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    azusa_n

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    azusa_n

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    闇バ×ルク。チェズルクでモクルク。
    2人でルを囲って欲しい話。闇バは仲良くルを共有出来る気がするんだ。

    ミカグラのとある病院の病室。大祭カグラの後、BOND4人揃って押し込められた4名用の部屋のベッドのひとつは昨日その主の退院により空きとなったところだ。元々アーロンは大怪我をしていたのに何故かあまり病室にいなかったが。
    モクマは検査のために外出中、チェズレイもタブレットを持って出て行った所で、ルークが一人残された室内は静かだ。
    自分も順調に回復し、もうすぐ退院となる。ベッドに座ってタブレットのニュースを確認しながら溜め息をついた。一人になるとつい今考えても仕方ない悩みに捕らわれてしまう。

    「………はぁ…」
    「ボス。そろそろ退院だと言うのにお悩みのご様子ですねェ」
    「あ、チェズレイ。戻っていたんだな」
    いつの間にかチェズレイはルークのベッドの横のイスに腰掛けていた。それほど深く考え事に熱中していたのだろう。タブレットのライトも消えていたと漸く気付いた。
    「いいえ、ボスのお悩みを少しでもお慰めしようと思いまして。ボスは警察の職歴を抹消された身。DISCARDが解体された今、チームBONDも解散となり、今後の身の振り方に困っているのでしょう」
    「今日もチェズレイは心読んでくるなぁ」
    「警察の職歴事態を抹消されているから復職は元より転職も厳しい。このままではヒーローとしての活動どころか自活すら厳しい。ですか。……お気の毒です」
    「……うん。全くもってその通りだよ。どうしたものかなぁ」
    状況を考えると苦笑いしか出てこない。
    ベッドにヘッドボードに頭を預けて白い天井を見上げた。

    「ところで、ボス。ワイルドパンサー、お好きでしたよね」
    「ああ、大好きだよ。もしかしてチェズレイもか?」
    ぱっとチェズレイの方へと振り向く。その食いつきの良さも美点だろうとチェズレイが口角を上げた。
    「フフ。いえ、少しばかり質問がありまして。」
    「なに?」
    「ワイルドパンサーはなかなかの乱暴者ですよね。描かれた時代もあるのでしょうが、事件の解決に荒っぽい手段を用いる事も多い。時に、罪のない一般人を放り投げて、爆弾から守ったは良いが怪我を負わせることもありました。それについてあなたはどう思いますか?」

