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    mito_0504

    @mito_0504

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    mito_0504

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    残響番外編最終話 前半部分掲載します つるさん29〜30歳、からぼー27〜28歳くらいを想定して書きました 残響①から12年後の話です 長いね〜

    #くりつる
    reduceTheNumberOfArrows
    #現パロ
    parodyingTheReality

    残響番外編④ ひらひらと花弁の舞う薄紅の桜並木だとか、きらきらと陽光の乱反射する青緑の湖面だとか、少し肌寒い風でさわさわと揺れる鮮やかな紅葉だとか、そういった風景を美しいと思うのと同じように。ただそこにある空間を、美しいと思ったことがある。
     高い天井に、規則的な凹凸を持つ壁面。真正面に設置されたパイプオルガンの荘厳な姿。並ぶ客席は多くの観客で埋まり、とりとめのない会話が繰り広げられている。その話し声ですら耳触りの良い音に変えてしまうほどにこの空間は計算され尽くして設計されているのだと気付いた頃、舞台上に奏者達が現れる。全員が着席した後に遅れて歩いてきたのは一人のヴァイオリニスト。この演奏会でコンサートマスターを務める、大俱利伽羅広光だ。
     当時小学生だった相州火車切は、親戚筋の大学生・大俱利伽羅の誘いを受けて、この日初めてオーケストラの演奏会に足を運んだ。厳密には親戚同士の年始の集まりで近況報告をし合った際に大倶利伽羅が「夏の演奏会でコンサートマスターをすることになった」と話していたのを耳にした火車切が勇気を振り絞って日程と会場を聞き出したというだけで、直接誘われたわけではない。しかし行きたいと伝えた際に「遠いだろうから無理はするな。だが、来てくれたら嬉しい」とのことだったので、火車切の脳内では『誘われた』ということになっていた。年上の大倶利伽羅をかねてより兄のように慕っていた火車切は、たとえ自身がクラシック音楽に疎くとも、楽器経験がなくとも、憧れの人の晴れ舞台とあっては足を運ばずにはいられなかった。
     音楽を聴く、と言われて火車切が想像するのは、イヤホンやヘッドホンを使用して好きな曲を聴くことや、テレビで流れている曲を聴くことで、その他に何かあるかといえば学校の音楽の授業で先生のお手本や他人の発表を聴くことくらいのものだった。故に、人生で初めて器楽オーケストラのためのコンサートホールに足を踏み入れた際に、それまで自分が耳にしてきた音との違いや、その違いを生み出す建築技術に圧倒された。
     何故、壁がやたらとデコボコしているのか。何故、壁にも舞台の床にもわざわざ木が使われているのか。何故、天井がこんなにも高いのか。何故この空間をこんなにも、美しいと感じるのか。
     演奏の良し悪しというものは、音楽経験の乏しい火車切には正直なところ、よくわからなかった。皆の中心で堂々と楽器を弾きこなす大倶利伽羅にただひたすら憧憬のまなざしを向けることに忙しくしていたから、演奏を聴けていたかどうかも怪しい。けれど、音楽がわからなくても、そこに「音」が響くという現象を、そしてその現象を生み出す空間そのものを、火車切は確かに美しいと感じていた。
     美しいと思ったら、堪能せずにはいられない。演奏会がアンコールまで終わって、客席からぞろぞろと観客が退出していく間にも、火車切は呆然とホールの内装を眺めていた。人がいなくなったら、どんな眺めになるだろうか。そんなことを考えているうちに本当に人がいなくなって清掃作業が始まってしまったので、慌ててホールから飛び出す。
     やたら重い扉が二重になっているのも、ホールの中で響く音を美しくするための工夫なのだろうか。そんなことを考えながらロビーに出ると、ちょうど楽器の片付けを終えた奏者達が家族や友人達に挨拶をしているところだった。話し込んだり写真を撮ったりしていて、みんな笑顔で楽しそうだ。
     大倶利伽羅にも会えるだろうか。演奏の感想は上手く言えなくても、格好良かったとただ一言、伝えても良いだろうか。逸る気持ちを深呼吸で落ち着けながら辺りを見回した火車切は大倶利伽羅の姿を見つける直前、ふと視界に飛び込んできたある男性に自然と視線が吸い寄せられていた。髪も肌も白いその男性はすらりとした細身で身長も高く、しゃんとした歩き姿が印象的で、その姿を眺めているうちに立てばなんとかで座ればなんとか、といううろ覚えの慣用表現がなんとなく思い浮かんだ。
