Sometimes like this週末はいつものようにお互いの家から真ん中辺りのターミナル駅でいつもの時間に待ち合わせ。
そういえば昔も休日はこっそりと約束をして待ち合わせをするのが楽しみだった記憶がある。
時間より早めに着く様にしているはずなのに、いつもそれよりも早くに待ち合わせ場所に見つける青色。
でもそれが今日は少し元気が無いような気がする。
「おはようヘクター!...なんか疲れてる?」
「おはようございます、今日も暑いですね...」
傭兵時代のヘクターは疲れをほとんど見せなかったが現代の気候には勝てないようで素直に表してくれることも多い。夏生まれなので暑いのは比較的大丈夫なはずなのに!と言っていたが今の自分達が小さい頃と比べても全く違うと思う。
昔のアバロンも比較的温暖な地域だったのでジェラールも暑さには慣れているつもりだがあの頃とは世界の環境がガラリと変わってしまっているのだろう。
夏はなるべく薄着を選びたくなるが、ヘクターからの意見もあって日焼け防止でベージュの薄い色合いの薄手のアウターを羽織ってみたりしている。
似合ってます可愛い、と嬉しそうに笑うヘクターが見られるのでジェラールのお気に入りだ。
「実はアパートのエアコンが昨日突然壊れて...据付のやつなんで大家に相談はしたものの修理できるのが1週間後っていうので...。」
この暑さでエアコン無しは厳しいだろう、昨日壊れたということは夜は果たして眠れたのだろうか。
「もしかしてほとんど眠れていない?」
御明答とばかりにヘクターは肩を大袈裟に竦める。それは疲れていて当然だ。
炎天下を歩かせるよりも休んで欲しい。出来れば横になっても大丈夫な場所で...。
と、思考した結果良い事が閃いたとジェラールの髪の毛がぴょんと跳ねるのに驚くヘクター。
「ど、うしました?」
「これから家においでよ、疲れてるのに君を連れ回すなんて出来ない。
なんなら修理の目処が立つまで家に泊まればいい。父上と兄さんにも事情を説明すれば問題ないよ。」
え?いやでも?と焦るヘクターを後目にSNSの家族のグループにその旨の相談の内容を打ち込むと2人からは即了承の返事が貰えた。
「ほら、父上も兄さんも大丈夫だって。客間もあるし綺麗に整えてあるから。
仕事行くにもそんなに支障ないよね?あ、自宅戻って荷物取りに行こうか。世話してもらってる子達も物によっては一旦家に...。」
ジェラールが矢継ぎ早に伝えているうちに呆然とするヘクターに気が付いて先走ったと今更気が付いた。
恋人とはいえお節介が過ぎたかもしれない、でもヘクターが調子を崩すなんて事を放置も出来なかった。
ジェラールはしおしおと意気消沈してその場に座り込む。
「ごめん...自分勝手に進め過ぎてるね...君の都合も考えずに。」
「そんな事ないです、オレの事を一番に考えてくれたってコトでしょ?
貴方の一番って感じられるだけでオレは嬉しいです。」
ヘクターはジェラールの位置まで膝を落とし髪を撫でてくれる。
こういう所が年上で大人で勝てないけど嬉しくて甘えてしまう。相変わらず4歳の差は大きいと感じる。
「じゃあ手間かけますけどウチまで付き合って貰って良いですか?
