それでは世界に喧嘩を売ってみようか。 眩くも温かな太陽が沈み、冷たい夜の帳が下りていく。街には煌々と明かりが灯り出し、聞こえてくるのは活気のある賑やかな声。そんな喧騒を避けるように、己の身長ほどあるシルバーケースを背負いながら乙骨は、人通りのない裏道を歩いていた。
くあっと漏れ出た欠伸は立て続けの任務のせいで、心身ともに疲労困憊状態。本当ならば帰って休む予定だったが、急に呼び出してきたのは自己中心的な主だ。遠方での仕事の帰り、アジトに戻ろうとしていた矢先の出来事。端末へと入った連絡に頬がひく付き、「またか」と新幹線の中で頭を抱えたのは言うまでもない。
乙骨が身を置く組織のボスは、自由奔放な人である。上に立つ者としては文句の付け所がないが、破天荒で非常識の塊。傍若無人な彼に周りが振り回されるのは、もはや日常茶飯事だろう。頼られていると喜ぶべきか、都合よく使われていると嘆くべきか。さすがにボス直々のお願いを断れる訳もなく、駅で待っていた構成員から受け取った仕事道具。乙骨がやるべきことはただ一つだ。
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