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    azusa_n

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    azusa_n

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    お題メーカー『こんな君に恋した私が悪いんですが』のチェズルク。
    軽率に怪我するルークくんいます。

    真夜中の病院の個室。
    チェズレイは頭に包帯を巻いたルークの見舞いに来ていた。
    何故二人がここにいるかと言えば、無論、ルークの怪我が原因だ。

    ルークは徹夜3日目で漸く山場を越え退勤したものの、帰宅途中に引ったくりを捕らえて署へとんぼ返りした。引き渡しと関連書類の記載を終え背もたれに寄りかかった瞬間、バランスを崩して転倒、頭を打って気絶。正確には気絶するように眠りに落ちたと言う経緯で病院に運ばれた。
    頭にたんこぶを一つ作っただけだったが、打ち所が悪かった事と昏倒したことで検査も兼ねて一晩入院となった。

    翻ってチェズレイに夕方、救急車が病院に到着する前に届いた第一報は『ルークが意識不明、入院』のみだった。可能な限りの手段で駆けつけたのが、消灯時間も終わって久しいが辛うじて日付が変わっていない時間である。

    尚、チェズレイが真夜中面会時間外でも病室に訪れてられたのはエリントンのルークの自宅付近、署の付近、緊急搬送される可能性がある病院に片っ端から出資しているからだ。同様に、ルークが入院する度、大きめの個室を使用しているのも彼の采配である。

    目当ての階へ辿り着くと、表情だけは平静を保ったまま、だが足早に病室へ向かう。
    静かに病室の扉を開いた。
    廊下から差し込む明かり程度しか光源がないこともあり、丁度入口側を向いて眠っていたルークの顔色が青白く見えて小さく息を飲む。

    扉が自動で閉まるのに任せて部屋を進み、ベッドの横に置かれたままのパイプ椅子に腰掛ける。誰が座ったのかも分からない、粗末な作りのそれは、普段であれば立つ事を選択しただろうがそんな事より少しでも近くにいたかった。

    足元に密やかに点る常夜灯の他には薄いカーテン越しの月明かりや部屋の電子機器の僅かな明かりしか頼るものがなく、ベッドに眠る男の表情まではよく見えない。

    そっと顔を近付けた。
    普段なら呼吸の音など座った位置からでも確認出来ると言うのに、自身の心臓の音がうるさすぎて触れるギリギリの距離までわからなかった。チェズレイ本人にも動転している自覚はあるのだ。
    当然、移動中に軽傷だったと言う続報は確認していた。だが、それでも自分の目で無事を確認せずにはいられなかった。

    自分の息は止めて数秒、すう、すうとゆっくり規則的な音を認識してようやく細く、長く溜め息をついた。やっと生の実感が湧いた。
    顔を離した時、長い髪がルークに触れていた事に気付く。
    どんな宝石より澄んだ輝きの瞳を覗き込みたい思いはあれど、睡眠不足との情報は得ている。このまま寝かせてやりたい。
    そう考えていたのに、僅かな刺激でも意識の覚醒には充分だったのだろう。
    うっすらと目が開いた。

    「………、…ん、…ちぇずれ……?」
    ルークの寝起きのぼんやりとした視線では部屋に誰がいるのかは分からないはずだ。それでもふわりと辺りを漂う香りが違った。生業故かそう強い香りを纏うことが少ないチェズレイを、ルークはよく良い匂いがすると評する。髪の香りにでも気付いたのだろうか、夢現で微笑んだことをチェズレイの目では認められなかったが、夢だと判断して再び目を閉じたルークは、ぼんやりと見えた人影を瞼の裏に映して数秒、勢いよく上体を起こした。

    「……ボス、お怪我をなさっているのにそのように勢いよく動いては」
    「え、いや、驚いて、つい……。っていうか、チェズレイ? 本物?」
    静かに語りかけるチェズレイへと、すっかり目覚めてしまったルークが問いかける。
    「偽者がここにいたら大問題ですねェ……」
    よく見知った相手でも間違えるレベルの変装が出来る者に一人だけ心当たりはあるが、ここから遠い国の刑務所に留まっているはずだ。