足りない物は後で買い足すにしても仕事道具と服くらいは持ち出さないとなんで...。」
ヘクターに声をかけられ、握られた手を強く握り返して一緒に立ち上がる。
そうと決まれば昼の暑くなる前にはやる事を終えて避難しようとジェラールは心に決めるのだった。
久しぶりに訪れたジェラールの自宅は相変わらず圧巻の大きさだ。
前はヴィクトールと友人という事もあって頻繁に訪ねていたが今はたまに招かれる食事会程度。
ジェラールが成人し、恋人としての関係も一段のみならず上がった事もあって一定の線を引くようになった気はする。食事会の後にジェラールが泊まっていけばいいのに...としょぼんとする姿も何度か見ているが自分の中での譲れない思いがある。ただそれもあっという間に瓦解するという自覚もあるので今回のような事でも無ければ乗ることは無かっただろう。
「いつ泊まってくれてもいいように部屋は整えておいたんだ、クローゼットも中は空だから好きに使ってくれて構わないよ。」
多分この部屋だけでヘクターの部屋より一回り...二回りは広いのではないだろうか。
持参した荷物も部屋の端を占拠する程度でしかない。
1週間放置してはまずいと思われ持ってきたジェラールの家庭菜園?物はどうするかと悩んでいるとひょいとジェラールが顔を出してくる。
「それは私の部屋に連れてってもいいかな?他にもお世話している子がいるんだ。」
植物の世話に関してはジェラールにお任せするのがいいだろう。
それらをジェラールに手渡し自分は貴重品だけ持って一度退室する。
途中にあるジェラールの自室に置いてくると言うので扉の近くで待つことにした。
「君も入ってくればいいのに...。」
「それはやめときます。これからお世話になるんですし、父上兄上方を裏切りたくもないんで。」
「むぅ...君は昔からそういう所あるよね。」
「アンタと付き合うようになってから自分も知りました、意外と真面目だなって。」
ヘクターが混ぜ返すとジェラールは1度きょとんとした顔を見せてから笑いをこぼし始める。
「っはは...!確かに!和解した後の君の生真面目さにはちょっと驚いたね当時は。」
「意地悪な事返してきますね...。」
「相変わらずだなあ。そういう君も知る事が出来て嬉しかったよ、あの時。」
何十年どころか何千年を経ても昇華出来ないあの時の愚行を今でも救ってくれるのはこの人だけだ。
寝られていないのだから君はそこで休んでいてと言われてヘクターがソファでうとうととしていると食欲を誘う良い香りが漂ってきた。
「少しは休めた?お昼ご飯作ったから一緒に食べよう。」
キッチンの方からジェラールが顔を出す。手伝おうと思っていたのに不覚だった。
「すいません、落ち着いたらつい...。」
「元々ゆっくりして欲しいから誘ったのだから気にしないで。一緒に作るのも楽しいけど君が寛いでくれてる姿を見ながらも幸せなんだなと思えたよ。」
現世では基本一緒に料理はしているし、前世では皇帝であったジェラールがそんな事をさせられる訳が無い。たまに夜の読書中にお腹がすいたと言うのでヘクターが簡単に作った軽食を差し入れる事はあったがジェラールの手料理を食べられるのは転生してからの事だ。
元々器用な事もあってか手際は良いしもちろん美味しい。
ヘクターが仮眠を取っている最中に作ってくれていたパスタも適当に家にあったありあわせと言うには店で出てもおかしくない出来栄えだった。
多分ジェラールと一緒に食べている分の美味しさもあるんだろうなと自分で納得するくらいの柔軟さは今世で持ったなとヘクターは自覚している。
「そういえば今日はヴィクトール様達はいらっしゃらないんですか?」
午前中の確認の返事はSNSで飛ばされていたのを見せられたので事情は汲んでもらっているとは思うが、想い人と相手の自宅でずっと2人きりも流石に心苦しいところがある。
「兄上は夜には戻られるって。今はデートかな...。」
「え!?」
「いや、単純に友人と遊びにかもしれないけど突っ込んで聞けないよ...ヘクターは知ってる?」
以前はヴィクトールと連むことが多かったがジェラールが成長してからはもっぱら彼と一緒だ。
連絡を取り合うことはそれなりにあっても詳しくは知る由もない。
「そうだよね...でも兄さんが今を楽しんでいるならそれだけで嬉しいよね。」
自分達のその後の良好な関係も知らないまま身罷られたヴィクトールが今を生きているというだけで自分達にとっては僥倖でしかないのだから。