第14回 菅受けワンドロワンライ「とろける」夏が終わり涼しい秋へ、と思いきや異常気象により一気に真冬の寒さとなった。つい先日まで真夏日を観測していたのだ。当然寒さへの備えなどなく、寝具は夏使用のまま。どうにかこうにか引っ張り出した毛布のみが頼みの綱である。次の休日、防寒に向けて環境を整えようと及川と菅原は約束……したものの、それまでは寒いもんは寒い。ましてや菅原はバレーを辞めてから随分経ち、筋肉がないわけではないけれど現役の頃よりは確実に基礎体温が落ちている。そんなこんなでここ数日は及川にひっついて眠る。夏の間は暑いからくっつくなと及川を冷たくあしらっていたくせに、とんだ手のひら返しである。
とはいえ、及川とて満更でもなく、この状況を享受していた。腹に回る手、足は少しでも温度を得ようと及川の足に絡んでいる。背中側は見えないけれど、顔から腰まで沿うようにぴったりくっついているのがわかる。これでもまだ寒いのか、埋まるのではないかというくらいに擦り寄ってくるものだから、及川は一度菅原からの拘束をほどき、寝返りを打って菅原を腕の中に収めた。
「寒い?」
抱え込むようにした菅原のつむじに向かって問いかけると、聞き取れるかどうかのギリギリラインの小さな声で「寒い」と返ってくる。うなずいたのか、頭が揺れた拍子に髪の匂いが香る。菅原と及川はそれぞれ別のシャンプーを使っているものの、今日は及川のシャンプーの匂いがする。また勝手に使ったなと普段よりツヤのある髪をそろっと撫でた。
この様子だと、休日を待たずにさっさと羽毛布団を出したほうが良かったかもしれない。顔を上げないあたり本気で寒いんだろう。先ほど寝返りを打った時に布団の隙間からひんやりと空気が入ってきた。そのせいもあるかもしれない。悪手だったかとも考えたが、体格差を考えればたぶん前に抱えたほうが温まるはず。現に、胎児のように縮こまった菅原は及川の腕の内に、身体にすっぽり収まっている。
少しずつ少しずつ毛布のなかが温かさを取り戻して、だんだんとポカポカしてくる。及川としては暑いくらい。寒さでかちこちに縮こまっていた菅原も気がつけば弛緩していて、かすかに身体が伸びている。体温も背中にくっついていたときより、高くなったんじゃないだろうか。このまま眠れると良いなと及川がもう一度髪を撫でると、ゆっくりゆっくり菅原が顔を上げた。
「あったまってきたぁ」
「そりゃ良かった」
就寝前、なまっちろくなっていた顔はすっかり血色が良くなっている。眉はゆるく垂れ下がり、温まって眠気がきたのか目はとろけて焦点がちょっと怪しい。「そのまま早く寝ちゃいな」と言えば、「うん」気の抜けた声が返ってくる。それから、布団の間を滑ってのろのろと伸びてきた腕が及川の背中に回り、とろけた顔は及川の胸に埋まって見えなくなった。そんな菅原のすっかり預け切った様子に及川の頬も自然と緩む。だらしない顔をしているのがバレませんようにと及川も菅原のつむじに顔を埋め、そっと目を閉じた。