陥穽虫 事務所の壁に、穴が空いた。
ある日突然空いていたものだから、どうせドラルクが何かやらかしたのだろうと思って、遠慮なく殺してやった。
ところがやつは、何度殺しても、そんなものは知らないと言い張る。いつものふざけた態度でもなかったから、本当なのかもしれないと思って拳を止めると、ナスナスと復活してきたドラルクが、不思議そうに言った。
「で、その穴はどこにあるんだい?」
床下からヒナイチを呼び出して尋ねても、同じ答えが返ってきた。それで、これは俺にしか見えてないんだと分かった。
穴は、小さくはなかった。穴というより、割れ目とか裂け目とか表現するほうが近いかもしれない。歪な形をした穴は、俺の手のひらよりちょっと大きいほどのサイズだった。それが、事務所の入り口側の壁、メビヤツがいる側と出入り口を挟んで、反対側に空いている。高さは、俺の肩あたりだ。わりに派手な大きさだから、外の廊下にまで貫通しているのではないかと確かめたが、廊下側の壁はきれいなものだった。それほど深いはずがない穴には、闇が詰まっていて、底も向こう側も見えなかった。
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