     綺麗な人だな。と、純粋に思った。そして、その男性が立ち止まった先に目を向けて、火車切は息をのんで目を見開いた。男性がにこやかに笑いかける相手は、まさに火車切が探していた大俱利伽羅で。そしてその大倶利伽羅は普段からあまり感情を表に出さない人物だったはずだが、白い男性と目を合わせるなり眉尻を下げて緩やかに口角を上げていたのだ。しかも、演奏会が終わる時に渡されていた花束を、その白い男性に手渡していた。あまりの衝撃に火車切が身体を強張らせているうちに、赤やピンク色で彩られた花束を受け取って左腕に抱えた白い男性は、大倶利伽羅にそっと右手を差し出した。大倶利伽羅も右手を差し出して握り、軽く上下に振っている。
     ああ、握手か。そういえば演奏が終わった後に、指揮者ともしていた気がする。二人の様子を眺めるうちに少しずつ冷静さを取り戻していった火車切が、演奏会という場ではどうやら握手が普遍的な挨拶らしいと学習した時。握手を終えた白い男性は更に笑みを深めて一歩踏み出し、右腕を大倶利伽羅の背に回した。はた目には抱きついたようにも見える。そして大倶利伽羅も右腕を白い男性の背に回し返し、とんとんと軽く叩いたように見えた。はた目には抱き返したようにも見える。
     なるほど、演奏会のような場では抱き合うような挨拶もするものなのか。よく周りを見てみれば男性ではあまりいないようだが、確かに抱き合っている女性は多い。大学生ってすごい、大人だ。辺りを見回して感心していた火車切が再び大倶利伽羅に視線を向けると、ちょうど大倶利伽羅も火車切の存在に気付いたらしく、かちりと視線が交わった。手招きされたので小走りになって近寄ると、当然白い男性も火車切に気付いて目を丸くしていた。
     大倶利伽羅は火車切の身長に合わせて背を屈めて、「よく来たな」と右手を差し出した。火車切がおずおずとその手を取ると、大倶利伽羅は軽く握り返して上下に振った。その手の大きさと温かさにどきりとした上に、普段の服装とは違うかっちりとしたスーツ姿の大倶利伽羅に見惚れた火車切はつい無言になって、何も言えずに固まってしまった。すると大倶利伽羅は怪訝そうに首を傾げて眉を顰めた。
    「火車切、どうした? 熱中症か? 顔が赤い」
    「おっと、そりゃまずいな。スポドリ買ってくるよ」
    「あっ、ま、待ってください、大丈夫です」
     何だか大事になりそうな気配に我に返った火車切は、ふらりと立ち去りそうになった白い男性を咄嗟に引き止めた。そして大倶利伽羅を見つめ返して、はくはくと唇を震わせながら「広光兄さんのヴァイオリン、かっこよかった」と、一番伝えたかった言葉をなんとか発した。頬を染めて真っ直ぐに大倶利伽羅を見上げる火車切を、隣に立っていた白い男性は終始にこやかに見つめていた。
    「ふふ。わかるぜ。今日も伽羅坊はかっこよかったなぁ~!」
    「国永、茶化すな。坊呼びもやめろ」
    「おっと失敬。それじゃあ改めて広光くん、この子がきみの親戚の火車切くんだよな? 似てるからすぐにわかったぜ」
    「ああ、そうだ。火車切、お前にはこいつを紹介しておきたい」
     大倶利伽羅は左手を火車切の頭に乗せて軽く撫でつけてから、視線で隣の男性を示した。火車切も改めてその男性を見上げると、彼は「おっ」と一瞬だけ目を丸くした後、火車切と目を合わせてにこりと微笑んだ。そして先ほどの大倶利伽羅と同じように少し背を屈めて右手を差し出し、口を開いた。
    「俺は鶴丸国永。大学院生で、広光とは高校の部活で知り合ったんだ。そんで俺は広光の先輩で」
    「恋人だ」
     え。単語にもならない発音をして、火車切はぽかんと口を開いたまま固まった。鶴丸と名乗った男性の薄紅の唇から発せられる思いの外低い凛とした声に聞き入っていた火車切は、大倶利伽羅が発した言葉を咄嗟には理解できなかった。唖然としたのは話を遮られた鶴丸も同じらしく、目を丸くした後に苦笑して肩をすくめていた。
    「おい、サクッと言いすぎだろう。もうちょっと何かさ、心の準備とかする時間をさ、くれても良いじゃねぇか」
    「紹介したいと昨夜も話して了承を得たはずだが。それに火車切は家が遠いんだ。あまり悠長にしていると帰宅が遅くなる」
    「ああ、なるほど、そりゃ大変だ。そしたら火車切くんは俺が駅まで送るよ。きみはこのあと打ち上げだろう? ゆっくり話すのはまた今度にしよう。光坊や貞坊との挨拶もさっき済ませたしな」
    「頼んだ。二人とも気を付けて帰れよ」
    「おう、またな」
     大倶利伽羅は再度火車切の頭を撫でて「今日はありがとう。またな」と告げると、早々に踵を返してひらりと後ろ手に手を振り、控室に向けて歩き去ってしまった。残された火車切はその広い背中を見送る間にもひたすら目を丸くし続けていたが、眼球が乾いて痛みだしてようやくまばたきを思い出した。鶴丸はひらひらと手を振って大俱利伽羅を見送った後に火車切を見やり、にぃと口角を上げた。優しげな柔らかい微笑みから一変、何かを企んでいるような子供じみた笑顔だ。
