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    美枝mie

    成人済 hdavhdを書きます
    書くものは、hdavの表現が多め
    雑食で、左右どちらも有り得ると思って書いておりますので、苦手な方はご注意ください。

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    POIPOI 47

    美枝mie

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    hdav hdl復活if
    前回の続きです。hdl様視点
    引き続きhd様が苦労というか苦悩する話
    先に謝っておきます。今回は先生のメンタルが本当に落ちてるので、、ごめんなさい🙇‍♀️
    そんな先生が嫌な方は見ないでくださいね

    hdl復活if 3/4どうやら、アバンは長く活動しておられぬらしい。
    全く問題なく過ごしていたかと思うと、突然糸が切れた様に眠り込んでしまう。
    やはり、俺の蘇生の為に無茶をしたせいであろう。
    空になった魔法力を、身体が強制的に回復させようとしている様だった。
    しかし、それは今のこいつには全くの無駄だ。
    酷使した魔力の器自体が壊れてしまっている。
    アバン自身も試していたが、どれだけ魔法力を注いでも貯めておけない。
    喰っても喰っても、飢えている様なものだ。
    辛くないはずがないが、この男はタフだった。
    「体はちゃんと動きますから」
    そう言って、起きていられる限られた時間をフルに使って動き回った。

    アバン自身も、ボロボロだった身なりから、さっぱりとした服に着替え、髪はまたあの何だかよく分からん形に巻いてある。
    雑然としていた辺りを片付け、いつの間にか俺が壊した棚も何事も無かったかの様に修繕されていた。
    いらんと言うのに、強引にあれこれと動けぬ俺の世話をし、どうやっているのか、簡単な衣服まで作り始める。
    保存食から毎度何やら作っては持ってくる。
    書物を読み漁って、封印解除の方法を探り、瞑想して自身の魔法力回復を目指す。
    とにかく、意識のある内は常に何かをしていた。
    1日前には死にかけていたのは、なんだったのかと言いたいほどだ。


    アバン自身の生命を引き換えにして俺を復活させたというのは、思い込みだったらしい。
    倒れたのは眠かったので、だと?
    ふざけるな!
    俺がどれほど苦労して介抱してやったと思うのだ!

    俺を怒らせることにかけてはコイツは本当に天才だな。
    死のうとしたのなら許しがたいし、何ともないと言われても腹立たしい。

    とは言え、相当体力を消耗していたのは事実だ。
    あのまま放ったらかしていたら本当に命を失っていた可能性は高い。
    それを、疲れていただの寝不足だので済ますこいつはやはりどこかおかしい。

    俺を復活させた理由も、ふざけていた。
    礼が言いたかった、会いたかった。
    ただ、それだけだと言う。
    問い詰めてようやく出て来たのが、借りを作りたくなかった、、
    もっともらしいが、どう見てもその場で思い付いた、その場凌ぎの理由だった。
    納得できるわけも無かったが、それ以上訊かずにおいてやったのは、言い包めるのが得意なはずのこいつが、悪戯がバレた様な、本当に困った様な顔をしていたからだ。


    俺と会って礼を言う。
    それだけの事が、、
    こいつが費やしたであろう時間と労力に見合うとは、とても思えぬ 。
    例え生命が対価でなかったとしても、だ。
    しかし、この訳の分からぬ男の頭の中では、どんな計算になっているのか釣り合うらしい。

    分からぬ。
    もっとこう、、何かあっても良いだろう。
    強敵が現れたから、共に闘ってほしいだとか、
    俺の存在を政治的に利用するだとか、
    魔界について知りたいだとか、
    それを叶えてやるかは別の話だが、それなら分かりやすい。

