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    azusa_n

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    azusa_n

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    モクルク。満月と団子。季節感は気にしたら負け。

    居酒屋を出た後、鼻歌を歌うルークはすこぶる上機嫌だ。
    モクマは足下が覚束ないルークを見て、飲ませすぎた事をひとかけらだけ反省しつつ、ふわふわとした足取りのルークが転ばないようにその腰を抱く。
    抵抗なく腕の中に収まってもたれかかってくる。信頼されきってると実感が湧くのは嬉しくもあり、苦しくもあるような気がする。無駄なことを考えるのは酔いのせいだろうと小さくため息をついて、ルークの少し調子の外れた歌と一緒に歌いながら帰路を歩む。

    繁華街を少し離れたところで、ふとルークが足と歌を止めた。
    つられてモクマも立ち止まり、ルークの視線を追う。
    今日は満月。もうかなり高い位置にある月は心の奥底まで映し出すくらい眩く輝いている。
    「モクマさん、モクマさん。今日の月、とってもきれいですね」
    満面の笑みを向けるルークには他意もなにも感じられない。思うまま、言っているだけ。とある国では告白の言葉だなんて、きっと知らないのだろう。
    「…そうだねえ、とっても綺麗。いつもより輝いてみえるのはルークと一緒だからかね」
    「えへへ、なんか嬉しいです」
    上を向きすぎてそのまま後ろに倒れ込みそうになったルークを支えるついでに抱き締める。これくらい役得があってもいいだろうと誰にともなく言い訳をして背中を撫でる。
    心地良いのか眠いのか、大人しく腕の中でじっとしていたルークは、しばらくして「あ」と大きく声を出した。
    「なんだかはずれまんじゅうが食べたくなってきました」
    「ああ、月、黄色くてまあるいからねえ」
    酔っ払いがいきなり動き出すのは世の常とは言え、さっきまでの甘酸っぱい気分はどこへやら。腕から抜け出したルークは繁華街の方へと引き返そうとする。
    「寄ってっていいですか?」
    期待に満ちた視線は断られることなんて考えていないもの。
    「もう営業終わってなかったっけ?」
    「……そうでした…」
    腕時計を確認してうなだれる。
    「そんな悲しそうな顔しなさんな。ちゅうか、月を見ながら食べるならまんじゅうより団子でしょ」
    「そうなんですか?」
    「こっちだとお月見のときにお団子をお供えする習慣があってね。まあ、ちいとばかり季節はずれだけど」
    「それは…とても興味ありますね」
    「スーパーはまだやってたっけ」
    ひとつ通りを遠回りしてスーパーに寄る。
    閉店時間の迫る店内、ミカグラ菓子の棚に団子は見当たらない。生菓子は賞味期限の関係で片付けるのも早い。
    だが団子なら作ることも出来る。多少手間ではあるが、既に目を輝かせて期待に胸躍らせる意中の相手を前にすれば些細なこと。止める者なんていない。
    代わりに製菓コーナーへ立ち寄って、団子粉、きな粉にあんこ、黒蜜、缶詰めのミックスフルーツを買い込む。
    まんじゅうを買うより随分と高くついたが、幸いにもショーの報酬が入ったところで懐は暖かかった。


    その後、オフィス・ナデシコのキッチン。
    帰路の間に幾分酔いの冷めた様子の二人がエプロンを身に付け並んでいる。
    「と、いうことで、今回の『今夜のおやつ』は月見団子です」
    「楽しみです!」
    「アシスタントのルークくん、よろしくね」
    「はい、モクマ先生」
    カメラもないのに料理番組のようなやりとりを始める2人。
    「えー、材料はこちら。シンプルだねえ」
    出しているのは団子粉、計量カップに入った水、ボウルが二つと小鍋。

    「ちゅうことで、ボウルに粉を入れて」
    「はい! 振るったりはしなくていいですか?」
    「うちじゃしてなかった気がするから多分平気。がーっと入れちゃっていいよ」
    「はい、入れますね」
    ルークが袋の端をハサミで切り、ボウルに入れる。
    「そんで、水を入れて、捏ねる」
    計量カップの半分程の水を入れてモクマが粉を纏め始める。
    「捏ねたら後は丸めて、茹でて、冷水に取ったら完成だよ」
    「じゃあ、今の内にお湯と水用意しますね」
    「ありがと」

    ルークが鍋に水を張って火をつけ、ボウルに氷と水を入れ。
    そうしてる内に水を全量入れたボウルの中ではボロボロだった固まりがすべらかになってきた。
    そわそわした様子で捏ねる様子を眺めるルーク。
    「もーちょいで出来るから待ってて」
    「はい」
    まるでお預けでもしているかのようで少し気が咎めるが、これ以上今振る作業もない。
    手持ち無沙汰な様子でまだかまだかとボウルを覗き込む視線がまっすぐ突き刺さる。

    だいたいこんなものかと弾力を確かめたところでふと思い出した。
    「ああ、ルークに大事な役目があった。こっち来て、じっとしてて」
    「はい!」
    招かれるままモクマの隣に戻ってきたルークの耳に触れた瞬間、弾かれるように後退る。
    「…っ?!」
    「あー、もしかしてルークって耳くすぐったい人?」
    「いや、びっくりして、つい……」
    耳を手でガードして、頭に疑問符をたくさん並べるルーク。
    「あのね、団子は耳朶の固さにするものなんだよ」
    「そうなんですか?」
    「そうなの」
    言い切ってしまえばそんなものかと受け入れて手を下ろした。なんとも危ういが、嘘を付いている訳ではないと開き直って再び手を伸ばす。今度は拒むことなく受け止められる。