    「そんじゃ、火車切くん。自販機かコンビニでアイス買ってこうぜ。こう暑いとバテちまうからな。もちろん俺の奢りだ。好きなのを選んでくれ」
    「恋人……えっ、恋人って……付き合ってる、ってこと? 広光兄さんと、あなたが……?」
     気が動転したまま問いかけるせいで火車切の声は震えていて、語尾は弱弱しくなっていた。対する鶴丸は火車切の言葉を最後までじっと聞いた後に、僅かに視線を下げて腕を組んだ。
    「うん……まあ、あんなふうに急に言われたんじゃ、驚くよなぁ……」
    「ってことは……鶴丸さん? は、その、広光兄さんのことが、好きなんですか……?」
     火車切はしどろもどろになったまま、頬を紅潮させて再度問いかけた。足元に目を向けていたようだった鶴丸はパッと顔を上げて小首を傾げたが、火車切の表情をじっと見つめた後にゆっくりと頷いてはにかんだ。
    「……おう。俺は広光くんに、ずっと昔から心底惚れているよ」
     ああ、やっぱり綺麗な人だ。鶴丸の飾り気のない微笑みにすっかり見惚れてしまった火車切は、「腑に落ちる」というのがどういった状態を指すのかをこれ以上なくはっきりと実感しながら、こくんと一つ、深く頷いていた。
     ホールから駅に向かう途中に立ち寄ったコンビニで、火車切は二つで一組になっているチューブ入りのアイスを選び、目の前にあった公園のベンチに座って鶴丸と一緒に食べた。花束を抱えたまま器用にチューブを開けた鶴丸は、一口食べるなり「こりゃ美味いな、今度伽羅坊にも食わせてやろう」と笑い、直後にハッとして「坊って言ったの、広光には内緒な?」と真顔になった。自分よりもずっと年上の大人が子供のようにころころと顔色を変えるのがおかしくて、火車切はついくすくすと肩を揺らして笑ってしまった。
     高く青い夏の空の下。薄らと汗を滲ませながらも赤い花束を大事そうに抱える横顔も、軽やかに笑う低い声も、綺麗な人。兄のように慕う大倶利伽羅に加えて憧れの人がまた一人増えたのだと、火車切は隣で心底幸せそうにアイスを吸い尽くす鶴丸を眺めながら、確かに感じていた。


     六年後、夏。高校生となった火車切は夏休み中のある日の夕暮れ時、多くの人々や車が行き交う駅前ロータリーにてボストンバッグと紙袋を抱えて立ち往生していた。
    「えっと……赤い車で、ナンバーが……赤い車、多い……」
     火車切が電車での長旅を終えて初めて訪れたのは様々な路線が乗り入れるターミナル駅だ。改札を出て目的の出口まで向かう間にも何度も道を間違えてしまったのだが、それを見越して待ち合わせの時間よりもかなり早く駅に着くようにしていたのでどうにか間に合った。今度はその約束の場所で、迷子になりそうになっているのだが。
     普段火車切が使う駅には改札も出口も一つしかないから、駅の中で迷うというのは新鮮で、戸惑いや不安はありつつもワクワクしてしまう気持ちもあった。まず、改札が多い。一つの路線の出入り口が、何故二つも三つも四つもあるのか。しかもようやく改札を出たと思ったら、今度は出口が多い。東口、西口、というのはまだわかる。ナントカというビルに直結したナントカ出口、というのは果たして本当に必要なのか。なんだかそのビルだけ、ずるいんじゃないかと思わなくもない。多分、そのために土地代やら何やらが高くなっているんだろうけれども。
     そして、当然人も多い。慣れない満員電車に乗っていた時から思っていたが、こんなにも多くの人が乗り降りしているにもかかわらず時間通りに動いている乗り物というのは、世界中どこを探しても他に見つからないのではないかと感動さえ覚える。一方で、仕事終わりと思わしきスーツ姿の人々や部活帰りの中高生が誰も何も、一言も喋らずに各々がスマートフォンを片手に持って画面を眺めている光景は、高校生になってやっと親の許可が出てスマートフォンを持たせてもらえた火車切には非常に異質なものに思えた。火車切も周囲に倣って新品同然のスマートフォンを取り出して画面を開いてみたけれど、見たい動画やウェブサイトがあるわけでもなかったので、とりあえず目的地までの行程を復習していた。おかげで乗り換えは間違えずに済んだ。
     そうして火車切はどうにかこうにか待ち合わせ場所に辿り着いた。約束までまだ少し時間があるけれど、カフェに入るほどでもなければ周囲を散策して戻って来られる自信もない。なので火車切は再びスマートフォンを開き、友人とのやり取りや、その後の親戚とのやり取りを見返して時間潰すことにした。
    ──かちゃってさ、夏休みオーキャンどっか行くの?