    心理テストのようなものだろうか。
    虚を突かれた質問だったが、答えなんて決まっている。
    「怪我をさせるのが目的じゃないし、それが彼に出来る最善だったんだから仕方ないんじゃないかな。打撲くらいなら治るしさ」
    「なるほど。では、悪人に対して暴力を振るうことは?
    彼は警察などの法を司る存在ではありませんよね」
    「それが正義のためなら。だからこそ僕だって警察の職務と離れて行動することはあるよ」
    「ありがとうございます。そうでしたね。ボスは警察として正義を為したいのではなく、ヒーローになりたいのでした」
    「うん、その通りだ」
    質問の意図は見えないが、チェズレイの納得出来るものだったようだ。
    「では、次です。ゴエモンの話はご存知ですか?」
    「えーと、悪徳商売で儲けた金を盗んで庶民にバラまく義賊 のゴエモンで合ってる?」
    「ええ、その通りです。あなたは彼をヒーローだと思いますか? それとも泥棒だと?」
    「どっちも、ってのはだめなんだよな」
    「ええ、ご推察の通りです」
    警察官としては泥棒だと答えるのが筋なんだろう。
    でも、彼の行動指針はヒーローに他ならないし、なにより相棒とダブるところもあって悪く思えない。
    「やり方はちょっと良くないかもしれないけど、二択ならヒーローなんじゃないかと思うよ。弱きを助け、強きをくじく、だっけ。そんな感じで」
    「なるほど、よくわかりました。」
    「こんなので役に立ってるのかな」
    ルークが答える回答としては順当すぎて面白味にかけるのではないかと思うが、チェズレイの機嫌が良いことくらいはルークにも分かる。
    「ええ、物凄く有益な情報ですよ。……ではもう一つだけ。『仮面の詐欺師』の活動についてどう思いますか」
    「……今の君を見て……ではなくその前の、僕が知る限りのってことか?」
    「ええ」
    これが本題なんだろう。それまでの微笑も消したチェズレイは静かにルークを見据えた。
    ルークも真剣に考え込む。
    「おとぎ話みたいだなって思ったな。仮面の詐欺師の手で壊滅した企業、山ほどあるのに仮面の詐欺師は正体不明なんてまるで作り話だろ」
    「フフ、恐縮です」
    「一般人に被害が出たって話も聞いたことない。被害に合うのはいつだって裏社会のスネに傷のあるやつらばかりでさ」
    考えながら、思いつくまま語っていたルークはそこで姿勢を正してチェズレイを見た。
    「だから、そうだな。一言で言うなら仮面の詐欺師はダークヒーロー。ワイルドパンサーやゴエモン、怪盗ビーストなんかと同じなんじゃないかな」
    微笑みと共に、けれど真摯に答える。
    返ってきたのは大仰に眉を顰める表情だったけれど。
    「ああ、ボス……最後のものは除外していただきたいのですが」
    「えへへ。まあともかく、僕は君をダークヒーローだと考えてるよ」
    訂正をする気もないので頭を掻いて言葉を流した。
    チェズレイは肩をすくめて、その後姿勢を正した。
    「私は自身を悪党だと考えていますが、ここはボスの言葉を借りるとしましょう」
    「…うん?」
    「ボス、ダークヒーローの活動に興味はありませんか?」
    「えーと、今までの流れを考えると、それはリクルート?
    君とこれからも活動を共にってことで合ってる?」
    「ええ。働き口に困っているボスにとっても良い提案かと思いまして。……あなたの愛する正統派ヒーローのものではない、悪の組織の一員ですが」

    瞬きを3回。
    顎に手を当てて少し考えた後、呟くように返事をした。

    「…それは、僕が困っていたから助けようと思ったってこと?」
    何故か『ボス』と呼んで慕ってくれるとは言え、こんなことを同情で言われるのは心外だ。
    少し拗ねたような口振りになってしまったが、チェズレイは首を横に振った。
    「まさか。無能な人材を傍に置く趣味はありませんよ。私はあなたの能力をよく知っています。もうすぐ無職になると言う境遇につけ込んでいるだけです」
    「つけこんで……、ってそれ言っちゃうのか?」
    「ボスへのお誘いには全力で、真摯に対応することが効果的かと思いまして」
    「……まあ、隠し事されるよりたしかに…」
    能力を見込んでと言うことなら確かに興味はある。
    けれど、考えてもいなかった選択肢だ。
    「ちなみに、繁忙期以外は週休2日、有休あり、残業代支給、給金は……初年度ならこのくらいですね」
    チェズレイの持つタブレットで額面を表示されて目を見開いた。
    「悪の組織って年俸制なんだな……」
    「…おや、なにか勘違いなさっていませんか。こちらは月額ですよ」
    「は? …え?ということは年収はこれの12倍ってこと?」
    「あなたが相手ですからねェ。成果によってはボーナスも別途支給します」
    「……桁、おかしくないか?」
    「いいえ、確認済みの額ですよ。残念ながら一般の保険への加入は難しくなりますが、補助は出ますので」
    「……あー…、そこはつっこまない方が良さそうだな」
    「フフ、まァ、自営業ですので。それでは、考える時間も必要かと思いますから一度席を外しますね」

    チェズレイが部屋を出て暫くして電子音が鳴る。
    先程の資料が送られてきたようだ。
    随分オブラートに包んであると思われる作業要項を読みながら、ルークは一人今後について考えを巡らせた。