    細々と作業をしながら、やたらと話しかけてくるものだから、もう一度聞いてやった 。

    「ここまでして、本当に俺に望むことは無いと?」
    「ええ、何度も言いますがそういう目的で生き返らせたんではないんですって」
    利用されるのも腹立たしいが、何も要求が無いと言われるのも、利用価値がない存在だと言われている様でムカつくな。
    つまり、こいつが何を言おうと腹が立つのだ。
    「あ、でも一つお願いが、世界征服は控えていただけると」
    「今更、やると思うか」
    「良かったです。流石にもう一度勇者をやるのは遠慮したいですし。それでしたら、どうぞ自由にしていただいて、、いえ、そうですね。すみません、私の一存で復活させておいて、後はご勝手に、では申し訳なかったです。ちゃんと責任取って、衣食住は保証しますから。私、お城勤めで結構蓄えありますし、それくらいは任せてください。お前、魔王も魔軍司令も辞めたら収入ないでしょう?地底魔城みたいなのはちょっと無理ですが、屋敷と使用人ぐらいな
    「きっ、貴様に責任取ってもらう覚えなどないわ!!!」
    、、やはり殺してやろうか。


    まだある
    「魔法が使えなくなりました」
    「二人でここに閉じ込められてしまいました」
    「私が死んだら出られますよ」
    よくもまあ次から次へと、口を開くたびに呆れるほどロクなことを言わぬ
    俺の身体がまともに動いたなら確実に殴っていた


    挙げ句の果てに
    当然の様な顔をして、毎回食糧を運んでくる。
    ここから出る方法がない、蓄えには限りがある、人間である自分の方が先に耐えられなくなる。
    自分自身でそう言った直後に、だ。
    俺はこの場を動けぬのだから、一人で食えばいいものを、、何なら俺の分の方が少し多い。
    もしや本当に計算が出来ぬのか?
    いや、流石にこいつに限って。
    やはり、ただの馬鹿なのかも知れん。
    お人好しにも限度があるだろう。
    だが、こいつが餓死するのを眺めているなど、そんな事許せる訳がない。
    出された食い物は無視しておれば、そのうちこいつが食うだろうと、放っておいた。

    ヘラヘラしているこの男を見ていると無性に腹が立つ。




    それでも、まだあの頃は良かったのかも知れぬ。
    俺が目覚めた数日後から、アバンの様子がしだいにおかしくなっている。
    うるさいほど話しかけてきた口数が減り、ボンヤリしている瞬間が増えた。
    短時間しか起きていられぬが、眠りも浅くすぐ覚醒する。
    うなされる事が増え、夢と現実が曖昧になってきている様だった。
    特に、俺が生き返った事を認識できていないらしい。
    目覚めて俺を見るたびに、驚いた様な怯えた目でこちらを見る。
    それでも初めはすぐに正気に戻り笑顔を作っていたが、徐々に混乱している時間が増えていた。

    おそらく、魔法力の涸渇が睡眠に影響を与えているのだろう。
    そもそも、魔法力が全くの0になる事はあまり無い。
    僅かに残った力では、使える呪文が無いからだ。
    極限状況では、最後に使う呪文で魔力を使い切るまで振り絞ったり、小さな効果しか得られぬ事を覚悟で無理に呪文を使ったりはあり得るが、稀にしかやらぬ。
    空になると突然、行動不能になる場合もあるから危険だ。
    回復方法が少ない魔法力は、残量を計算して行動するのが定石だろう。
    魔法力が無くとも生命に関わる事は無いが、やはり生来備わっている物が失われれば、影響は大きい。
    当然、身体は回復させようとする。
    使い切っても普通の状態なら一晩眠れば元通りで、それほど問題はないが、、
    元あったはずの魔法力が全く無い状態が続くアバンの場合、身体が異常事態と判断しているのか、どうも睡眠時に魔法力の回復にだけに力が使われている様に見える。
    その他の、精神や記憶やら、、よく知らんが通常眠って回復するべき所がほとんど回復しておらぬ。
    そこまでやっても、魔法力も戻らぬままだ。
    結果として度々意識が無くなるだけで、睡眠の効果が何一つ得られていない。
    ずっと起きているのと同じ状態になっていた。

    封印が解けぬと出られんと言っても、こいつならまあ何とかするだろうと、どこか楽観視していた所があったが、、
    このありさまでは、アバンと言えども新しい手を打つのは難しそうだ。
    魔法力が短期間で戻るのを期待するのも、確率は低いだろう。
    このままだと下手をすれば、こいつは餓死の前に衰弱死もあり得る。
    俺も体力を温存しておくべきか、と今も眠るアバンの隣に横になっていると、、

