「今週、金曜の夜は大学の同級生と飲みに行ってきます」
と伝えた瞬間、至の左右対称に整えられた眉が左だけピクリと動いたのを、綴は見逃さなかった。本当は子供のように「やだ。どうせ女もいるんでしょ?」と駄々をこねたいのに、大人の理性で我慢している証拠だ。わかっていても、今更誘いはは断れない。至の不満を少しでも解消したくて、綴はこう付け加えた。
「でも、一次会だけで帰ってきますね」
ホッとしたのか、わずかに口元が緩む。ベリー色のリップカラーで彩られた唇は瑞々しくて美味しそうだ。至の綺麗な顔はいくら見ていても飽きない。
「飲み会が楽しいのなんて、学生のうちだけだから。楽しんで来なね」
綴にとってはまだ未知の世界である社会人特有の苦労をにじませながらも、前向きに送り出してくれた。そんな至との約束を守るため、綴は二次会には行かないと固く誓った。
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