    暫くして、病室のドアが開く。
    「たっだいまー!」
    「お帰りなさい、モクマさん。……今、お話大丈夫ですか?」
    モクマの姿にほっとして声をかけた。
    「もちろん。なになに、秘密の話?」
    ルークのベッドに腰掛ける。
    「秘密と言うほどじゃありませんが、チェズレイが戻ってくる前に聞いておきたいのはたしかですね。……モクマさんって、これからチェズレイと一緒に行動するんですよね」
    「うん、その予定」
    「……あの。……お二人って、なんていうか、その。ええと、うーん」
    口を開いては閉じてを繰り返すルークの肩を優しく撫でる。
    「…ルーク、落ち着いて」
    深呼吸して、再度口を開く。
    「あの、僕、いたら邪魔じゃないですか?」
    「え、なんで?」
    「チェズレイから、その、もうすぐ無職の僕も一緒に行かないかって」
    「えっ、俺のいないときに言っちゃったの? ずるい」
    「?」
    「いやね。ルークを誘いたいって話は聞いてたし、俺も勿論大賛成なんだけど、どっちから誘うかでちょっと揉めててさ。そんで、二人ともいるときに誘おうってことになったはずなんだけど」
    「…ええと、ごめんなさい?」
    「ルークは悪くないでしょ。まあ、それはともかく。俺はルークが一緒ならとっても嬉しいよ。これからもルークとうまいもん食ったりしたいし、ルークの今までのリーダーとしての資質も、銃の腕だって認めてるもの」
    「そう、ですか」
    優しく受け入れられた事にほっと息をついた次の瞬間、その笑みの奥、視線から温度が消えた。
    「……でも、なんで邪魔だと思ったのか聞いていい?」
    「え、その、モクマさんとチェズレイって、こう…距離が近いと言いますか。特別な関係…なのかなー、とか……」
    しどろもどろになるルークを見て、しょんぼりと肩を落として見せる。
    「…あー、…そう見えちゃうかあ。お前さんにはそう見られたくはなかったんだけど」
    「ごめんなさい、ものすごく不躾な事を言いましたね…」
    「ま、自分でもチェズレイとの関係は不思議なものだとは思うよ。
    でも、今ルークが聞いたのは色恋についてだと思うんだけど、合ってる?」
    「……はい」
    「だよね。それならお前さんに勘違いされるのは嫌だから少し話しとこっかな。そういう意味で好きな子、いるよ。チェズレイじゃないけど」
    「え、そうなんですか?」
    ずい、とモクマに身を寄せた。
    「お、気になるーって顔しとる」
    「それは、聞いていいなら」
    「そうだねえ。とーっても頑張りやさんで、ごはんを美味しそうに食べる子。飯の食わせ甲斐がある感じかな」
    ルークをじっと見つめながら話すモクマは優しい目をしていた。
    「と言うことは、お酒の席で会った方……とかでしょうか」
    「いんや、初めて会ったのは雲の上だったなあ」
    「ショーマンの関係で出会った人ですか? モクマさん、ちゃんと好きな方いらしたんですね」
    CAさんに片っ端から声をかけていたというのに、そんな出会いがあったなんて。滅多に聞けない仲間の恋バナに目を輝かせるルークと、それを見てうなだれるモクマ。
    「最近、そういう相手だって認識されてないなあって思ってちょっとがっくりきとるとこ」
    「モクマさんは素敵な方ですから、真摯に向き合ったらすぐだと思うんですが」
    「ほんとーに? 『おじさんはやだー』とかならん?」
    「なるほど、年の差がある方なんですね」
    「うん、一回りくらいかな」
    「ひとまわり?」
    「あー、これもミカグラ固有の言い回しか。12年をひとまわりって数えるんだ」
    「そうすると、僕と同じくらいの歳の相手ですか」
    「さすがルーク。鋭いねえ」
    「なら、なにかお力になれるかもしれません」
    目論見とは違うが、これはこれでおいしいかと考えを変えたモクマはルークと距離を詰める。いつの間にやら足までベッドに乗せ、並んで座っている状態だ。
    「そうね、色々お願いしよっかな。あ、ちなみにチェズレイの好きな子も知ってるけど、俺じゃないよ」
    「その言い回しは、後は本人に聞けってことですかね」
    「うん。せっかくルークと二人きりだもん。どうせなら俺に構ってよ。お酒ちゅわんとも会えないし暇なんだもの」
    「そこはもう少し我慢してくださいね」
    「うん、はやく会いたいな…。 そんでさ、ルークくらいの歳の子ってどんなものもらうと嬉しい?」
    「年齢で一緒くたにされても千差万別ですよ」
    「んじゃルークなら? 愛の告白される時に何がほしい?」
    「ええ、そんなの考えたこともありませんでした…。」
    いきなりの難題に腕を組んで考え込んでいると、また病室のドアが開いた。チェズレイだ。