    「、、っ、くっ、」
    また、、うなされる声が聞こえてきた。
    「ああ、、っは、ハド、ラー、、」
    呻き声に混じって、いつも悲しそうに俺の名を呼ぶ。
    悪夢の原因を何故現実にまで呼び戻したのか、正気の沙汰とは思えぬ。
    が、少し分かってきた。
    アバンは夢の中で俺を探している、、。

    眼を覚ました気配がする。
    何だ?こちらへ手を伸ばしているのか?
    それほど俺の存在が気になるのならば、さっさと触れれば良いものを。
    俺の身体に触れるくらい、許してやっても良い。
    じっと待ってやるが、一向に手の感触がしない。
    クソッ、イライラするな。
    目を少し開いて見てみれば、俺の腕まであと少しという所で、拳を握りしめて震えている
    俺が見ている事にも気付いていない。
    貴様は俺の側で、何を、誰を見ている?

    思い切り手首を掴んで引き寄せてやった。
    戦闘時の様なスピードで動いたわけでもないのに、この男が全く反応できていない。
    俺の胸に手を押し付けてやるまで、なすがままだ。
    「俺は、ここに、居るだろうが」
    アバンがその大きな眼を見開いて、本当に驚いた顔をしている。
    だが、まだ俺を見ておらぬ。
    何か見てはいけないモノを、亡霊でも見ている様な眼だ。
    チッ、埒が開かぬ。
    自分で復活させておいて、目の前に居るのに、何故信じぬ。
    ガバっと腕をまわして抱き寄せる。
    「離せっ!」
    急にジタジタ抵抗されたが、強引に抑え込むと、意外とすんなり腕の中に収まって来た。
    おずおずと、俺の背中にアバンの腕が回される。
    しっかり抱え込んで俺の存在を伝えてやる。
    アバンがピタリと身体を寄せてきた。
    「貴様が呼び戻したのだろうが、忘れるな」
    そう告げると
    「はい」小さく応えて、静かに俺の胸元を濡らし始めた。

    これほどまでに、こいつが求める物は俺の何なのだろう、、?
    俺は何がしてやれる?
    しばらくぶりに触れる腕の中の温かさで、少し安心した自分が居た。
    俺を見ていないアバンは、まるで別人がそこに居る様だった。
    こいつは、ガキの頃からいつでも真っ直ぐに俺を見ていた。


    「ふっ、、、っ、ぐっ」
    俺の腕の中で大人しくしていたアバンの様子が変わった。
    その口から、苦しそうな声が漏れる。
    顔を上げさせてみると、唇を血が滲むまで噛み締めて、これ以上泣くのを耐えている。
    目元も頬も既に涙で濡れているが、必死に声をあげまいと、堪えようとしている。
    その眼は何かに怯えている様だった。

    「構わんから、泣いてしまえ」
    そう言ってやっても、俺の胸元に顔を押し当て首を振って必死に拒否する。

    だが、一度傷ついてしまった堤防のひびが修復する事は無い。
    ピシッピシッと音を立てる様に、徐々に亀裂は広がるばかりだ。
    「ヒッ、、っ、ぐっ、うう、、」
    それでもお前は耐えようとするか。
    相変わらず、強情なやつだ。
    が、このままでは苦しみが長引くだけだろう。

    アバンが地面に敷いていた毛布を掴んで、頭からスッポリ包んでやる。
    その上から強く抱き寄せ
    「誰もお前を見てはおらぬ。お前はよく頑張った。もう良いだろう」
    俺の背中に回された腕に力が篭る。
    アバンの身体が大きく震えだした。