    ──オープンキャンパス? それ二年生が行くんじゃないの。
    ──一年生も行けるらしーよ。うちの兄貴たちがどっか行っとけって言ってて。めんどいけどまあ行かないよりは良いかな~って感じ。
    ──へぇ。俺も行ってみようかな。
     中学時代からの友人との、軽い調子のやりとり。これが最初のきっかけだった。志望校どころかそもそも大学に行きたいのかどうかさえ深く考えていなかった火車切だったが、かねてより尊敬している大倶利伽羅が大学も大学院も卒業して就職して現在も立派に働いているということを思い出して、とりあえず見学だけでもどこかに行くことを決めた。
     まだ自分は一年生で高校の勉強も始まったばかりなのだから、どうせ行くなら昔から少し興味のあった分野の学部のある大学の中で、最高峰のところを見てみよう。多分そのほうが格好いいし、広光兄さんもすごいなって言ってくれそう。持ち前の思い切りの良さで見学先を即決した火車切だったが、両親に相談したところで単純な問題が発覚した。その大学は遠方にあり、日帰りで見学するには少々厳しい距離で、宿泊するにも両親ともに仕事の都合で同行するのが難しかったのだ。
     どうしてもそこに行きたいというわけではないから、それならもう少し近くの大学を見てみよう。と、別の大学を調べ始めた火車切だったが、そこへ一つ画期的な提案をした者がいた。火車切の両親からいつの間にか相談を受けたらしい、親戚の広光兄さん。こと、大俱利伽羅広光だ。
    ──そこなら家から行ける。お前が嫌でなければ泊っても構わない。
     そして追加で一言。
    ──国永も会いたいと言っている。
     自室でメッセージに気付いた火車切は思わずスマートフォンをベッドの上に放り投げ、腕組みをしてうろうろと歩き回り、見間違いを疑いつつ恐る恐るもう一度スマートフォンを拾って画面を見て、ぴょこんと小さく飛び上がった。
    「広光兄さんと、鶴丸さんの家に、泊まる……?!」
     なんだそのご褒美、友人に今すぐ自慢したい。それより先に両親に報告しなければ。と、即座に動いた結果、火車切の大学見学は無事決まった。あれよあれよという間に大学への見学の申し込みも無事受理され、夏休みの部活動をこの期間だけ休むという事前報告も済んだ。その際、顧問の教員からそこに行くなら近くの博物館や美術館を見て来るのも良い経験になるだろうと勧められたのでそのことも両親や大倶利伽羅に相談すると、宿泊日数があっさりと一泊二日から二泊三日に伸びた。そうして火車切は夏休みを迎えて、大量の宿題を早めに終わらせるべく勉学に励み、中学から続けている美術部での活動にも精力的に参加しながら、来る遠出の日を心待ちにして過ごした。
     ところが、いざ荷造りを始めた数日前のこと。急遽大俱利伽羅に仕事の出張の予定が入り、火車切の滞在中は丸々不在になってしまうという連絡を受けた。親戚の当人が不在になるのであれば宿泊は取りやめた方が良いだろうかと考えもしたのだが、当の大倶利伽羅はどこ吹く風といった調子で「俺の部屋のベッドを使うと良い」とのことだったので、結局火車切は遠慮せず泊まることに決めた。大俱利伽羅に直接会えないのは寂しいが、部屋に入れてもらえるというのは嫌でないどころかご褒美でしかない。それに、鶴丸と二人になることに対する気まずさもあまり感じなかった。
     年末年始にほとんど毎回顔を合わせる大倶利伽羅とは違い、火車切が鶴丸と会う機会はそれほど多くない。最後に会ったのは一年前、大倶利伽羅が社会人のオーケストラでまたコンサートマスターを担った際に聴きに行った演奏会で顔を合わせた時で、それ以前に会った回数を数えても片手の指でおさまってしまう程度。けれど火車切は不思議と最初から、鶴丸に対してどこか信頼感を抱いていた。きっと、火車切が誰より尊敬する大倶利伽羅を鶴丸もまたとても大切に想っているのだと、初対面時に隠さず臆さず素直に打ち明けてくれたことが、子供心に嬉しかったのだと思う。
    「鶴丸さん、会うの久しぶりだなぁ……」
     相変わらず、綺麗なんだろうなぁ。もしかして、鶴と名前がつく人はには綺麗な人が多いのだろうか。鶴が綺麗な鳥だからかな。通行の邪魔にならないように建物の壁際に立って、ボストンバッグを足元に置いたまま、ぼんやりと考え込む。昨年会った鶴丸と中学からの友人の姫鶴を交互に思い浮かべて首を傾げていた火車切は、ふと目の前に赤いセダンが停まったことに気付いてその窓に注意を向けた。開いた窓の向こうの運転席からこちらにひらひらと手を振るのは見知った白い男性、鶴丸国永だ。影になっていてはっきりとは見えないが、間違いない。発光しているのかと疑いそうになるほど眩い存在感を放つ白い美丈夫は、きっとこの世の中にそう多くは存在しない。