    「おや、モクマさん。抜け駆けですか」
    「チェズレイだってさっき抜け駆けしてたでしょ」
    「必要がありましたので。ですが、私はビジネスについてしか話しておりませんよ」
    「ふうん?」
    「それよりも、お客様ですよ」
    ドアの後ろにいたお客様、ナデシコと共に部屋へと戻る。
    「ナデシコさん」「ナデシコちゃん」
    「やあ、諸君。経過はいかがかな」
    「僕は順調ですよ。週明けには退院できそうです」
    「私も同時期ですね」
    「おじさんはまだかかりそう。ぐすん」
    「ボス、荷物もあるでしょうから一緒に戻りましょうか。車を用意しますから」
    「あ、それすごい助かるよ」

    ルークとモクマが既に集まっていたので、ナデシコはそのベッドの前に、チェズレイは先程と同様にルークのベッドの横の椅子へ。
    早速脱線しかけたところをナデシコの咳払いで話を戻す。

    「…ルーク。今のうちに君の意志を聞いておきたい」
    「はい、なんでしょう」
    「君の今後についてだ。」
    ルークが神妙に頷く。今日はこの話ばかりだ。

    「知っての通り、DISCARDの件で君の職歴は抹消されている。私が君に用意出来る道は二つある。」
    「はい」
    ごくりと息を飲んでその先を待つ。
    チェズレイとモクマも口を閉ざしてナデシコを見詰めた。
    「一つ、私の部下として、ミカグラ警察に所属すること。もう一つは職歴が抹消された事実の抹消だ。つまり、リカルドの署への復職だ」
    ぽかん、と口を開いた。
    「え……、出来るんですか?」
    「ああ。少しばかり手間はかかりそうだが、君が望むならこちらで対処しよう。人の記憶まで消せる訳ではないから肩身の狭い思いをすることになる可能性はあるがな」
    きっとチェズレイの話を聞く前なら迷うことなくお願いしただろう。

    ……だが。
    「……少し、時間をください」
    「ああ、勿論。重要な問題だからな。ただ、手続きにも時間がかかる。すまないが長くは待てんぞ。」
    「はい」
    「退院したらオフィスで聞かせてくれるか」
    「……その時までには、心を決めます。」

    「そうか。では、失礼するよ」
    「ありがとうございます」
    用事が済んだらすぐ、ナデシコはヒールの音を響かせて出て行った。

    「なるほどねえ」
    「お分かりいただけたようでなによりです」
    「えっ?」
    「ボスはどうかそのままで」
    「なんなの…?」
    通じ合っている二人と、一人分かっていない自分。二人と共に行くと言うことはこれからもこんな疎外感を受けることになるのかもしれない。
    心の中にもやっとしたものを感じたところで、チェズレイがナデシコから預かった荷を開いた。
    「ボス、ナデシコ嬢からお見舞いの品を頂きましたよ。冷やしてあるようですし、早速いただきましょうか。ボスはどれにいたしますか?」
    「わぁ、今日のはゼリー? どれもおいしそうで迷っちゃうな」