    あと、少し

    「お互いの生死を超えてきたのだ。今更、取り繕う事など何も無かろう。俺が全て受け止めてやる。アバン、大丈夫だ」
    「あ、アァっ、、うぅぅ、、」

    堰が、、、切れる

    「ウアァー!!アァァーーーー!!!!!ワアァッ、ォォアアーーー!!!!」
    それは、深く暗い悲しみが、孤独が、恐怖が一度に溢れ出した様だった。
    いつも冷静に素顔を見せないこの男が、まるで獣の様に、声の限りに吼えていた。
    恐怖から逃れようとする様に、全身で暴れるのを押さえ付ける。
    筋力は俺が上でも、脚で支えられない状態で、本気で暴れるアバンを腕の力だけで押さえるのは骨が折れる。
    だが、今のこいつを絶対に離してはならぬと、頭のどこかで声がした。
    この身体のどこに、これほどの物を抱え込んでいたのか、留まることを知らずアバンは泣き叫ぶ。
    逃げられぬとなると、今度は俺に腕を回し全力でしがみついてきた。
    俺の背中の皮膚にアバンの爪がめり込む。僅かにミシッと骨が軋んだ音がした。
    並の者なら、とっくに締め殺されているだろう。
    完全に我を忘れている。
    常に相手を気遣うこの男は、どんなに辛くとも絶対にこの様な事はしないのを、俺は知っている。
    魔族の俺と比べるから華奢に見えるが、人間なら最高レベルの力を持ったこの男が、誰に本気で縋れるだろう。
    ずっと一人で隠して、耐えて来たのだ。

    そんな生き方しか出来なかったのは、全てとは言わぬが、、
    俺の、せいなのであろうな。

    少しアバンの力が緩んで、声が小さくなる
    が、まだ泣き止みそうにない。
    「ヒィッ、うああぁぁっ、やぁぁ、アアァ、、」
    悲鳴の様な声を上げて、縮こまって俺に縋り付く。
    色々な物を吐き出したアバンは、空気の抜けた風船の様に、小さく小さくなってしまった様に見えた。
    泣き声に、意味のわかる言葉が混ざってきた。
    「アアァ、、は、どらぁ、、ああ、あ、イヤァぁ」
    何故、俺をそんな声で呼ぶのだ。
    俺は何もしてやれぬ 。

    こいつの心は誰よりも強いのだと、そう思っていた。
    その心が世界を守り、弟子たちを育て、俺は負けたのだと。
    そのアバンの心が潰れそうに、ズタズタに傷ついている。
    傷口から溢れ出す血液が、声に涙になって流れ続けている。
    それは俺にも分かる。
    しかし、原因が分からぬから、取り除いてやる事もできぬ。
    この強い男が、これほど悲痛な声で俺に助けを求めているというのに、俺はどうしてやれば良いのか、何一つ分からぬのだ。

    泣き続けるアバンをただ抱き締めながら、この前と同じだな、と思った。
    俺を取り戻す為に、力を使い果たし倒れたこいつを、ただ抱いていた。俺は無力だった。
    今は薬草も効かぬ。心を癒してやるには護るにどうすれば良いのだ。
    敵が居るならば、俺の力で打ち倒してやろう。この身で庇ってやっても良いと思う。
    昔は力さえあれば何でも出来ると、出来ぬ事など無いとさえ思っていたが。
    俺は本当は何も出来ないのではないのか?
    例え、この身体が万全でも、この洞窟から出られても、それどころか世界を掌握しても、アバン一人救えぬ。

    アバンお前なら出来るのだろう?
    多くの人々の心を救ってきた、勇者なのだから。
    俺にも教えてくれぬか。

    「ヒッ、グスッ、グスッ」
    何度も落ち着こうとしては泣き出すのを繰り返し、やっと収まってきたようだった。
    しゃくりあげるアバンの顔を、ゆっくり俺の胸から離してやると、抵抗する気力も無いらしい。
    アバンは顔中を涙で濡らしボンヤリとこちらを見ている。

    それは、ほとんど無意識だった。
    俺はアバンの顔を舐めて涙を拭おうとしていた。
    腫れ上がった目元を、グシャグシャに濡れた頬を、真っ赤になった鼻先を、少しでも癒す事が出来ぬかと、涙を舐めとっていった。
    まるで獣だな。
    本当にこんな事しか出来ぬ。
    全く、元魔王が聞いて呆れる。

