現パロいちつるまだ私が小学生になりたての頃でしょうか。鶴姉と出会った時のこと、今でも覚えています。
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うろちょろ元気に動きまわる鯰尾と骨喰、何度言ってもオモチャを片付けない薬研、クレヨンでよく床を汚す乱、よく泣く厚とその面倒にかかりっきりのお母さん、そして仕事が忙しくてなかなか遊んでくれないお父さん。大好きな家族なのに、一緒にいるのが嫌になって、家を一人で飛び出した日のことだった。
といっても小さい身ということもあり、家出先に選んだのはいつも遊びに行っている公園だ。最初はちょうど遊びに来ていた同級生の友達と一緒にいたけれど、みんな帰ってしまって、僕は夕日に照らされながら心思いをしていた。
寂しいなと感じつつも、まだ家に帰る気にはなれず、ブランコに座りながら足をぶらつかせる。
せめてさっき友達には相談すれば良かったのかな、と後悔の思いが強くなってきた頃だった。
「わっ‼」
突然後ろから聞こえた大きな声に、びっくりして体が浮いた。
知らない人の声だ。声からして同世代の子なのかもしれない。嫌がらせをするような上級生じゃないといいと、おそるおそる後ろを振り向いた。
「どうだ、おどろいたか?」
「おどろき、ました……」
そうだ、驚いた。そして彼女に見惚れてしまい、言おうとしていた文句が出てこないのだった。
茜色を取り込むように透ける白銀の髪、白い肌に薄桜に色づいた唇、白い鳥の羽を思わせる睫毛からのぞく、檸檬色の瞳がこちらを見つめてきて、吸い込まれてしまいそうだった。
「そろそろ暗くなるのに、ちびっ子が一人でいるから、イタズラしてやらなきゃと思ったんだ」
きれいだと思っていた笑い顔が、たちまちニヤっと意地悪な表情に変わる。
なんだか嫌な予感がし、腰を浮かそうとするが、間に合わなかった。
「ひゃわあ」
強めの力で背中を思いっきり押された。
意図しない揺れに振り落とされないように、持ち手をしっかりと掴む。ブランコは重力に従ってまた元の場所に戻り、すぐさまた強い力で背中を押される。それの繰り返し。そして更に勢いは強くなり、その軌道は半回転近くになっていた。
「どうだ?これだけブランコがすごいと、こわくておどろいたんじゃないか?」
「さいしょはおどろきました。でも、楽しいです!」
ちょっと強引ではあったが、女の子は意地悪したかったのではなく、暗い顔をして一人でぼーっとしていた自分を元気づけたかったのだ。その温かさに、僕は嬉しくなった
それから、すべり台やシーソーでも遊んだ。そうしているうちに、いつしか家族への不満は無くなっていたのだった。
「すっかり日はくれたけど、君の気は晴れたみたいだな」
「たのしかったです。ありがとうございました。えーっと」
「鶴丸だ。君は?」
「ぼくは一期です。」
「一期って言うのか。一期が笑顔になって良かった」
彼女はにこりとした笑顔でそう言って、小走りで去っていった。お兄さんがお迎えに来たらしい。
だんだんと小さくなる後ろ姿に、胸の奥に灯がともる気がしたのだった。
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あれから、鶴姉とはたまに公園で一緒に遊ぶ仲になった。彼女はおけいこで忙しいらしいが、僕や友達と一緒に遊ぶ時間を頑張ってつくってくれているらしい。
笑顔が可愛くて、お姉さんだからちょっと頼れる存在。すぐに女の子としても好きになったと思う。ちなみに、告白とかは恥ずかしくてしていない。
でも、そんな関係ももうすぐ変わってしまうかもしれない。来年から鶴姉は中学生になるのだ。
そんな感傷に浸っていると、鶴姉がズズっとお子様スマホの画面を見せてきた。
「この間、中学の制服合わせに行ってきたんだ。似合っているだろう」
自慢気な顔をしながら見せてくれたその画像は、彼女の体より一回り大きい制服に包まれた姿だった。
……あれ?
「なんで男子の学ラン姿なんですか?」
鶴姉はその問いに、不思議そうな表情で答えてくれる。
「なんでってそりゃあ、俺は男子だから特別な理由がなきゃ学ランだろう」
そう答えた彼女、いや、彼の笑い顔は相変わらず可憐だった。