Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yotou_ga

    @yotou_ga

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    yotou_ga

    ☆quiet follow

    途中まで思いついたは良いけどオチまでたどり着けなかったファンタジーパロのメモ

    月しかない世界に遣わされた太陽のこどものはなし

     夜しかない世界。虫食い穴のような星が点々と煌めく夜空には、ぼんやりと丸い機械が浮かんでいる。人工照明である「月」は、かつてこの世から太陽が失われる際に造られたもので、代々の王族が管理している。地上の人々は、月が放つ幽かな光をレンズで集め、細々と作物を作っている。高地ほど月の恩恵を受けやすいので、地位の高い者ほど高い場所に住み、大型のレンズを屋敷に備えている。高所では電力も賄える。
     アルジュナは次の王の候補。月明かりのいちばん良く照る屋敷で生活している。下に住む民との格差を憂いていたり、そもこんな世が続いたところで何の意味があるのか、いずれは月の光も枯れるのに、とか世を儚んでいたりする。
     ある日、何処からともなくひとりの少年が下の町に現れる。今の今まで誰もその少年を見たことはなく、一体どこから来たのか、何者なのかも不明だったが、それ以上に彼が人々の関心を惹いたのは、彼が放つ光だった。
     正確には、カルナと名乗る少年、その人が光っているわけではなく、はたして如何なる原理なのか、彼が居る周囲は不思議な暖かな光が充ちるのだ。光源も見当たらないのに、光は彼を中心にして、一帯を眩く包んでいた。月の光とは比べ物にならない明るさで。
     最初下の町の人間は、単に珍しがった。そしてやがて、彼の光なら月よりもずっと効率よく作物を育てられることに気付いた。彼らはカルナを迎え入れ、食事を与え、代わりに作物を照らして貰った。彼は喜んで協力した。
     しかしやがて彼の噂は、高台の町へと流れ着く。高台の一角に住む領主のひとりは、彼の噂を聞きつけると、部下を伴ってカルナを強奪した。王による支配を疎んでいた領主は、カルナの力で戦力を蓄え、王家に反逆するつもりだった。カルナが連れてこられたのは緑まばゆい畑ではなく、暗い屋敷の地下だった。
     カルナは命あるものなので、当然彼の光は永遠に続くものではない。ならばカルナの光は戦力へと転化し、月を奪おうと領主は画策した。
     噂は王家の耳にも届き、彼らは高台の領主の所業をも知った。当然捨て置ける話ではなく、彼らはカルナを奪取すべく高台へと攻め入る。アルジュナが先陣を切り、月を味方にした軍勢は領主の部下たちと激しい戦いを繰り広げる。
     だが領主の戦力は圧倒的だった。莫大なエネルギーを用いて、彼の部下は軍勢を押し返す。埒があかず、それどころか劣勢になった王家は、兎も角彼らの「燃料」をどうにかしようと考えた。
     なるべくなら生きて捕らえたいが、最悪殺しても構わない。作戦を立てたのはアルジュナだった。軍勢が領主たちの目を引いている隙に、アルジュナは単身屋敷に忍び込む。そして地下で、カルナを見付けた。
     そこは、今まで見たこともなく眩しい場所だった。目が焼けるかと思ったくらいだ。徐々に目が光に慣れると、中央に横たわる人影が見えた。ゆっくりと彼に近付く。
     だが彼の姿がはっきりと見えた途端、思わずアルジュナは口を手で覆った。目に映ったのは、白い肌、白い髪、そして焼けただれた皮膚だ。鎖で床に繋がれた彼には、首や胸、手足にコードが接続されており、無理に力を引き出された影響なのか、接続部が酷い火傷を負っていた。光に包まれた少年はすっかりと衰弱しており、目を瞑ったまま、はくはくと浅い呼吸を繰り返している。外では戦闘が続いており、今も彼は力を奪い取られ続けているのだ。
     アルジュナが彼を見たとき、浮かんだのは憐れでも、領主への怒りでもなかった。目の前に横たわるこの少年は、太陽だ。かつて空に浮かんでいたというアレだ。自分には、この太陽を正しく運用する義務がある、と彼は確信した。
     普段の彼であれば、この正しい運用とは、月と同じようにカルナを用いて、この世を照らすことを指したはずだ。これだけの光だ、永遠のものではないにせよ、数十年、或いは数年だったとしても、世界を明るく照らすことができる。しかし今彼は、全く違うことを考えていた。
     彼を見た瞬間、何故だか彼は解ってしまったのだ。これは自分の運命だと。
     これは世界を照らすための光ではなく、今度こそこの世を終わらせる光だ。自らを燃料に、この世界を燃やし尽くして息絶える光だ。太陽の神が遣わした慈悲、終わりの少し手前で細々と生きる我らに与えられた、熱を伴う潔い死なのだと、アルジュナは理解した。
     アルジュナが鎖を外し、コードを抜いてやると、部屋を充たす光は少しだけ弱まり、代わりにカルナが目を覚ました。ああ、と呟く。見付けた、とも。見付けてしまった、とも。
     お前はこの停滞を滅ぼさなければならない、とカルナは言う。それこそオレが父に与えられた使命だとも。自分を使い、このとっくに終わっているべき世界を滅ぼさなければならないと。
     ひとまずカルナを抱えて屋敷を脱出するアルジュナ。しかし光をばら撒く彼は何処に居たって目立つ。大昔の地下施設への入り口を見付けて逃げ込む。
     本当に世界を滅ぼすのか。そう言うと、カルナは今度は口籠った。父は滅びの役目を自分に与えてここへと遣わした。けれど、それは自分の望むところではない。目を伏せてカルナは言う。
     下の町を見た。人の笑顔を見た。自分が放つ光を受けて、美しく輝く植物たちを見た。太陽の光とは元来、大地を育むものだ。それを受け継いで生まれた彼には、この世界を滅するという意思は、どうにも抱くことのできないものだった。
     だが偉大なる父より下された使命を放り投げることもできない。月を扱う王族であれば、太陽もまた扱うことが可能であるという。だからカルナはアルジュナの元へと遣わされたのだが、真っ直ぐに会いに来なかったのは、この世を焼くことをどうしても良しと出来なかったからだった。
     いずれにしても、オレだけの意思では力は扱えない、とカルナは言う。精々周囲を照らすくらいだ。この炎本来の力を扱うにはアルジュナが必要で、ひいてはアルジュナの意思が必要だった。
     そこへ彼らを見付けた領主の一味が襲ってくる。逃げるためにやむなくアルジュナはカルナを「使う」。光の条線が暗闇を焼き、敵の足元を焼き払う。すごいな、とカルナは感嘆する。何故父がオレを王ではなく、お前の元に遣わしたのかが分かった。今の王よりも、お前の方が、ずっと上手くオレを使いこなせるからだ。
     違う、とアルジュナは思う。現王であれば、カルナや太陽神の意思に関わらず、少しでも民が長く生きられるように力を使うだろう。アルジュナが選ばれたのは、この憂いと厭世の故だ。いつかは終わるこの世界が続くことに意味を見出せないという、この心こそが、太陽神の眼に留まったのだろう。
     期限はあるのかと、アルジュナはカルナに問うた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏😭🙏😭🙏😇💘☺☺🌞🌕🌞🌞🌞🙏😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works