     地面に置いていたボストンバッグを抱え上げた火車切が小走りになって車に近づくと、鶴丸は片手で後部座席を指し示して乗車を促した。改めて車内を覗き込むとシートは黒い革張りで高級感があり、開いた窓からかすかに聞こえるのもクラシック音楽で格式高い感じがする。火車切は自分の家の車とはまた違う雰囲気に少し緊張しながら遠慮がちにドアを開いて荷物を載せて、その隣に座ってドアを閉めた。その間、鶴丸は火車切に上機嫌に話しかけた。
    「火車坊、久しぶりだな! いやぁ、会えて嬉しいぜ。ここまで遠かっただろう、一人でよく来たなぁ。夏休みとはいえこの時間じゃ結構混んでたんじゃないか? 疲れてないか? 一応冷房は入れてるが、暑かったり寒かったりしたら調節するから遠慮せず言ってくれ」
    「あっ、あの、鶴丸さん、お久しぶりです。今日からよろしくお願いします」
    「おう、こちらこそよろしくな。さて、まずは帰って晩飯だ。今日は鶴さん特製冷やし中華だぜ。まあ、俺は伽羅坊みたいに料理が上手いわけじゃないから、スーパーで買った麺とタレをありがたく使わせてもらうんだけどな〜」
     鶴丸は火車切がシートベルトを着用したことを確認してからハザードランプを消灯し、緩やかにアクセルを踏み込んだ。滑らかに発進した車はロータリーを出て、車線の多い広い道路に入る。そのまま家に着くまで、火車切はひたすら窓の外の景色を夢中になって眺めた。車両の多い電車も巨大な駅も新鮮だったが、ビルやマンションなど背の高い建物が所狭しと並ぶ中に申し訳程度に街路樹が植わっている光景もあまり見慣れないもので、その割に空はそこまで狭く感じないということが不思議だった。最初は火車切に何やら話しかけていた鶴丸だったが、信号待ちでちらりと火車切の横顔を振り返ってからは、ただ静かに微笑んでいた。


     鶴丸の住むマンションは、待ち合わせに使った駅で更に別の路線に乗り換えて数駅離れた場所を最寄り駅としていた。今日は鶴丸に外勤の予定があり、帰る途中で件のターミナル駅に寄って火車切と合流するという算段だったそうだ。火車切としてもあの巨大な駅の中で時間通りに乗り換えることができる自信はなかったので、鶴丸の提案は渡りに船だった。
     なんとなく微かに良い香りがする車内から、窓の外の景色を凝視すること十数分。到着したマンションのエントランスホールにはポストだけでなく宅配用のロッカーも並んでいた。見慣れない光景にまたも目移りしている火車切を気遣ってか、鶴丸は車の鍵を指に引っかけてくるくると回しながらのんびりと歩いていた。やがて鶴丸を待たせていることに気付いた火車切は早歩きになって鶴丸の後ろにぴたりとくっつき、そのままエレベーターに乗り込んだ。
    「さあ、着いたぜ。俺と伽羅坊の家にようこそ」
    「お、お邪魔します……!」
     招き入れられた部屋は広々とした2LDKで、玄関からリビングに入ると華美でない落ち着いた雰囲気の内装だった。壁紙は清潔感と温かみのあるアイボリーで、床はベージュのフローリング。照明はセンサーが機能しているのか、入室と同時に自然と明るくなった。目を引くのは壁に設置された薄型テレビとその正面の大きなソファー。曰く、背面を倒すとソファーベッドとして機能するから友人が泊まりに来た際はそこに寝てもらうのだそうだ。
     火車切がリビングの入り口で棒立ちになって室内をまじまじと眺めている間にも、鶴丸は早速キッチンに入って冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出し、木製のダイニングテーブルの天板にてきぱきとグラスを二つ並べていた。
    「いやぁ、暑いな。とりあえず熱中症になる前に水分補給だ。冷房もガンガンにつけるから寒くなったら言えよ?」
    「わかりました……あ、そうだ。両親から、お土産です」
     肩から下げたままになっていたボストンバッグとは別に、旅の道中を共にした紙袋。中身は両親に持たされた地元の銘菓だ。袋ごとおずおずと差し出すと、先に麦茶を飲んでいた鶴丸は目を瞠ってグラスをテーブルに置き、両手でしっかりと受け取ってぺこりと頭を下げた。
    「おぉ、ご丁寧に。ありがたく頂戴するよ。伽羅坊が留守になっちまってきみとしちゃ寂しいだろうが、代わりに俺がたんともてなす心積もりだ。短い間ではあるが、遠慮せず存分にくつろいでくれ」
    「ありがとうございます。よろしくお願いします」
     紙袋を片手に持ち替えた鶴丸が、ひょいと右手を差し出した。その白く骨ばった指や桜色の丸い爪を暫し見つめていた火車切だったが、鶴丸が怪訝そうに首を傾げたことで握手を求められていることに気付き、慌てて右手を出して握り返した。