    そのまま吸い寄せられる様に唇に口付けた。
    流石に抵抗されるかと思ったが、意外にもアバンは口を開き受け入れてきた。
    ゆっくりと舌を動かすと、自然に絡めてくる。
    薬草の代わりに、俺の持つ何かを与えられぬかと、何度も唇を深く合わせると、アバンも応えてくる。
    舌で唇で抱き合っている様な、そんな口付けだった。

    顔を離すと、少しアバンの眼に光が戻った様だった。
    ふんわりとかすかに笑って、口を開いた。
    「ハドラー」
    叫びすぎて喉が潰れていたが、それでもはっきりと俺を呼んだ。
    「何だ?」
    「頼みが、あります」
    叶えてやりたいと思う。
    「言ってみろ」

    「私を、殺してください」

    まるで、剣で胸を貫かれた様に感じた。
    「な、な、何を馬鹿なことを」
    お前にはそれしか出来ぬのだと、そう言われた気がした。
    「今の私は、もう脱出の役に立ちません。
    それなら今お前の手に掛かるのも、近い将来に餓死するのでも同じことです。いえ、お前が殺してくれた方が、きっと楽に死ねる」
    「ふざけるな!こんな事で弱気になるなど!そ、、、そんなことは俺が許さぬ」
    それでも勇者か?と言いそうになって慌ててやめた。
    今だけは、今のこいつにだけは言ってはならぬ気がする。
    「その方が、お前も早く自由の身になれますよ?」
    、、、どうする?俺が断っても、アバンが決めたのであれば、自分であっさりと死ぬだろう。
    そういう男だ。それは嫌というほど知っている。
    また、同じだ。
    こいつがすぐに死のうとするのは、全く変わっておらぬ。


    、、いや。
    違う。
    何かは分からぬ。
    だが、どこか違う。
    時の秘宝で共に凍ろうとした時とも、あの島で自己犠牲呪文を仕掛けて来た時とも、僅かに違う。
    最も近くで、俺はアバンを見てきた。

    「なるほど、俺にその生命を差し出すと言うのだな?」
    はっきりと、確認する様に話す。
    「ええ、そうです」
    「つまり、お前の生命は俺の物だな?」
    お前が取り戻した俺の生命は、お前の物だ。
    「はい」
    「ならば、俺の物を勝手に傷つけたり失う事は、例えお前自身であろうと許さん」
    こんな詭弁がこいつに通じるとは思えんが、砂粒程度の違和感に掛けた。
    アバンの頬を両手で包み込んで、念を押す。
    「いいか、分かったな?」
    頼む!了承しろ!
    「、、、はい」
    小さく頷いた。
    「うむ」
    よし!
    思わずアバンに抱きついていた。
    こんなにも、こいつを失いたくないと思うとは俺もどうかしているな。

    やはり、アバンの真意は別にある。
    聞いてみたい。できる限り叶えてやりたい。

    アバンの眼が閉じかけている。
    起きていられる時間の限界が近づいていた。

    「よく言った。俺にその生命まで差し出そうとは、良い心がけだ。そうだな、俺は優しいからな。俺を復活させた労に報いてやろう。何か望みはないか?言ってみろ」
    こんな言い方しか出来ぬのだ。
    どうか、教えてくれ。
    「こんな事を聞いてやるのは、今しかないぞ?」
    「そ、それなら、、」
    「ん?」
    「私を、、」
    アバンが勇気を振るう様にして、口を開く。
    「どうして欲しい」
    出来るだけ優しく聞いてやる。
    「私を、、離さないで」
    「なんだと?」
    「私が眠って、次に目を覚ますまで、このままで居て、もらえま、せん、、か?」
    そ、、、そんな事が、そんな事で良いのか?それが、お前がして欲しかった事なのか?
    世界を救った勇者が、そんな些細な望みすら、言えずにいたのか?
    信じられぬ思いだが、わざわざこんな嘘も言うまい。
    眼をしっかりと合わせて応えてやる。
    「分かった。お前が良いと言うまで、俺はお前を離さぬ。何があろうとも、絶対にだ」
    アバンが一瞬目を見開き、見たこともない様な顔で笑った。
    そこらのガキの様な、屈託のない顔で、心底嬉しそうに。
    それを見て俺の胸の奥が、とても熱い、柔らかい物で満たされるのを感じた。
    アバンの心からの望みを叶えてやれる、俺に出来る事があった。
    嬉しいと、感じていた。