    「…夢だと思った……」
    ルークが枕元を振り返り、手探りでヘッドボードのスイッチを入れると簡単に部屋の明かりがついた。
    部屋自体の照明がついているわけではないからまだ明るいと言うほどではないが、話をするだけなら充分な明るさだ。
    ルークがチェズレイの両頬を両手で包む。暖かな布団の中にあった手は外を歩いてきたチェズレイより幾分高い熱を帯びている。
    熱とは命そのものだ。数少ない体温を好ましく思う相手の熱を感じて目を細めた。
    「…うん、本物のチェズレイだ」
    「ボスも思ったより元気そうでなによりです」
    起きたルークの顔色は寝ていた時よりも顔色はよく見えるが、後頭部を覆うネットやガーゼが痛々しい。ルークの頭へと伸ばした手を止めた。


    「……それにしても、ボスと出会ってから心臓がいくらあっても足りそうにありませんね。
     ……私を呼びつけるためにわざとこんなことを?」
    「え、いやまさか。来てくれたのはありがたいけど」
    そうだと言われても困るが、全く考えてなかったと言われるのも癪に障る。俯いて瞼を伏せて、いかにも悲しいとわかる表情をつくる。
    「ボスは意外とサディストの気があるのですね。こんなにも私の心をズタズタにして喜ぶなんて」
    「や、別に君を困らせるつもりじゃなかったって……」
    仮面の詐欺師が表情程度いくらでも操れると知っていても途端に慌てるのだから毒気を抜かれてしまいそうだ。反省を促せるならいくらでも利用するけれど。

    「……分かってはいるのですよ。あなたの自己犠牲の精神は。
     知っていて尚、こんなあなたを愛してしまった私が悪いのですが」
    「チェズレイ…。 でも困っている人がいたら助けないなんて出来なくて」
    「……でしたら、ボス。どうか目の前の哀れな男を救っていただけませんか」
    ルークの右手首をつかんで左胸へと当てさせる。目覚めた姿を見て大分落ち着いたものの、まだ平常より心拍数は少し早い。
    「私の手をすり抜けて、あなたまで冷たくなってしまったらどうしようと。 ……あなたの無事を確認するまでそんなことばかり考えていました。少しは安心させてくださいませんか」

    チェズレイの言葉を受けてルークが眉を寄せて考え込む。
    次に何かを発見した時に人助けをしないと言うのは無理だ。ならば体調について。まだまだ忙しい日も続く。徹夜をしないという確約は出来そうもない。食生活についてはチェズレイの定期的な差し入れのおかげである程度改善しているし、何をどうするべきか分からない。 チェズレイは正しく考えを読み取った。

    「……どうしたらチェズレイは安心出来るかな」
    「そうですねェ……。 0時になったら眠ってしまう催眠でもかけましょうか」
    「それは、道端でいきなり寝ちゃったりしないか?」
    「催眠なんて使わずともいきなり眠ってしまったあなたがそれを言いますか?」
    「うう……」
    ルークが口でチェズレイに勝てるわけがないのだ。
    そもそも自分の過失が発端だと言うのに。
    だが日常に支障を来しかねない催眠は困ると頭を捻っていると、反省は充分と判断したチェズレイが微笑んだ。
    「まあ、それは冗談としても、仮眠程度はしていただきたいものですね。最低でも90分ほどは」
    「……それくらいなら、まあ…」
    「良かった。これすら断られるのでしたらボスの職場の全ての方に『ルークを毎日家に帰す』よう催眠をする必要がありましたので」
    「そういうの、本当に止めような?」
    「ボスの今後の行動次第ですよ」
    「……うん。 本当に気をつけるから。やめような」

    これで数ヶ月程度は効果があるだろうと納得をして、掴んだままの手を離した。もう心拍数もすっかり平常値だ。

    「ええ。 さて、ボス。もう少し眠ってください。子守歌は必要ですか? それとも寝物語でも」
    「そういう歳じゃないから。 ……ああ、でも」
    「でも?」
    仰向けで布団に潜ったルークに掛け布団を整える。
    せっかく肩まで布団に潜ったと言うのに、ころんとチェズレイの方を向くように寝返りをして、ルークの右手が伸ばされた。
    「寝付くまで一緒にいられたら嬉しい」
    「ええ。ボスのお望みの通りに」
    ルークの右手を両手で包む。

    ほどなく力が抜けて、眠りについた事を理解する。
    「……おやすみなさい、ルーク。」
    部屋の明かりを落とす為に手を離しても、空が白むまで離れることが出来ず、ただ健やかな寝息を聞いていた。
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