     暑い部屋にいるにもかかわらず鶴丸の手はひんやりと冷たい。冷たい麦茶のグラスを触っていたからか、あるいはもともと体温が低いのか。火車切がなかなか温まらない鶴丸の右手を握ったまま呆然としていると、鶴丸はやがてくすくすと笑い出し、空いている左手で火車切の頭をぽんぽんと軽く撫でた。反射的に顔を上げると、ちょうど窓のカーテンの隙間から入った夕陽の橙色の光が鶴丸の前髪や睫毛をきらきらと照らしていた。黄金色の虹彩が眩し気に細められて、薄い唇が緩やかな弧を描く。頭を撫でて笑った、言葉にしてしまえばたったそれだけなのに、そこにはまるで映画やドラマの一場面を切り取ったような濃厚な時間の流れがあった。
    「ふふ。きみ、大きくなったよなぁ。もう高校生だもんな」
    「……どうも」
    「おう。それで、まずは伽羅坊の部屋にきみの荷物を置きに行くのが良いんじゃないかと思うんだが、どうする? このまま手を繋いで行くかい?」
    「えっ」
     彫刻のような耽美さから一変、きょとんと小首を傾げた鶴丸からの提案に、火車切は目を丸くしてはじかれたように右手を離した。
    「あっ、えっと、すみません」
    「あははっ、悪い! 冗談だ。俺が初めて会った時の伽羅坊が高校一年生で、ちょうど今のきみと同じ歳だろう? 顔立ちから雰囲気からあまりに似てるもんで、つい懐かしくなっちまってなぁ。伽羅坊と初めて握手した時の反応、今のきみとそっくりだったぜ!」
    「わわ……」
     鶴丸は火車切の頭を左手でわしゃわしゃと撫でながら、肩を揺らしてケラケラと笑った。その拍子に火車切の頭が軽く揺さぶられて、視界がぐらぐらと左右にぶれる。そんな中で耳に届いたある言葉が、どこか上の空になっていた火車切の意識を現実に引き戻した。
    「……俺、広光兄さんに似てる?」
    「ああ、そっくりだ」
    「ふぅん、そっか……へぇ……」
    「ふむ……きみのほうがもう少し可愛げがあるかもしれないな!」
     憧れの人に似ていると言われて、嬉しくないはずがない。火車切は鶴丸が無遠慮に撫でてくる手を好き勝手にさせたまま、ふにゃふにゃと頬の力を緩めた。


     宣言された通り、夕食は冷やし中華だった。食べ盛りだろうからと多めに盛られた麺の上に、トマトやきゅうり、錦糸卵といった定番のものの他、蒸し鶏にわかめにもやしにクラゲなどがの具材が山盛りになっていた。そこに冷たいものだけでは腹を冷やすからと用意された中華風の卵スープが加わり、更にデザートには杏仁豆腐。曰く、以前大倶利伽羅が土産に買ってきたものが美味しかったので同じ店のものを取り寄せておいたとのこと。
     大倶利伽羅が土産に菓子を買う姿を、火車切は最初あまりうまく想像できなかった。親戚の集まりでも大倶利伽羅が菓子類をつまんでいた印象はなく、むしろ「お前が食え」と火車切に横流しして彼自身は静かに茶を飲んでいることが多かった。けれど、杏仁豆腐をスプーンで少しずつ掬い取ってはぱくぱくと口に運ぶ鶴丸を目の前にして、あっさりと納得できた。初対面時にアイスを食べていた時からそうだったのだが、鶴丸はいつも、心底幸せそうに甘味を堪能するのだ。鶴丸はこれまで火車切と会う度にジュースや菓子類を奢っていたのだが、それはもしかすると一緒に食べるという口実を上手く作れるからだったのかもしれない。
     食べ終わってから、火車切が先に入浴を済ませた。鶴丸は「長旅で疲れただろうから」と湯舟を張った上で、入浴剤まで「好きなのがあったら使ってくれ」と火車切に選ばせた。夏場はシャワー浴だけで済ませることも多い火車切だったが、普段自宅で使うことのない個包装の色とりどりのパッケージを見せられて興味が沸き、おずおずとレモンの香りと書かれたものを選んで使うことにした。
     甘酸っぱい爽やかな香りに癒されて汗を流して涼しいリビングに戻り、入れ替わりに鶴丸が入浴する。その間にテレビを見ていてもいいし宿題をしてもいいし、好きに過ごしてくれと言われた火車切がとりあえずソファーに座ると、目の前のテーブルの上に先ほどまで見かけなかったプラスチックのケースがいくつか並んでいることに気付いた。見たところそれらはブルーレイディスクであり、手に取ってタイトルを見ると、定期演奏会と書かれている。
    「……えっ、これ、まさか」
     並んでいたディスクはどれも演奏会の記録映像で、高校名が書かれているものと大学名が書かれているものがあった。ソファーから飛び上がって振り返った火車切を見て、鶴丸は悪戯が成功した子供のように歯を見せて満足げに笑った。
    「はははっ、驚いたかい? せっかくだからな、伽羅坊の雄姿を見てやってくれ! もちろん本人の許可もとってある」