    今にも眠りそうになりながら、アバンがまだ俺の肩を掴んでいる。
    もうほとんど力が入っておらぬが、離そうとしない。
    アバンの背中に回していた手のひらをゆっくりと滑らせる。
    背中から、肩へ、肘、手首をなぞって、かすかに震える手の甲を包み込む。
    「アバン、大丈夫だ。お前が離しても、俺が握っている。だから、力を抜いてみろ。」
    少しずつアバンの手が開く
    「そうだ、それで良い」
    グッと掴んだまま、静かに胸元へ運んでやる
    また、アバンの腕を辿って背中まで戻ると、
    アバンを両の腕の中にしっかりと閉じ込めた
    「俺はここにいる。だから、安心して休め」
    すぐに、穏やかな寝息が聞こえてきた。

    もう2度と、死のうなどとさせるものか。
    俺が必ずここから出してやる 。



    アバンが、目覚めない。
    眠ってすぐに、こいつが時間を計るのに使っている蝋燭にメラを小さく飛ばして火を灯していた。
    この所、大抵1本の半分まで燃えるより早く目覚めている様だった。
    しかし、既に2本目が終わろうとしている。
    まさか、このまま、、
    などという思いも過ぎったが、どう見ても、よく寝ている。
    呼吸も心音も問題無い。
    離さぬとは約束したが、ずっと横向きも辛かろうと、俺の上にうつ伏せに乗せている状態だ。
    たまに身じろぐくらいで、、そう言えば珍しく、うなされてもいないな。
    スースーと寝息を立てて、俺の胸に涎まで垂らして幸せそうに眠るアバンは、随分と幼く見えた。
    俺が復活してから、ずっと下降線を辿り続けていた状況が、恐らくは改善している。
    この突然の変化は、どう理解すべきだろうか。
    アバン、そろそろ起きたらどうだ?
    考えるのはお前の領分だろう。
    しかし、なぜかは分からぬが、やっと本当に眠れているのだとしたら、起こす訳にもいかぬ。
    ずれた毛布を掛け直してやる。
    俺の上で起きたら、アバンがどんな顔をするか楽しみだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭💖❤❤
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    Replies from the creator

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    つーさん

    DONEタイムリープ軸の世界設定みたいな感じ。
    ED後の武人と先生が15年前の決戦の瞬間へ中身だけが戻ってしまって、そこから最高のハピエンを掴むために頑張るという世界線です。
    恋愛通り越して魂の半身レベルで互いへの絆がMAXになっているので、糖度は低いですがクソデカ感情てんこ盛りな感じです。多分。
    巡る世界の魔王と勇者(ハドアバ)「私、かなり頑張ったと思うんですよ……」

     満天の星空を見上げて呟いたのは、未だ成熟しきらぬ少年だった。少女と見まがう美しい容貌だが、その顔に浮かぶ表情は奇妙なまでに大人びていた。老成しているとも言える。
     漆黒の空に輝く数多の星々を見つめる眼差しには、遠いどこかを眺めるような色があった。それと同時に、口にした言葉を示すようにどこかくたびれた風でもあった。

    「そうだな」

     そんな少年の呟きに同意したのは、低い男の声だった。重厚な響きを持って耳に届くその低音に相応しい体躯の男は、長いフード付きのローブに身を包んでおり顔の判別は難しい。ただ、立派な体格をしていることだけは見て取れた。
     夜の闇に溶け込みそうな漆黒のローブ姿の男もまた、星空を眺めていた。静かに流れるこの時間を噛みしめているようにも見える。
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