    酒はともかくとして、食事制限は出ていない。
    産地の高級なフルーツを使った、ルークが自分では買う気にならない価格のゼリーが3種類入っている。
    ルークから選ぶ事に二人とも異論はないようで、どれにしようかと吟味しているルークを挟んでチェズレイはモクマに視線を送る。
    「それにしても、モクマさんは私の情報をどこまで勝手に開示したのでしょうか」
    「チェズレイの好きな子を知ってるってとこまでは言っちゃった」
    「無粋ですねェ」
    「だって俺達がデキてると勘違いされたんだもの。チェズレイも困るでしょ」
    「ボス……」
    「え、そこまでは言ってないよ」
    「似たようなこと思ってたのはホントでしょ」
    多様なフルーツが入ったゼリーに決め、早速一口食べて恍惚としていたものの、突然の流れ弾に大きく首を横に振る。

    「ボス、あなたにだけは勘違いされたくありませんのではっきり言っておきますね。私のモクマさんへの思いは色恋に属したものではありません」
    「……2人で同じこと言っとる…」
    やっぱりお似合いなんじゃないかと内心思うが口に出さないくらいの分別は付くので口を閉ざした。

    「私が愛するのはモクマさんとは全然違う方ですよ。高潔で、自分の意志を曲げずに信念を貫き通す強さ。この人の力になりたいと、私ですら思ってしまう魅力のある方です。」
    「…すごい人なんだな。まあ、チェズレイの相手だもんな」
    完璧な人物は選ぶ人も完璧なのかと納得する。
    その横で、自分の位置から近いゼリーを取るモクマがニヤニヤと笑っている。
    「ええ、私が触れたいと思う希有な方ですから。エメラルド、ペリドット、スフェーン、……いいえ、どんな宝石に例えるのも勿体ない程きらめく瞳がチャームポイントでしょうか」
    「エメラルド…ってことは緑色の瞳なんだな」
    「ええ。ボスがよく知る方ですよ」
    「……えっ、僕が知ってて緑の瞳ってもしかして、アー」
    「あァ、ボス、違います。ですからどうぞその名前は口にしないで。」
    最後まで言わせないその意志は伝わった。
    となれば他の人だが。
    「……うん。 あ、父さんの瞳も緑っぽ」
    「ボスゥ、どうか。わざわざ私の忍耐力を試すような真似をお止めいたたければ幸いです。念のため重ねて言っておきますが、ファントムでもありません。断じて」
    「ごめん。でも僕の知ってる緑色の瞳の人なんて他にいたかな」
    「ボスと私がよく知る人物ですよ」
    「学生時代の友達には何人かいたけど、チェズレイが知ってるとは思えないし。ミカグラの人は茶色系の瞳が多くて、あまり緑の人はいないからなあ」
    まだ半分残っているゼリーを食べる事すらせずに考え込むものの、この人だと言う心当たりはない。
    「あ、チャック機長の娘さんがたしか」
    「残念ながら、私はほとんど面識がありませんので、好む以前の問題ですね」
    「そうだよなあ」
    再び考え込むルーク。左右からそれを見る2人は苦笑混じりだ。
    「全く、手強い相手だよねえ」
    「ええ、本当に」

    もう少しチェズレイと深い関係に当たる人物で緑色の瞳。これ以上思い当たる人物もいない。諦めてゼリーを一口食べ進めた。
    「……二人はお互いの好きな人知ってるんだよな」
    「そうですね」
    「うん」
    あっさりと肯定される。2人の仲が良いことはとてもいいことだけど、どこか壁があるようで寂しくて、もやもやと胸に溜まるものを残りのゼリーを一気に食すことで誤魔化した。