    常時より少し赤く色づいた耳。
    形を確かめるようなぞって、それから耳朶を緩く揉んで。
    ボウルの中身を捏ね続けている右手に伝わる感触と比べてみれば、もう似たようなと評して良い弾力。
    触れる口実を失いたくなくて、それでも暫くは弾力の差に悩む振りをする。

    「んー、こんなもんかな」
    「…はい」
    離した左手をルークが目で追っている。名残惜しいように、とモクマからは見えた。今はそれだけで充分だと、続く作業に戻る。
    「んじゃ、ルークもこれくらいの大きさに丸めてくれる?」
    見本に一つ団子をつくって見せる。
    「やってみます」
    ルークがお手本くらいの大きさの団子をひとつ丸める間に3つの団子が出来ている。
    「流石モクマさん、速い!」
    「えへ。でもこういうのは慣れだよ。それにルークのきれいな丸になってるじゃない」
    「えへへ。僕も頑張りますね」

    全ての団子を丸め終え、茹でる。鍋の底に落ちていた団子が暫くすると一斉に浮き上がってくる。
    その後1分程待って引き上げて、冷水に浸す。

    モクマが鍋の湯を捨てて醤油、砂糖と片栗粉を混ぜてみたらしのタレを作る間にルークが団子を盛り付ける。ルークの好みに合わせて砂糖を山盛り入れたみたらしダレは、一舐めだけ味見をしたモクマが黙る出来映えだ。

    「こんな感じで、15個で3段の飾りにするんだ」
    タブレットに表示した三段の飾りと同様になるよう、皿に盛る。
    9個、4個までは良かった。窪みに埋めるなら次は当然1。なのに15個。
    団子を数えて首を傾げるルーク。
    「……モクマさん、15個って1つ余るのでは?」
    「満月は新月から数えて十五夜ちゅうて、15個飾るものらしいんだよね。実はその画像でも一番上、2つ並んでる」
    「え? あ、本当だ」
    天辺に2つの団子を乗せてひとつ頷く。
    まだ団子は大量に残っているが、夕食後に二人で食べるならこれだけで充分だろう。
    丁度みたらしのタレも出来上がった。


    「せっかくだから、ベランダで月見ながら食べよっか」
    「ぜひ!」

    ベランダに置かれたテーブルセットに団子とみたらしタレ、砂糖と混ぜたきな粉に黒蜜、ついでにいつもの濁り酒を並べた。
    月を眺める都合上、向かい合うのではなく隣に並んで座る。
    「「いただきます!」」

    さっそく天辺の団子にみたらしダレをたっぷり纏わせて食べるルークと何はともあれ酒に手を伸ばすモクマ。
    暫く大人しく咀嚼して、うっとりと目を細めて、時折モクマの方に向かって笑顔を向け。
    月よりも団子よりも、なにより良い肴だとモクマは思う。

    「んん、あまりにもうまーい!」
    今日何回か聞いたこれも、自分の作った料理で発せられるとやはり嬉しく、モクマの顔もほころぶ。
    「舌触りがつるつるで、もちもちしてて。この食感!永遠に噛み締めていたいです。 このタレもまた、甘さが温かくて団子に合いますね。丁度いい塩気のおかげでいくらでも食べられそうです」
    「気に入った?」
    「はい、とても! なんなら残ってるのも全部食べれそうです」
    「はは、フルーツ白玉にでもしようかと思ったけど持ってこようか?」
    団子なら作ることも出来る。多少手間ではあるが、既に目を輝かせて期待に胸躍らせる意中の相手を前にすれば些細なこと。止める者なんていない。「フルーツ白玉とは?」
    「さっき買った缶詰めのフルーツと一緒に食べるの。……大人だからね、酒で割ることも出来ちゃう」
    「モクマさん! 天才ですか?」
    「バレちまったか」
    「ぜひフルーツ白玉も食べたいですね」
    「あれは冷やした方がうまいなら、明日にしよっか」
    「楽しみにしてます」

    お月見と称した小さな酒宴。
    いつもより眩しい夜だったが、結局月なんて殆ど見なかったと気付くのは片付けも終わって寝る頃だった。
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    azusa_n

    CAN’T MAKE足ツボマッサージするだけの健全なモクルク…と言い張りたかったけど下ネタな話。この話の範囲は全年齢だよ。足しか触ってないよ。
    喋らないけど濃い目のモブいるので注意。

    surfaceのヌイテル?をイメソンに。もうちょい曲にある要素足したいのに思いつかないので投げちゃいました。思いついたら加筆してpixivにも持って行くかなぁ…。
    「もー、ルークったら、昨日もここで寝てたでしょ」
    ダイニングの机に突っ伏して寝ているルークを見つけた。もう深夜と言って差し支えのない時間だ。

    開かれたまま置かれた業務報告書には八割方埋まっている。今日の調査内容がびっしりと。空振りであった旨を伝える文字がしょんぼりしているようだ。
    蓋の上にフォークを置いたまま冷めたカップめんとが見える。完成を待つ間に寝落ちしたのか、完成に気付かず作業していたのか。

    時折聞こえる寝言から見るとあまり良い夢は見てないようだ。悪夢から起きて食べるのが伸びて冷たいカップめんじゃ忍びない。せめて温かいものを食わしてやりたいもんだ。

    テイクアウトの焼き鳥をレンジにつっこむ。
    冷蔵庫に残ってた冷や飯と卵、カップめんを深めのフライパンにぶち込んで、ヘラで麺を切りつつ炒めて塩胡椒を投入。
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