俺たちの永遠 むかしむかし、まだ創造神が生まれる前、世界が混沌としている時、俺たちは存在していた。
ふたりでひとつ、どんなときも一緒だった。言葉なんてものは俺たちにはいらなかった。言葉なんてなくても全て分かりあっていた。実態なんてなくても、自分たちが何なのかさえ分からなくても、何の不安もなかった。
俺たちは幸せだった。
俺たちは永遠にこの時が続くと思っていた。しかし、終わりは突然やってきた。永遠なんてものはないのかもしれない。
俺の半身であるお前が消えてゆくのを俺は受け止められなかった。ずっと一緒だったお前を失うことなど考えたこともなかった。俺たちのどちらかが無くなってしまうことなど、この世界にそんな事象など起こりうるわけがないと思っていた。
俺は弱っていくお前を包み込んだ。よりお前を感じていたかった。この悲しみを言葉などいらない俺たちは容易に共有することができた。
なぜ消えていくのがお前なのかと、途方に暮れたが、結局俺はお前を置いては行けない。
だから永遠などないのであれば、お前が消えてしまうその瞬間まで、俺が一緒にいられることが俺の一番望むことであった。
お前が消えていくその瞬間、最後にお前が俺に伝えてくれたその想いを俺は確かに感じた。
『また逢う日まで』
俺は悟った。あぁこれで俺たちは終わりではないんだ。やはり永遠はあったんだと。
お前は最後までひとり残してしまう俺のことを想って、なるべく俺が悲しまないように、永遠を教えてくれた。
俺はお前の存在が完全に消えたのを感じた後、後を追うように徐々に周りのものに同化して、溶けていくように消えていった。
✱✱✱
俺は子宮の中を揺蕩っていた。
俺という存在ができ始めたばかりで、まだまだ小さい俺は朧気に、ここで揺蕩うことはとても気持ち良く、そして居心地良く、ずっとこのままでいたいものだ。と思っていた。
しかしすぐに俺は感じた、俺の大切な半身の存在を。
ここには俺の以外に3つの魂が生まれていた、その3つの小さな小さな存在の中にそれを確かに感じた。
大切な半身を感じた瞬間、以前の記憶が俺の全身を駆け巡った。俺の半身であり俺の永遠。
『また逢えたな』
かつてと同じようにお前をすぐにでも包み込みたかったが、それは叶わず、少し触れることしか出来なかった。
悔しさを感じたが、俺たちはまたこうして永遠の続きを一緒に描くことができる。焦る必要はないと俺自身を納得させた。
きっとお前も居心地の良いこの場所で気持ちよさそうに揺蕩っているのだろう。今はお前を感じることができることが幸せだ。ただそれだけで良い。
この居心地の良い場所から出れば、俺はかつてのようにお前を包み込むことができる。ここにずっといたいと思っていたが、お前の存在を感じてからは、この世に産み落とされるその時を待ち望むようになった。
✱✱✱
「セト」
「うるせえ、俺に話かけるな」
セトは俺に目もくれず行ってしまった。
俺たちは神の兄弟として生まれた。どうやらセトにはかつての記憶がないようだ。
俺にはあの時からお前だけを大切に思ってきた記憶があり、その気持ちはこれからも変わらない。お前はいつだって大切な半身であり、俺の永遠。
『また逢う日まで』
俺に永遠はあると教えてくれたこの想いを、俺は幸い思い出すことができた。そして、こうしてまた同じ子宮で生まれた俺たちが永遠でないわけがない。
セトには記憶がない。でもきっと心では俺たちの何かを感じとっているはずだ。
記憶がないことで、それを受け入れられていないだけだ。この世に産み落とされてから数千年経った今でもなお脳と心がバラバラで戸惑っているんだろう。
俺たちのことを思い出せなくても良い。いずれセトの心が全て証明してくれる。そして俺たちは永遠を感じるだろう。
俺たちはいつだってふたりでひとつ、どんなときも一緒だった。
これまでもこれからもずっと。