白昼夢その時、俺は広間に向かう回廊にいた。
あぁ、また夢か。俺は回廊の柱や天井を見回しながら直ぐにピンときた。普段忙しくて走り回ってる文官が一人もいないから、これは夢だ。
最近やけに、現実味が強い夢をよく見る。怪我をしたり、水に触れたり。感触だってある。
それと、夢でよく会う奴もいる。
「あ、李典殿、こちらにいらっしゃったのですね」
「楽進」
案の定。俺の夢は都合がいい。
突然現れた楽進は如何にも夢らしく、戦に出るかのような鎧をきちんと着て俺に声をかけてきた。
俺は楽進のことが好きだ。無論、そういう意味で。
だから楽進が夢に出てくるのは嬉しい。
昨日は一緒に遠駆けに出た。夢の中だけど、風を感じて確かに楽しかった。おとといは、何だったかな。毎日夢に楽進が出てくる。
「李典殿がどちらにもいらっしゃらなくて、探してしまいました」
「俺を?」
なんと、と楽進は目を丸くする。
「今宵は共に食事を、と約束していたではありませんか」
そうだっけ?
あぁ、まぁ夢だからそういうことなんだろうな。
「あーそうだった。悪い悪い」
忘れてた俺を咎めるような、不満げな表情を浮かべた楽進。そんな顔するのか、あんた。唇尖らせて。あぁ、可愛いな。好きだ、好きだ、楽進。
けど、すぐ楽進はいつものように目を細めて微笑む。その顔も好きだって思う。楽進の全部が、俺は好きだ。
「それで、ですね」
李典殿、と。
「明日、私は休みをいただいているのですが、李典殿はいかがでしょうか…?」
明日?
「休みだけど」
そう、俺は今日調練で、明日は休み。夢の中の俺はそういうことなんだ。都合が良いのは夢だから。
「では、その」
きゅ、と俺の指をつかむ。
楽進の目はわずかに潤んでいて、子犬を思わせるような目をしていた。
「泊まっても、よろしいでしょうか」
おずおずと見上げながら問う楽進。
俺と楽進は、そんな泊まり合うような関係だったか?
「楽進……」
あぁ、そうか。これは夢だから。
夢の中だから。夢の中でくらい、いいだろ。
俺は楽進の指を絡めとり、空いている手を腰に回して抱き寄せて。
少し空いた唇に。
目を開けた俺は回廊のど真ん中にいた。
「……あ……?」
普段忙しく走り回ってる文官が一人もいない。回廊には俺しかいない。
なんだ、これも夢か?
回廊の柱や天井を見回す。夢と区別がつかない。正直、夢よりか少し色褪せているように見える。
「あ、李典殿、こちらにいらっしゃったのですね」
楽進が俺の元に駆け寄ってきた。
「がく、しん」
夢と同じように、鎧を着て俺の前に現れた楽進。
あれ、予知夢だったのか?
「今宵は共に食事をと約束しておりましたが、大丈夫でしょうか?」
「え、ぁ…?」
これも夢と同じ。いや、現実だったのを夢に見た?
どっちが夢で、どっちが現実なのか。
「…李典殿、顔色があまりよろしくない様子ですが」
楽進の手が俺に伸びる。
俺は咄嗟にその伸びた手を掴んだ。
夢と同じくらい温かい、楽進の熱が伝わる。
「あの…李典殿……?」
掴まれた腕を締め付ける指の力に困惑する楽進が李典を見やる。
李典は楽進の腕を掴んだまま、冷や汗を額ににじませた。
これは、夢と現実、どっちなんだ?