    「わぁ、嘘、全部見ていいの?!」
    「いやぁ、一曲が長いから全部は無理だと思うぜ」
    「あ、そっか……」
     言われてみれば、クラシック音楽で、更にオーケストラが演奏会で披露する曲となると、ポップスの曲とは異なり長い曲が多くなる。火車切は僅かに肩を落としつつ、テーブルに広げたパッケージを一枚ずつまじまじと眺めた。ジャケットには当時の演奏会ポスターのデザインがそのまま使われているため曲名や作曲者の名前も大きく書かれているのだが、クラシック音楽に疎い火車切がその情報だけでこれぞというものを選ぶのは難しかった。
    「あの、鶴丸さんのおすすめってありますか」
    「う~ん、おすすめねぇ……伽羅坊がコンマスやってる曲が入ってるものだけ選んだが、こうして見ると結構多いな……まあでも、やっぱりブラ1かな。伽羅坊が二年生のときのやつだ」
     背を屈めてソファーの背面から身を乗り出した鶴丸が、ひょいと腕を伸ばして一枚のディスクを指さした。大学名の上に春季定期演奏会と書かれているそれを火車切が拾い上げると、鶴丸はいっそう優し気な声音で語った。
    「二楽章に、コンマスのソロがあってな。俺も生で聴いたんだが、あんまり綺麗なもんで、本気でボロ泣きしちまったんだよなぁ。演奏中は静かにしてなきゃならんのにしばらく涙も鼻水も止まらなくて、大変だったぜ」
    「へぇ……じゃあ、これにします」
    「ああ、ぜひ見てくれ。後から聞いたんだが伽羅坊のやつ、俺が弾いたのと同じのを弾きたいからって、部員説得して無理矢理その曲をプログラムにねじ込んだんだとさ。ほんと、可愛いやつだよ」
    「……えっ?」
    「夜だから音量には気を付けろよ? じゃ、俺は風呂入ってくるから、ごゆっくり」
    「あ、はい」
     なんだか、特大の情報爆弾を落とされたような。俺が弾いた、とは。説得してねじ込んだ、とは。詳しい話を聞きたくなってしまった火車切だったが、再度振り返る頃には鶴丸はリビングを出てしまっていたので、ひとまず粛々と動画を見ることにした。
     大倶利伽羅の活躍をできるだけ多く目に納めたいから、申し訳ないけれど最初の二曲は飛ばして「ブラ1」という曲だけ再生する。映像は楽団員の入場から始まるから、全員が着席した後にコンサートマスターの大倶利伽羅が楽器を携えて一人で堂々と入場する歩き姿も当然収録されていた。火車切は肝心の演奏が始まる前からすっかり画面に釘付けになって、実際の演奏会に足を運んだときと同じように自然と姿勢を正していた。
     どこか聞き覚えのあるような、ないような、ブラームスという人が作った長い曲。一音目からいきなり大勢で大きな音を鳴らすものだからぴくりと肩を揺らして驚いてしまったが、曲調が少し変わる頃には耳が慣れて、落ち着いて聴けるようになった。小気味好いテンポで進んでいく曲の中、大倶利伽羅が他の楽器の奏者達と目を合わせて弾いている様子が時折カメラに抜かれる。真剣そのものの張りつめた表情は凛々しく格好良くて、映る度に火車切はどきりと胸を高鳴らせてしまう。それだけでなくごくたまにふわりと口元が緩んだように見える時があって、その顔つきや弾き姿を見るだけで大倶利伽羅がどれだけ音楽を楽しみ、愛しているのかが画面越しにもはっきりと伝わってきた。そして、待ち望んだ二楽章が始まる。
     泣いてしまったと鶴丸が語るソロというのは、どんな演奏だったのか。大倶利伽羅が周囲を説得してまで弾きたかったのは、どんな曲なのか。膝の上で無意識に拳を握り、固唾をのんで見守っていた火車切は、当該箇所に差し掛かった瞬間に全身の余分な力がすんなりと抜けていくことに気付いた。顔は火照り、どきどきと鳴る鼓動はうるさいくらいなのに、集中力は不思議と高まっていて、演奏以外の音や景色が意識からいつの間にか消えていた。穏やかで優し気な表情で、力強い響きのある音を奏でる大倶利伽羅。観客だけでなく奏者も含めて、その場にいた誰もがその音に集中していたのだろうということが、すぐに理解できた。
     火車切はクラシック音楽にも楽器にも詳しくないし、学校の授業以外の音楽経験もないけれど、演奏を聴いて泣いてしまうというのがどんな心境なのか、少しだけ理解できたような気がした。それだけ大倶利伽羅の奏でる音は美しく、包み込まれるような温かさがあった。


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    mito_0504

    PROGRESS三月の新刊その2 忘れ草が書き終わらないので代わりに間に合えばこれを出します ババンババンバンバンパイアのパロディです ついにやりました タイトルは書き終わったら考えます 今日書いた部分なので推敲前ですがサンプルとして一度のせてみます
