こたつと髭膝今年もこたつに蜜柑の季節がきた。
いつもなら、僕のために蜜柑を剥いてくれる弟が、今はいない。
戦力拡充で僕らの経験値が二倍になる戦場があったからといって、さすがに僕らは過度な出陣をしすぎていた。
そして弟はあるとき、赤疲労で帰ってきたかと思えばポンっ、と煙を吹き出し、刀に戻ってしまったのだ。ちょうど審神者の体調もよくなくて、弟は赤疲労と審神者の体調不良のあおりを受けて刀になってしまっている。
「お前はいつまで寝ているつもりかな」
一人で蜜柑を食べても、酸っぱいだけだ。弟が剥いてくれたらおいしく感じるのに。
主は結局インフルエンザというやつで、悪化して政府の病院に運ばれた。主の霊刀が戻れば弟も戻るはずだ。そうでなくても再顕現してもらえる。だから今はこらえてくれと薬師くんに言われているから、僕は大人しく待っている。
陸奥のサーバーであるこの本丸は天候も現代陸奥国のもので、霜月になれば各々こたつを設置する。弟が寒がりだからと早々に部屋に用意したこたつに、僕はいま一人で入っていた。
虚しい。
ふと思い立って、僕は刀掛けの弟に手を伸ばした。
「よっ……と。ふふ、これで二人だね」
弟の本体を抱きしめてこたつにあたる。
「いいこいいこ」
柄を撫でて、口づけた。
そのときだ。
ぽんっ、と音がして、煙と桜吹雪が舞った。腕に重みが増えて、体積が増す。慣れた抱き心地に、僕はなんとなく起きた出来事を察していた。
「おはよう。お寝坊丸」
桜吹雪がやんで現れたのは、本体を抱いた人の形の弟で。
「……膝丸だ、兄者……」
寝起きのぽやぼやした顔で、僕を見上げるのだった。