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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    しゃけのざ。現パロのコXダパロ。しゃけのざが別れて、👃👂になって、👃👂が別れたところ

    #しゃけのざ

    チェーン店で朝食を 街ですれ違う人の中にあの人を探した。けれど助房の耳には見知らぬ声ばかりが届く。
     十二月の街はクリスマスに彩られていた。助房は賑やかさと慌ただしさを感じるこの時期が嫌いではなかったが、今は自分がそこに馴染んでいないように思えた。幸せそうな笑い声が耳をかすめるたび、胸の奥が音を立てて痛む。
     ポケットが震えた。スマートフォンを取り出してみれば、メッセージアプリの通知が、今朝別れを告げた恋人からのメッセージを知らせていた。落ち着いて話し合おうという短い文面を見つめる。そこに焦りを見せない恋人の慣れた雰囲気に、今は悲しさばかりが募った。
     助房は既読につけずにスマートフォンをポケットに戻した。恋人に申し訳ないと思いながら、溜め息が白くなって消えていくのを見ていた。
     助房は街の喧騒に背を押されるように歩きながら、自分の心が宙ぶらりんだと感じていた。あの夏に貞宗と別れてから、新しい恋人と穏やかな時間を過ごした。だが、その恋人の優しさや温かさに幸せを感じながらも、いつも心のどこかで貞宗を探していた。貞宗の少しの所作が、足りなかった一言が、ずっと助房の心に残り続けている。その存在は離れていても大きさを増すばかりだった。
     助房は寒風の中で身を丸めた。恋人と別れたからといって、貞宗との関係が戻るわけではない。それでも貞宗を忘れられないまま他の人と時間を重ねるのは不誠実だと思えた。きっと誰も幸せにならない。助房は身を丸めたまま自嘲気味に笑う。ひとりで生きる強さを思い出さなくてはならないのに、かつて貞宗に寄り添っていた頃よりも、自分が弱くなっているように思えた。
     どこからかクリスマスソングが流れてくる。助房の頬に温かい滴が流れた。何に対して悲しいのかわからない。貞宗を忘れられないことか、恋人が優しすぎることか、どちらも愛しきれない自分の半端さなのか。その全てのような気もした。一度溢れた涙は次々と流れ出す。いい歳をした大人が泣きながら歩いていても、この街は見ないふりをしてくれた。
     すると、突然に腕を掴まれた。目に飛び込んできたのは焦った顔の貞宗で、そのこぼれ落ちそうなほど見開いた目に、泣きべそをかいた自分の顔が映っていた。
    「え」
     なんでいるの、と声が出なかった。貞宗も肩で息をしながら言葉を詰まらせている。最後に会ったのは夏で、まだ半年も経っていないのに随分と会っていないような気がした。
     貞宗は首に巻いたマフラーを緩めた。そしてあたりを見渡すと、助房の腕を引いて歩き出した。
    「ちょっと」
     貞宗はそばにあったコーヒーショップに入った。それは助房と貞宗が付き合っていた頃によく行っていたチェーン店で、すぐに店員の声に迎えられる。
     助房は連れられるままに席についた。店内の暖かい空気が耳をじんと痒くさせる。いつの間にか涙は止まっていたが、そうすると急に気恥ずかしさが込み上げてきた。助房はテーブルを見つめて顔が上げられなくなる。
     気付けば貞宗が店員に注文を済ませていた。店内はそれなりに埋まっているらしく、話し声があちこちから聞こえてきた。
    「助房」
     貞宗の声に肩が跳ねる。恐る恐る顔を上げると貞宗と目が合った。
    「何かあったのか……その、仕事とか……恋人と」
     歯切れの悪い言葉は貞宗らしくなかった。泣いている助房を見つけて追いかけてきたのに、うまい言葉のひとつ出てこない。わかっている。それが助房が愛した貞宗の姿だった。
    「別れたんです。あの人と」
     助房の言葉に貞宗はまた驚いて、その視線を彷徨わせた。
    「そ……うなのか」
     二人の間に沈黙が落ちる。するとコーヒーが運ばれてきた。目の前に置かれたのは見慣れたカップで、いつも助房が頼んでいたものだった。たっぷり甘いカフェオレが特別に好きだったわけではないけど、ただいつも同じものを飲んでいた。貞宗がまだそれを覚えていたかと思うと、引っ込んだはずの涙が視界を歪めた。
