帰ったら仲間がいる。そう思うだけでスキップしたくなるような気持ちで帰路についた。
「たっだいまー!」
「お帰りなさい、ボス」
わざわざ顔を出してくれたチェズレイを見て、家の鍵を落とした。
今日も笑顔で楽しい時間を過ごせるはずだと思っていたのにチェズレイの目が赤い。そう思ったら彼の頬を伝って一滴の雫が落ちた。浮かれていたのが恥ずかしくなるような光景だった。
「……チェズレイ、どうしたんだ?」
「っ……、…見苦しいものを失礼しましたね。どうぞお気になさらず」
僕に背を向けたチェズレイの肩に手を置く。
「いや、気にするに決まってるだろ! なにがあった?」
「ボスに伝えるようなことではありません」
「……僕には、話せないこと……?」
「ボスには関係のないことですから」
「君が目を真っ赤にしてるのに、僕は関係ない?」
それまで振り返らなかったチェズレイは、こっちを向いてもろくに視線も合わせてくれなかった。
「……お疲れでしょう? まずはお風呂に入ってきては。その頃には夕飯も出来ますから」
「……うん。」
会話も打ち切られてしまって、チェズレイはリビングに立ち去ってしまった。今追いかけてもなにも応えてはくれないだろう。
ひとまず、風呂に入ろう。
湯船に浸かって思案に耽る。
「チェズレイ、なにがあったのかな」
「……僕にもっと頼りがいがあれば話してくれたのかな」
涙を流すところが目に焼き付いて離れなくて落ち着かないまま、いつもより早く風呂を出た。
「お風呂、上がったよ」
「ええ、食事にしましょうか」
チェズレイはさっきのことがなにもなかったかのように澄ました顔をしている。目の赤さも見あたらない。
じっと見つめていると柔らかい微笑みが返ってきた。
「本当に、今日の事はなんでもありませんよ。ただ、こんなにもスイートな所を見られるのであれば料理した甲斐があると言うものですね」
ダイニングのテーブルには湯気の立つ料理が並ぶ。
オニオングラタンスープと、シャリピアンソースのステーキが目に付いた。
みじん切りの玉ねぎが大量だ。
「……もしかして、玉ねぎのみじん切りが原因?」
「…本当にお恥ずかしいことで」
また視線を逸らされた。今回は本気で照れている気がする。
「……あのさ、チェズレイ。もし悩み事があるなら聞くから、ひとりで抱え込まないでくれよ」
「……」
「僕じゃ頼りないかもしれないけど、力になるから!」
チェズレイの表情が固まったような気がして言葉を重ねる。
やっぱり僕の言葉は困るだろうかと思ったら、力強くハグされた。前にハグくらいいつでも断らなくていいと言ってから、結構スキンシップをしてくれるようになった。
「……あァ……。ボスはスイートですねェ」
「結局それなんなの?」
時折チェズレイの言う言葉に困惑していると、先に食卓についていたモクマさんから声がかかった。
「うんうん。ごちそうさま」
「え、モクマさん、まだ夕飯食べてませんよね?」
「おじさん、胸焼けしちゃうお年頃なの」
モクマさんは昨日も天ぷらを平気でたくさん食べてた気がする。
「モクマさんはともかく、私達も食べましょうか」