンマが揃いも揃ってボロボロで、いがみ合って闘っている。負荷のかかる重力など物ともせずに額を押し付けあい、互いの両手を押し合って均衡状態だ。
「いい加減認めろよ1号!」
「嫌だ。お前こそ認めろ、2号!」
「な、何をやっているんだお前たち!」
たまらず駆け寄るヘド博士。だがここは重力室。一歩踏み入れただけで一瞬にして鉛のように重くなった足にバランスを崩し、体が傾く。
もう地面が目と鼻の先だったが、気がつけば見知った黄色の腕の中。間一髪のとこで二人はすぐに博士の存在に気づき、救助に成功。
「ありがとう。2号」
「ダメじゃないですか博士! ここに入る前には連絡して下さいって言ってたでしょう」
「う、面目ない。1号もありがとうね」
頭上からの2号のお叱り、もとい心配の言葉をシャワーのように浴びせられる。1号は重力室のコントロールパネルをいち早く操作して、通常状態に戻してくれていた。おかげで何も苦しくない。
「博士が無事で何よりです。それより慌てていらっしゃったようですが、緊急の用件でも?」
「緊急……あ!」
自分の失態に冷や汗をかいていたが、事の発端を思い出す。
「お前達、何でそんな状態なんだ!? 原因は何!?」
「「あ……」」
ガンマ達も博士の救助にすっかり思考が切り替えられていたようで、いかにもしまった、という表情をした。只事じゃない予感がしたヘド博士は1号を側まで来させ、2号の腕から抜け出すと、二人と対峙する。
「怒らないから話してごらん」
「その言い方って絶対怒るパターンですよね?」
「こら、2号。……すみません、ヘド博士。私から言います」
「うん」
「…………」
言うと言った1号だったが下を向き、時折り目線を2号へ向けるとすぐさま視線を逸らす。2号も同じように1号をチラチラと見ている。何なんだ。
「1号?」
流石にこれ以上待ちきれず、いつもより低めの声で催促するヘド博士。
「っ……! どちらがかっこいいか口論になった末に、つい手が出てしまいました!」
「……うん?」
観念して意を決する思いで1号が白状をした。しかし、その理由を聞いてもヘド博士はすぐに理解することができなかった。
「すみませんでした博士。でもボク、1号にわかって欲しかったんです。1号の寡黙でクールなとこがかっこいいって」
「何を言う。2号の分け隔てない優しさとスーパーヒーローを目指す姿勢がかっこいいんだ」
「はぁ? そんなの1号と比べたら全然だよ。この前パンちゃんが“1号さんは王子様みたいでかっこいい”って言ってたし!」
「私もブラちゃんから“2号くんはアイドルみたいでかっこいい”と聞いたが?」
(えー……っと、つまり……)
1号が言ったとおり、どちらがかっこいいか揉めていただけのこと。それだけで乱闘までいくものだろうか。ヘド博士は久々に頭を悩ませた。現にまた二人は言い合いをして今すぐにでも殴りかかりそうな勢いだ。
「あのなぁお前達……」
「そうだ博士! ボクと1号、どっちがかっこいいと思いますか!?」
「どちらでしょうか!? 2号ですよね!?」
「1号ですよね!?」
「えぇ……」
まさか議題の矛先が自分に来るとは。急に振られたものだから驚き、言葉に詰まる。この場合、回答が長引けば長引く程言い辛くなるし、変な期待が高まってしまう。
だがヘド博士は冷静に、時間を置いて考える。大事な大事な自分のガンマがどんな理由であっても、悩んでいるのなら解決してあげたい。研究者故に、二人の生みの親故に、なるべく正しい答えを導き出したい。
二人の目は期待と不安に揺れていた。流石超天才の僕。些細な感情のアウトプットが精巧じゃないか。
「お前たちにはそれぞれ良さがある。というか、僕が作ったんだからかっこよくないわけないだろ?」
どちらか、なんて選ぶまでもなく、ヘド博士にとってはそもそもの話だった。ガンマはかっこいいヒーロー。自分だけの最高傑作。
言われた二人はといえば、鳩が豆鉄砲を食らった顔できょとんとしている。もしかして、求めていた答えではなかったんじゃないかと、だんだん心配になってくる。
「ガンマ、」
「わかりました、博士! なっ1号」
「ああ。よくわかった。ありがとうございます、博士。目が覚める思いです」
「お、おお。よかった。嬉しいよ。さ、ボディのメンテしに行こうか」
元気に返事をして博士の後に続くガンマ達。ヘド博士の当初の予定であったアイスクリームをこの後、仲良く食べるだろう。そして博士は知らない。ガンマ達の内部通信で出た結論を。
——ヘド博士が1番かっこいい!
✩オマケのヘドガンヘド
事あるごとに博士が
「1号、かわいいな」「2号、かわいいね」
と言いまくった結果。
「「どっちが1番かわいいですか!?」」
(うわぁあああああ)
「どっちもかわいいは無しです!」
(えええええぇええ)
自分を指差して
「僕が1番かわいい! ……な、なーんて」
「そのとおりですね博士!」
「博士は天才的にかわいいです!」
(もうやだくそ恥ずかしい!!)
こんなパターンも好きです。
可愛さに振り切った博士もいいし、24歳の大人の底力を発揮する博士もでぇ好物です。