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    azusa_n

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    チェズルクのバレンタイン話。昔似たような話を書いた気もするけど気にしない。

    チェズレイがドアを開けた時、ルークはダイニングで色とりどりの包装紙を広げていた。
    チョコレートの甘い香りが離れていても香ってくる。
    ルークのお気に入りのドーナツショップの紙袋、量販店に売っている中では高価なチョコレートの包みが複数、それから手作りと思わしき箱もいくらか見受けられる。大半は大量生産の品と思わしきチョコレートクッキーや使い捨て容器のカップケーキ。一目で義理チョコか友チョコだと分かるものが大半だが、全てではない。

    「ボス、また随分と大量ですねェ」
    「バレンタインだからって皆からもらっちゃって」
    照れたように頭をかくルークは感謝はしてもそれ以上の想いは抱いていないようだと内心安堵したことは顔に出さず、彼の座る横に立つ。
    「なるほど。開店準備中のドーナツ屋で本日限定のチョコレートドーナツを見かけて帰りに買うからと予約をし、署では職員から山ほど貰い、帰り道で引ったくりを捕まえてお礼代わりに貰い、予約したドーナツもしっかり受け取ってきた、と」
    「まるで見てきたように正確に把握されとる!」
    驚きと呆れを含んだ言葉にチェズレイが言葉を返さず目元だけ微笑んだ。

    小さく息をついたルークが手元のドーナツを頬張る。
    チョコレートドーナツでチョコレートホイップを挟み、大量のチョコレートソースをかけたそれは、見ているだけで胸焼けしそうだ。
    「君も食べるか?」
    「いえ、私は結構です」
    「じゃあ全部僕のだな」
    ドーナツを咀嚼しながら片手では別のチョコレートの箱へと手をかけている。なんとも行儀の悪いことだ。
    「……流石に今日に限っては多少の食べ過ぎには目を瞑るつもりでしたが」
    「貰い物はおいしい内に食べなくちゃいけないだろ?」
    「あァ、良い笑顔ですねェ。ドーナツは自分で買ったものだったかと思いますが?」
    「それは……あ、ほら!寄ったのは閉店間際に予約キャンセルするなんてフードロスも気になるからさ」
    とってつけたような理由を言って、装飾過多なドーナツはそのままルークの口に吸い込まれた。
    「別に責めている訳ではありませんよ。ただ、流石にこれ以上はカロリーオーバーかと思っただけです」

    肩を落として、寂しげに。少し大袈裟に演じたチェズレイを見上げるルークが咀嚼も忘れて口をぽかんと開けている。
    瞬き三度程の間を置いて、ごくりと唾を、ではなくドーナツを飲み込む。
    「……もしかして、君も用意してくれていた?」
    「どうやら無駄になってしまったようですが」
    「いる! 君からのは特別だから」
    チェズレイが言い終わる前にルークはテーブルに強く手をついてそのまま立ち上がった。

    じっとチェズレイを見つめる瞳は真剣そのもので、食欲だとは言え求められていると思うと胸が熱くなる。
    「そんなに熱く見つめられては渡さない訳にもいきませんね」
    「ありがとう、チェズレイ」

    なんだか高そう、と呟きながらルークが箱を開封する。甘い香りの漂う空間にスパイスの香りな混ざった。
    「少々普通のチョコレートとは異なる味わいのものを選びましたから、好みに合うかはわかりませんが」
    「君がくれるものだ。絶対美味しいと思う!
     見た目から僕の給料じゃあんまり買えない感じがしてるし……。それじゃ、いただきます!」
    手に取った一粒のチョコレートをじっと見つめ、口に入れる際に齧るべきか迷って一度手を止める。その後大きく口を開くとそのまま口に入れた。

    目が細くなったと思えば、一口噛んだところで動きを止める。そのまま目を閉じてじっくりと味わい嚥下した。
    「チェズレイ、これ、すごい……」
    「お気に召しましたか?」
    「口の中で濃厚なチョコレートが解けて、なんだかスパイシーな香りが広がって。甘さだけじゃなくて、でも苦みだけじゃなくて、複雑な味のシロップが入ってて。初めて食べる気がするのにどこか懐かしいような味だ。こういう変化球のチョコレートってシンプルなものほど食べてこなかったのがもったいなかったかもしれない。
    あまりにも…うますぎる……!」
    「それはなによりです」
    熱く感想を伝えてくるのに熱中し、頬が赤くなっている。隣の椅子に腰掛けたチェズレイが一挙一動を見逃さないよう
    「このチョコレート、どこのブランド?」
    「言ってくださればいつでも用意しますよ」
    「いや、君だって忙しいだろうし」
    「それくらいのことは片手間に出来てしまうんです。ご存知でしょう?」
    「それはそうなんだろうけど」
    同じブランドの他のチョコレートも食べてみたいと顔に書いてあるように思えて笑みを湛える。

