カブトムシを獲りに「友達とカブトムシ獲りに行く約束をしてて」
市河の言葉に貞宗は目を見開いて驚いた。市河は微かに罪悪感を覚えながら椅子から立ち上がる。雨はさらに強くなって二人を濡らした。
「だから、帰っていいですか?」
市河は顔に垂れた雫を拭う。貞宗の顔をまともに見れなかった。それでも貞宗が狼狽えているのがわかる。
「な、何を言っておるのだ市河殿!今は戦の最中ぞ!」
「でも友達との約束も大事じゃないですか?明後日の早朝にって約束なんですよ」
市河は視線を足元のぬかるみに落とす。こんな具合では坂を駆け上って攻撃なんて出来るはずがない。兵たちも二月に及ぶ戦で疲れが見え始めていた。このまま攻め続けて勝てるとは思えなかった。
すると貞宗が市河の腕を掴んだ。貞宗と目が合ってしまい、市河は唇を噛み締める。
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