僕を呼んで なぁモブ、眠れないんだ、話し相手になって。
師匠は最近やっと僕に甘えてくれるようになった。
この人がこんな風に言うなんて、かつての僕は想像できたであろうか。
この人の白髪が混じった栗色の柔らかな髪を梳きながら、一緒に過ごした年月と僕の手にある幸せを感じた。
この人のことをかわいいと思っていたけれど、こんなにももっともっとかわいい部分があるなんて知らなかった。
僕が知らないあなたが隠してる、隠していたかった部分ももっと知りたい。
僕は頼りないかもしれないけど、あなたが頼れるような人になれるように頑張るから。
――僕をもっと信じてよ。頼ってよ。
何度もあなたに叫んだこともあったけど、やっぱり僕は子どもだったのかもしれない。
伝わらない僕の想いに何度も泣いた。どうして伝わらない?どうして分かってくれない?こんなにも僕はあなたのことを……つらくて悔しくて何度も唇を噛んだ。
僕なりに大人のつもりで、あなたと対等でいるつもりだったけれど、所詮は子ども。
あの時の僕には、あなたの大人のベールをとることはできなかったんだ。今なら少し分かる。
あなたが時折こうして甘えてくれるから、あのときより僕は大人になれたのかな。
あなたが眠そうに、いつもよりゆっくりと優しい声で話すのを相槌をうちながら聞いて、手を握ってと言われれば、髪を梳いていた手をそっとあなたの手に絡める。僕より少し細くて長いその指は、節がしっかりして紛れもなく男の手だと感じる。――愛おしい。
その存在を確認するように、何度も優しく握ってみる。それに呼応して握り返してくれるのが嬉しくて、少しだけ強く握り返す。
大丈夫、僕はずっとそばにいるよ……。
って伝わるように願いを込めながら。
眠れないのなら、夜がこわいのなら、僕を呼んでよ。僕だけを呼んでよ。すぐにあなたの元に行くから。話くらいいくらでも聞くよ。手だって握るよ。いつだって僕はあなたのそばにいる。何度だって僕を呼んで――。
おわり