    タイトル未定吸血鬼パロ()くりつる よっ。俺は鶴丸国永。平安生まれの吸血鬼だ。と言っても、青い彼岸花を躍起になって探したりそのために不同意で仲間を増やしたりすることはない、安全な吸血鬼だ。年齢は永遠の二十九歳ということにしている。実年齢が自分ではわからないので相談したらそういうことにしておけと言われたのでそうした。わからないというのはどういうことかというと、俺は自分がいつどうやって生まれたのか自分ではあまりよくわかっていない、ということだ。
     こんなことを言っても信じてもらえないだろうが、俺は長生きの吸血鬼なので、日本史でいうところの平安時代からの記憶がある。流石にそこまで遡ると昔すぎておぼろげだが、現役で活躍していた鎌倉時代以降の記憶ならわりとちゃんと残っている。これがまた波瀾万丈な人生だった。安達という家に仕えていたらもっと偉い人から謀反の疑いをかけられて一家全員皆殺しにされてしまったし、俺も殺されるもんだと思っていたら美人すぎるからという理由で捕まって北条という家に仕えることになったし、その後何故か神社に放り込まれてしばらくして、今度は伊達の家、そして皇室。俺が美人すぎるばかりに色々なところに引っ張りだこだったというわけだ。
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    mito_0504

    PROGRESSセンチネルバース第三話 進捗報告 後半も書き終わったらまとめて推敲してぴくしぶにあげます
    忘れ草③進捗 耳を劈く蝉の鳴き声、じめじめと肌に纏わりつく湿気、じりじりと肌を焼く灼熱の陽射し。本丸の景色は春から梅雨、そして夏に切り替わり、咲いていたはずの菜の花や桜は気付けば朝顔に取って代わられていた。
     ここは戦場ではなく畑だから、飛沫をあげるのは血ではなく汗と水。実り色付くのはナス、キュウリ、トマトといった旬の野菜たち。それらの世話をして収穫するのが畑当番の仕事であり、土から面倒を見る分、他の当番仕事と同等かそれ以上の体力を要求される。
    「みんな、良く育っているね……うん、良い色だ。食べちゃいたいくらいだよ」
    「いや、実際食べるだろう……」
     野菜に対して艶やかな声で話しかけながら次々と収穫を進めているのは本日の畑当番の一人目、燭台切光忠。ぼそぼそと小声で合いの手を入れる二人目は、青白い顔で両耳を塞ぎ、土の上にしゃがみ込んでいる鶴丸国永だ。大きな麦わら帽子に白い着物で暑さ対策は万全、だったはずの鶴丸だが仕事を開始してからの数分間でしゃがんで以来立ち上がれなくなり、そのまますっかり動かなくなっていた。燭台切が水分補給を定期的に促していたが、それでも夏の熱気には抗えなかったようだ。
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    ゆき📚

    DONE【sngk】【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅷ
    今回で一応最終回という風になっております。
    決めたら早いよ会社員、純粋猪突だ大学生、なんやかんやはなんやかんやです!な感じなっています。
    こんなに続くと思って無かったし書いている間に本編はえらい事になってて、いやはや…
    相変わらず諸々雑な感じですが
    大丈夫、どんなものでもどんとこい!な方よかったら読んでやってください
    【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅷ 「約束です。どんな形でもいいから守ってくださいね」
     そう言って笑ったあいつは結局俺を置いていった。
     初めからわかっていた結末なのに変わる事無く迎えたその事実に心はひどく冷え込んだ。
     みんなそうだと思って
     その考えは違うとすぐに否定し
     誰を責めればいいと思って
     誰を責める事などできない事だと言い聞かす。
     「約束ですよ」
     どうして俺を置いていく、置いて行かないでくれ
     
     *******
     
     「あれ?リヴァイさん?」
     自分の名前を呼ぶ声に顔を横に向ければ見慣れた人物と目が合って「やっぱりリヴァイさんだ」と改めて確認すると笑顔を向けてきた。
     「おぉペトラじゃないか」
     「どうしたんですか?あ、待ち合わせですか?」
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