    「そう言えば、ボス。チョコレートとは古来は菓子の材料ではなかったのはご存知ですか?」
    「たしか、昔は薬だったんだっけ」
    「では、何の薬だったかは?」
    「……そう言えば知らないな」
    「様々な効果がありますよ。疲労回復に体力増強。血を巡らせ、集中力の強化に…と。今の時代で言う栄養ドリンクのようなものでしょうか」
    「なるほど。おいしくて身体に良いなんて最高じゃないか」
    「そうですねェ。今日のボスは随分たくさん召し上がりましたし、栄養は充分でしょう」
    「……、うん…」
    箱の中のチョコレートの二つ目を口に入れたところでの会話に、手は止められずに目を逸らした。
    ルークが二つ目を口に入れたところでチェズレイが続ける。
    「そして、薬は薬でも、媚薬として用いられることもあるのですよ」
    「媚薬……?」
    「それ自体に効果もありますし、チョコレートは味が濃く、苦みもありますから何かを入れるのにも最適です。ほら、そろそろ喉の奥から身体が熱くなってきませんか?」
    「いや、そんな……あれ?」
    「効いてきましたね」
    「喉に胃、ゆっくりと体全体へ広がる度に、体が熱くなって、更に熱が欲しくなってきませんか?」
    ルークの顎の先、喉仏、胸元へ。触れるか触れないかの位置へチェズレイの手が滑る。
    「……チェズレイ、これ、警察官の家に持ち込んで問題ないものでいいんだよな…?」
    「この国の法で認められていないものは利用しておりませんよ。それぞれの品は、ですが」
    「……つまり、混ぜるな危険ってやつでは?」
    「…………フフ」

    しばらくルークはチェズレイを見つめてはいたものの、これ以上の情報が出てくる様子もないと諦めてチョコレートへと視線を落とすと、びやく、と確認するように小さく唇だけが動いた。

    「チェズレイ、君は今回はいつまでいられるの?」
    「明日、ボスが出掛ける頃に発ちます」

    「……どうせなら、一緒に食べたいんだけど」
    耳まで赤いのは、媚薬のせいか、慣れない誘い言葉のせいか。
    チョコレートのお返しをその場で三倍以上に取り立てる予定のチェズレイが優雅に微笑んだ。


    ---

    唐辛子、生姜など、体の暖まるスパイスと愛を込めたチェズレイ特製チョコレート。

    違法なものは入っていないが、暗示から勝手に催眠にかかるパターン。

    「あのチョコレートが食べたいんだけど。」でお誘いの言葉になる時空。
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    Replies from the creator

    recommended works

    ポンタタの萼

    SPOILERネタバレは無いと思いますが、本編終了後時空のため念の為ネタバレ注意です。
    make magic聴きながら書いてたらめちゃくちゃ時間経ってて草
    キメ細かな肌チェリーなリップとろけるようなキュートな瞳!
    近頃、同僚のルーク・ウィリアムズの様子がおかしい。……と、思う。
    その変化に気づいているのは俺だけではないらしく、署内の視線はちらちらとあいつに向けられてはいるものの、どうやら肝心のウィリアムズ本人はその視線には気が付いていないようだ。
    そして、同じ部屋にいる同僚たち──特に女性職員たちからは、際立って熱い視線を向けられている。だが、それには恋慕の情は混じっていないだろう。
    彼女たちの視線に込められているのは、そう。興味と羨望だ。

    ルーク・ウィリアムズは、最近綺麗になった。


    ◇◇◇


    休職から復帰したウィリアムズは、パッと見では以前とそう変わりない。だが、ある時、特に目ざとい一人の後輩署員が気が付いたのだ。

    『……ウィリアムズさん、最近肌が綺麗じゃありませんか?』
    『そうかな? ありがとう』
    『何か変わったことしてるんですか?』
    『いや? ……ああ、でも。近頃貰い物のいい野菜を食べているし、……その、友人から貰ったスキンケア用品を使っているんだ。駄目にしてしまったら悪いからね』

    その短い会話は人の多く行き交いする室内で行われており、さして隠すように話された訳でも 3847