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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    パズズ+ハスター
    バイオなハザードを鎮めに行く二人の話
    ※研究者とか報道陣とかモブがちらちら

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #ハスター
    hastur
    #パズズ

    emergency サイレンこそ消されたものの、緊急車両の上では慌ただしげに赤色灯が回っている。平日の昼日中にも関わらず、その工業地帯の一角は騒然としていた。
     背の高いフェンスに囲まれた敷地内、樹木の向こうには連なる社屋が見え隠れしている。白一色に塗られたそれらには、黄色と黒を基調としたマークが入っていた。そのシンボルを日常生活の中で見かけることはめったにない。どのような物質を指しているのか分からないまでも、その色の組み合わせは工場の外を通りがかる人々に、容易に近付いてはならぬ場所であることを思わせた。
     門の外、駆けつけた警察官や消防隊員が各所と連絡を取り合う後ろにはテレビ局の報道班や新聞記者が立ち並び、手に手にマイクや撮影機材を握っている。情報通を気取る一般人や通りすがりの野次馬なども詰めかけ、道路の端で押し合いへし合いしていた。
     彼らはみな、社屋のうちのひとつを探るように見つめている。その入り口には、「立ち入り禁止」と大きく印刷されたテープが巻き付けられていた。
    「さあさあごめんよ。ここを通してもらえるかな?」
     黒山の人だかりに爽やかな声が投げかけられる。人々が振り向いた先には、ふたりの獣人が立っていた。そのうち立派な角を持つライオン風の獣人と、一人のカメラマンとの目が合う。その獣人はすぐさまにこりと微笑んだ。
     いかにも微笑み慣れていると言わんばかりの、美しい表情だった。誰もがその端正な顔立ちに見とれているうち、二人は人混みの中をするすると抜けていく。
    「ちょっと君たち、いま入っちゃ危ないよ!」
     親切心のつもりだったのだろう。居並ぶマスコミ関係者の一人がふと我に返ったように、ハスターとパズズの背中に向かって声を張った。
     パズズは研究者らしく白衣を羽織っているし、ハスターに至っては防護服の肩にハザードマークを染め抜いている。只者ではない空気を感じ取っても良いはずだが、いかんせんそれ以外のところに目が吸い寄せられてしまうせいか――華やかな風貌とやんごとない気品、迫力のある体躯に遊ぶ触手――、状況を理解していない一般人か、「おいた」の過ぎる野次馬のように見えてしまうらしかった。
     万事ゆったりと構えているパズズは、勘違いされたところで気にしない。警告を投げかけた相手の視線をとらえ、ゆうゆうとウインクを飛ばした。
    「やあ、ご忠告をありがとう! だけど心配はいらないよ。オレとハスターはね……」
     にこやかに成されるはずだった説明を遮ったのは、他ならぬハスターだった。ゆっくりと首を巡らせ、ぎらつく瞳を相手に向ける。するどい牙の並んだ口が、がぱりと開いた。
    「貴様、我々を一体何だと心得る?」
     低い声音が、唸るように響く。鋼のようにつややかな体の周り、毒々しい色合いの触手がうぞりと蠢いた。
     その身から放たれる威圧感に、対する記者はびくりと体をこわばらせる。人の波がさっと割れ、ハスターとパズズを遠巻きにした。
     群衆の誰もかれもが、ふたりに視線を注いでいた。謁見の場に立つ王のごとく、ハスターはゆっくりと彼らを見回す。深く息を吸い込み、昂然と言い放った。
    「よいか、人間ども。吾輩とこのパズズこそが、飢野学園の生物災害対策班であるぞ。道を開けよ!」
     パズズはひっそりと苦笑する。学園の外だろうと中だろうと、ハスターの物言いは変わらない。誰も彼には敵わないのだ。
    「みんなは危ないから下がっていてほしいな。大丈夫、すぐに終わるよ」
     補足するかのごとく、やわらかな言葉で包み込む。居並ぶ一人ひとりの顔を順番に眺め、にっこりとしてみせた。
    「誰か、ここの関係者のひとはいる? 詳しい話を聞きたいんだけど……」
     一人がぎこちなく手をあげる。どうやら社員らしい。日々袖を通していると思しき白衣のあちこちには、薬品の染みがついていた。
     出動要請がかかった時点であらかたのことは把握しているものの、詳細は現場の状況を見てから、もしくは直前までその場にいた者の話を聞かなければ分からないことも多い。
     いくつか尋ねたいことがあったのだが、彼は言い淀むばかりだった。ちらちらとハスターに視線を注いでいる。どうやら、初めて相対した王に気圧されているらしい。専門機関に事態の終息要請を出したと聞いてはいたものの、まさかこんな派手な転光生が来るとは思ってもみなかったのだろう。
     彼が抱いている「畏れ」は、ハスターにも伝わっていた。とはいえ事態は一刻を争う。のんびりと待っているわけにもいかなかった。
     堂々たる体躯のハスターは、不安そうに震える相手をじっと見下ろす。問いかけは、低く静かに響いた。
    「――何を遠慮することがある? 疾く述べよ。このハスターに聞かせてみよ」
     眼差しの力強さに耐えかねて、相手は思わず目を伏せる。威厳に満ち満ちたハスターの様子には、まさしく王の風格が漂っていた。
     聞き取りを終えた二人は、ゆっくりと災害現場へと向き直る。特殊な入れ物の外へあふれるべきではなかった毒物。慌てて部屋を封鎖したものの、完全な密室状態にあるわけではない。一棟ほぼ丸ごとがハザードエリアと化していることに間違いはなかった。
    「さあ、オレの可愛いトカゲちゃん! キミのカッコいいところを、パズズさんに見せてくれるかな?」
    「ええい寄るな触るな! 貴様のための活動ではない!」
     騒がしく言葉を交わしつつも、二人は封鎖された建物へと向かっていった。
     黄色と黒の立ち入り禁止区画を示すテープが彼らを遮る。それをくぐるべく、押しのける所作はひどく軽やかだ。その先にうずまいているはずの脅威を、まるで意に介していないような手つきだった。

     二人が再び姿を現すまで、それほど時間はかからなかった。
     固唾を呑んで待っていた面々に向かって、パズズが大きく手を振る。もう大丈夫だよ、という明るい声に、人々の肩からどっと力が抜けた。
    「フン。この程度、造作もないわ」
     さすがは飢野の生物災害対策班、とどよめく面々をよそに、ハスターは鼻を鳴らす。余裕綽々の様子で出てくると、立ち入り禁止エリアを示すテープの前で足を止めた。
     するりと触手が持ち上がる。それは優雅に蠢き、目の前のビニールテープをあっさりとちぎり取った。
     なめらかな触手の毒々しい紫と、テープの濃い黄色との対比が目に痛い。それは見ていたものの記憶に、くっきりと刻まれた。
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