    「助房、腹に温かいものを入れたほうがいい」
     貞宗の言葉に頷いてカップを手にする。冷えていた指先の鈍った感覚が熱を感じた。しかしそれを口まで運ばずにソーサーへと戻す。
    「貞宗さん」
     今さら貞宗にあなたを忘れられなかったとは言えない。自分がどれほど身勝手なことをしたかわかっている。ただ、どうしても伝えておきたかった。
    「俺、貞宗さんのこと本当に大好きでした。ちゃんとお礼もせずに別れちゃったから、いつか言おうと思ってたんです」
     貞宗の顔は見れなかった。見たら絶対に甘えてしまう。助房は貞宗が何か言う前に立ち上がった。
    「ありがとうございました。落ち着いたので、俺はこれで」
     手を伸ばしてから伝票が無いと気付く。貞宗の前にもコーヒーは置かれていた。店員が置き忘れたのかと思っていると、貞宗が真っ直ぐにこちらを見ていることに気付いた。
     店内の喧騒が遠のく。助房は貞宗の視線に射すくめられた。この目で見られるのが大好きで、ただ自分だけを見ていて欲しかった。言えなかった言葉は今も胸を重くする。すると貞宗が口を開いた。
    「儂は今でも助房のことが」
     その言葉と同時に店員が横に立った。助房が固まっていると、机にデザートが置かれる。大きなデニッシュパンの上にソフトクリームが乗せられた、この店の看板スイーツだった。
    「全てお揃いでしょうか」
    「ああ。ありがとう」
     貞宗が答えると店員が伝票を置いていく。貞宗は取り皿を助房の前に置くと、切り分けられているデニッシュパンを一切れ皿に移した。
    「この味は期間限定らしいぞ」
    「それより、さっき言いかけたこと」
     貞宗はソフトクリームもスプーンですくって、取り分けたものに乗せた。その上から添えられたシロップをかけていく。
    「いや、やはりやめておこう。いつまでも未練たらしくてすまん。お前が泣いているのを見てつい声をかけてしまった。せっかくだからこれは食べていけ。儂が出ていく」
     そう言って今度は貞宗が席を立った。伝票を掴む手を助房が止める。貞宗は立ち止まったが、助房からは目を逸らせていた。
    「待ってよ。こんなに大きいの、一人で食べられない」
     助房は自分の声が震えているのがわかった。情けないほどに心が掻き乱されている。こんなふうに縋ることなんて、今まではプライドが許さなかった。だが今はそんなことよりも、言いたいことも言わずに去ろうとする貞宗を引き止めたかった。
    「二人で食べようよ。いつもそうしてたでしょ」
     決まりごとのように二人でこのデザートを食べていた。いつもきれいに半分に分けて、仕上げのように貞宗がシロップをかける。そんな素朴な時間を愛していたはずだった。
     貞宗は助房を見るとゆっくりと席についた。ぎこちない笑みを浮かべて、貞宗は自分の皿にもデザートを移す。温かいデニッシュパンの上でソフトクリームは溶けはじめていた。
    「俺、貞宗さんに言いたかったこと、山ほどあるんです」
     本当はもっと早く言うべきだった。二人の関係を傷つけたくなくて、押し込めてきた言葉たち。正直な気持ちを言葉にする恥ずかしさや不安を飲み込んで、声に出して伝えたかった。
    「儂も助房に言わねばならんことがあったな」
     貞宗はフォークで切り分けたものを口へと運ぶ。その大きな一口になぜか救われた。助房も誘われるように口にする。甘いデニッシュパンにかつて二人で過ごした静かな時間がよみがえるようだった。温かいパンの上で溶けていくソフトクリームは、二人で過ごす時間の儚さを思わせるが、それでも二人で食べれば、ただ穏やかさだけが舌に残った。
     デザートはまだ沢山残っている。溶けたアイスがデニッシュパンに滲んで甘く香った。飲み込んだ甘さに誘われて、まだ諦めたくない二人の未来について、話してみようかと思う。ほんの少しの勇気で世界は変えられるはずだ。その格好悪さまで愛してくれる人と一緒なら。
     
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