    その気持ちの揺れを聡いチェズレイが見逃すはずもない。
    「おや、妬いてくださった?」
    「妬く、なのかな。教えてもらえて羨ましいとは思うよ。」
    嫉妬ではなく羨ましいとカテゴライズするのは防衛本能なのか。僅かでも芽が出たのであれば充分だと微笑みの仮面の後ろでは大笑いしていることにモクマは気付いても何も言わない。
    「そうですか。……でしたら、構いませんよ。ボスになら教えても。」
    「ほんと?」
    表情がぱっと明るくなった。
    下準備はここまでで充分だろう。
    それまでチェズレイに任せて黙っていたモクマが口を開いた。
    「ルークはさ。俺の好きな人とチェズレイの好きな人、どっちから聞きたい?」
    「え、どっちって言われても」
    「じゃ、同時に言っちゃえばいっか」
    「そうですねェ。抜け駆けになってしまいますから」
    「いや、一気に言われても聞き取れないんじゃ……」
    「そこは大丈夫だと思うよ。」
    「ええ、別の曲なら不協和音になるでしょうが、同じ曲なら合奏ですから」
    「……同じ…?」
    意図するものに行き当たる前に、ふたりしてルークの耳に顔を近付けた。
    「「ルーク・ウィリアムズ」」
    「…えっ」
    異口同音の言葉は養父に引き取られてから誰より馴染んだ音。だからこそ、今聞くことになるなんて思いもしなかった。

    「ふたりでからかってる…とか、じゃないよな」
    その音が自分を表すことすら信じられない。心音がうるさい。耳まで真っ赤だ。もう少し早い時期にこんなことを言われていたら心拍数の異常で看護士が駆け付けていたに違いない。
    「心外ですねェ。…ね、緑の瞳が輝く私のスイート。私と共にいてくれませんか」
    「ほんと、さすがに冗談でこんなこと言わんって。俺、これからもずーっと、ルークと一緒にごはん食べたいなあ」
    左右からこんなにも甘やかな誘い文句が聞こえる。
    どっちを向くことも出来ずに手元の空のカップを強く握ることくらいしか出来ない。

    「なあ、ルークは俺とチェズレイ、どっちがいい?」
    「どっち、ってそんな」
    「ボスがなにかを切り捨てるのを嫌うと分かっていてそんなことを言うなんてひどい方だ」
    「だってルークの一番になりたいじゃない」
    「ボスが困惑しているじゃありませんか」
    流れるように二人の会話が続く。
    軽い口喧嘩をしているように見えて、二人とも上機嫌なのはもしルークが表情を見ていれば分かったことだろう。
    ルークはどちらかを選ばない。2人の仮定通りだった。

    「ルークはさ。美味しいもの、色々食べたいタイプだよね。ホントはそのゼリーだけじゃなくてマンゴープリンもブドウのゼリーも、両方食べたいんでしょ。」
    「それは、そう…ですね…?」
    答えても差し支えない質問に変わった事に安堵したところで、マンゴープリンを一匙、口の目の前に差し出される。
    「はい、あーん」
    「んん、…うっま…!」
    反射的に口を開けば、先程の爽やかなゼリーとも違う濃厚な甘さが広がる。

    「それと同じでさ。両方ならどう? 俺と、チェズレイ」
    頷きかけて、精一杯首を横に振る。悪魔の誘いだ。
    「いや、デザートとは違いますよね」
    「近年のリカルドでは馴染みがないかもしれませんが、古来からハーレムや多重婚は珍しいことじゃないですよ」
    「そう、かもしれないけど」
    「ボス。こちらもどうぞ、召し上がれ」
    手付かずだったブドウのゼリーをチェズレイが開封し、一匙掬って差し出された。果肉からじゅわりと染み出す果汁がたまらない。
    「こっちもおいし…、…じゃなくて! 僕が良くても君達がよくないんじゃ」
    チェズレイがルークの手の中の空の容器とブドウのゼリーを入れ替える。美味しいデザートが賄賂のように重たく感じる。
    「ボス、私達ではあなたの相手に不足でしょうか?」
    「そんな事あるわけないっ」
    勢いよく否定する。既にどちらかを、あるいは両方を選ぶ流れになっている事すらルークは認識していないのだろう。
    「ボスはこれまで通り、私達2人ともを愛してくれればそれでいい。……これからも、共にいてくれませんか?」
    「別にどっちかを選んでもいいけどね。ルークの事、大好きなのは変わらないもの。」
    さも、その他に選択肢がないように言う。
    左右どちらを見ても熱の籠もった視線とかち合う。

    小さいうなり声を上げて暫くして、根負けしたルークが呟くように言った。
    「…………僕で、良ければ」

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