Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ako8beniiro

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    ako8beniiro

    ☆quiet follow

    大我×特待生
    夢なのかどうかわからない

    なんでも許せる方向け

    【東ディバ夢】縁切りの木【Ver.Taiga】【縁切りの木(Side Taiga】

     ロミオに呼び出され、シノストラで謎の長時間労働をさせられた散々な放課後。解放された頃にはすっかり陽も落ち、特待生は早足で寮に向かっていた。
     (この学校、夜は怖いんだよね…)
     人影はなく、動くものは揺れる木々と時折横切る猫の影だけだ。校舎はまだ電気がついているものの、建物の大きな窓から作り出される影がより一層夜の闇を深く感じさせていた。
     「はぁ、早く帰ろ……あれ?」
     ふと、視界の端に何か気になるものが写った気がして、特待生は足を止めた。
     (あの木、なんだろ…)
     切り揃えられた垣根の隙間から、太い枝が覗いていた。この向こうは中庭だが、手入れの行き届いた芝生と小さな池があるだけで、普段は猫たちのささやかな憩いの場となっている。
     特待生は何故かその木がたまらなく気になるものに感じられて、中庭に足を踏み入れた。
     (これって…)
     特待生の眼前に現れたのは、枝の太さに見合う大きな木だった。
     背丈はそれほどないものの、幹は太く、教師のモービーの胴ほどありそうだ。
     しかし、特待生の目を引いたのは、その木の大きさではなかった。
     枝葉に絡まる赤い糸、そしてその糸から垂れ下がる漆黒の鋏。
     明らかに異様な佇まいのその木に、特待生は噂好きの友人、魁斗の話を思い出していた。
     『俺もまだ見たことないんだけどさ、この学校に《縁切りの木》っていうのがあるらしいんだよね。その木にはハサミがぶら下がってて、そのハサミを使えば、どんなものでも切れるんだって。それこそ、誰かとの縁とか』
     俺だったらロミオさんとの縁を永遠に断ち切るね。人でごった返す昼の学食で、並んで座る席を探す間に魁斗がしてくれた、何気ない噂話。そのはずだった。
     (“なんでも”切れる…)
     ぶら下がった鋏が風に揺れる。刃の鈍い光に導かれるように木に近づいた。芝を踏むさくさくとした感触に、なんだか足がザワザワした。
     (呪いも、切れる…?)
     鋏に触れるとまるで人肌のように温かく、握り込めば長年使い慣れたそれのように、特待生の手にフィットした。
     しかし叡智の指輪が鋏に触れ、カツンと小さな音を立てた。
     (そうだ、切らなきゃ…)

     -まずは、邪魔な指を。

     右手の薬指の指輪がジリジリと熱を発していて、酷い嫌悪を抱く。この指輪が全ての元凶なのだと教えてくれるようだった。
     (この指輪さえなければ、危険な任務について行くこともなかった…)
     思い返せば、この指輪は特待生の意思を無視して体の一部を占拠しているのだ。何故、今の今まで呑気に“この指輪の力でみんなの役に立ちたい”などと思っていたのか、特待生にはてんで理解が出来なかった。
     外れないなら、指ごと切って仕舞えば良いのだ。指輪が外れなくとも、指の一本くらいこの《縁切りの木》の力があれば、造作もないはずなのだから。
     (切らなきゃ…早く、早く切らなきゃ…)
     左手でも鋏を握り直す。利き手ではないにも関わらず、不思議とピッタリとフィットし、動作に支障は無さそうだった。
     目に入る指輪の輝きが酷く不愉快だ。特待生は、一刻も早く取り去ってしまいたい衝動に駆られた。

     (切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ、切らなきゃ)

     特待生は衝動のままに、鋏の刃を指に沿わせた。

    -ガァン!!!

     不意に、強烈な破裂音が響き、特待生は思わず鋏を取り落とした。

     「へ〜ぇ、面白そうなことしてんじゃん」
     「………ほ、しばみせんぱい…?」
     
     振り向けば、そこには銃を構えた星喰大我が立っていた。
     大我は特待生の横を素通りすると、縁切りの木の幹を叩き、つまらなそうに鼻を鳴らす。硝煙の匂いが鼻をつく。彼の持つ銃の銃口からは細い煙が上がり、先ほどの破裂音の正体を物語っていた。
     「嗅ぎなれねぇ匂いがしたと思ったら、ただの木かよ」
     大我はすぐに特待生を振り返ると、宙に浮いていたその手を見下ろした。
     鋏を取り落とし、無防備になったその手を。
     「その指、いらねぇなら俺と遊ぼうぜ」
     「キャッ…!!」
     「ナイフゲームなんてどうだ? ちょっとぐらい手が滑ったっていいだろ? だっていらねぇんだもんな。俺様が退屈凌ぎに有効活用してやるよ。 ぎゃっははは!」
     やっぱ人生にはスリルが大事だよなぁ。酷薄そうな笑みを浮かべた大我が特待生の掌を掴む。そして抵抗する間も無く、指が開くような形で木の幹に押し付けられた。
     「な、ナイフゲームって…!?」
     「お前ナイフゲームも知らねぇの? 指の間にナイフ投げて、上手くいけば五体満足、失敗すりゃ…ん? 五体じゃねぇな…なんて言うんだ? ん〜、五本満足?」
     「ひっ…!」
     大我が首を傾げると、手を掴む力が僅かに弱まった。その隙を見逃さず、力一杯腕を引き抜く。
     「し、失礼します!!」
     あとは振り返らず、特待生は全速力で駆け出した。
     (星喰先輩なら本当にやりかねない…!!)
     利き手の指を失う自分を想像してゾッとした。この学園で学ぶことはまだまだあるし、日常生活はもちろん、ジャバウォックでせっかく懐いてくれた怪異動物たちを撫でてやることすら出来なくなるかもしれないのだ。
     「はぁ、はぁっ…はー…」
     無我夢中で走っていると、いつの間にか寮の前までやってきていた。
     (追いかけて来てない…よね?)
     大我の性格上すぐに忘れているだろうが、念の為そろそろと振り返り、耳を澄ます。
     -ダダダダダダッ、ダダダダダダッ!!
     「ひいっ!」
     直後、遠くで連続した破裂音。そして続いて地響きのような鈍い音。
     「なんの音だったんだろう…」
     破裂音は間違いなく大我の怪具であるマシンガンの発砲音だ。しかし、自分を追いかけて来た様子はない。
     (最後のあの音、まるで大木が倒れたような…)
     確かにこの学園は自然豊かだが、この寮までの道に大きな木などなかったはずだ。
     「…あれ? そういえば、私、なんで星喰先輩に追いかけられてたんだっけ…」
     大我に会った記憶はあるが、その前後の記憶が酷く曖昧であることに気づいた。無我夢中で走っているうちに、すっかり頭から抜け落ちてしまったらしい。
     「まぁいいか、星喰先輩なら明日には忘れてるだろうし」
     むしろ、十分後に会っても覚えてないかもしれない。
     そう思うと取り立てて大事なことでもない気がしてきて、特待生は寮へと戻ることにした。

    -この日以来、学園内で《縁切りの木》の怪異の目撃情報は、パッタリと途絶えた-
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works