「ルーク、ルートは頭に入ってるよね?」
「もちろんです、モクマさん」
「俺達の未来がかかった大事なミッションだ。必ず成功させよう」
「はい! ……では、行きましょう!」
潜入開始直前。
ルークはタブレットを再確認して頷く。
一歩踏み出すと戦場のような張りつめた空気が漂う。
ふたりで視線を交わすと、ターゲットの元へと駆け出した。
普段の潜入とは異なり街に溶け込む平服で向かうのは、闇に紛れる天井裏……ではなく、軽快な音楽が流れるスーパーマーケット。
早歩きで店内を歩く速度を緩めずに買い物カゴを取ったモクマが先導し、目指すは卵売り場。
お一人様1パック、先着限定の特売品だ。
セール開始には少し早いが既に人だかりが出来ている。歴戦の勇者と思える婦人が多い。
「……ルーク、ここは俺が行く。必ず追いつくから先に行って」
「モクマさん…! ……わかりました。ご武運を」
ルークが気付かない内にチータラとさきイカを入れた買い物カゴをルークに渡すと、モクマは人だかりの隙間を器用に見つけて進む。
ルークは人集りに消えたモクマを一度振り返り、足早に精肉コーナーへと向かった。
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卵2パックを手にしたモクマがルークを見つけると、カゴの中の徳用鶏胸肉パックに視線を落とした。
「ただいま。お、流石ルーク。ばっちり狙いのものゲットしてきたね」
「モクマさんが一番大変なところを引き受けてくれたからですよ」
本日の一番の目的を達して上機嫌に野菜売場へ向かう。
「鶏肉と卵があるなら、今日は親子丼とか?」
「前に作ってくれたやつでしたよね、とろとろの卵と鶏肉のうまみを甘めの出汁でまとめたあの……。いいですね!」
思い返すルークの表情を見てつられて笑うモクマ。
「なら玉ねぎと三つ葉は…ああ、あった」
玉ねぎと三つ葉、他の旬の野菜をカゴに詰めていく。
「今日のお礼に、明日は僕がオムライスつくりますね」
「ありがと。ハート描いてくれる?」
「わかりました。愛情込めときますね」
笑いながらマッシュルームをカゴに入れるルークが冗談としか捉えてないのを察して話題を移す。
「そしたら野菜のスープとかもつくろっか。トマトとか、キャベツとか」
トマト、キャベツと野菜売場を進みながらカートに乗せていく。棚の一点を見たルークの表情が若干曇った。
「それからセロリとか入れると風味が良くなるかな」
モクマがセロリを持ち上げると、ルークの眉間に思い切り皺が寄った。
「…セロリ……ですか」
「……って思ったけどそろそろ鍋に収まらないか」
セロリを棚に返すと途端にルークの表情が和らぐ。思わずモクマが小さく笑った。
「そうですよ、なんとか鍋に入っても食べ切れないでしょうし」
「大丈夫だいじょーぶ、アーロンがいたら一瞬だって」
「それはそう…ですが…」
「お前さん、ほんっとに分かりやすいね」
「……ダメですね、モクマさんといると気が緩んじゃって」
「そういう素直なトコもルークの魅力だと思うけどっ」
「ぜんぜん褒められてる気がしない……」
「まあまあ、そろそろお酒ちゃん迎えに行こ」
「3日前に買い込んでませんでしたっけ」
「ルーク、お酒ってさ。……飲むとなくなるんだよ」
「……あ、はい…」