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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんをお化け屋敷に連行しようとする話。

    ##TF主ルチ

    寄り道 カードショップの一角で足を止めると、僕はショーケースとにらめっこした。前後左右に視線を動かすと、中から目的のカードを探し当てる。イラストとカード名を確認すると、次に視線を向けるのは値札の価格だ。二つ並んだゼロの前に書かれた数字を見て、僕はがっくりと肩を落とす。
     やはり、発売されたばかりのパックの注目カードは、どうしても価格が上がってしまうようだ。これまでにも三軒回って同じカードを調べたけれど、全てが僕の予算を越えていた。もちろん、自分で引くことも視野に入れていたのだけれど、僕が買ったボックスからは出てくれなかったのだ。この入手難易度の高さも相まって、店頭では価格が跳ね上がっていた。
     とぼとぼと引き返す僕の姿を見ると、ルチアーノは呆れたようにため息をついた。さっきからショップ巡りに付き合わされているから、すっかり飽きてしまったようである。退屈そうに僕の隣へと歩み寄ると、ちらりと中身に視線を向ける。再び僕の姿を捉えると、面倒臭そうに口を開いた。
    「もう、気は済んだか?」
    「まだ、あともう一軒……」
     それでも諦めきれなくて、僕は小さな声で呟く。幸い、この辺りの大通りには、カードショップが山のようにあったのだ。諦めずに店舗を巡っていたら、そのうち目ぼしいものが見つかるかもしれない。そんな淡い期待を抱いた僕を、ルチアーノはあっさり切り捨てた。
    「まだ探すつもりなのかよ。生憎、これ以上探しても無駄だと思うぞ。君が探してるカードは、それくらいの価格が相場なんだから」
    「そうかもしれないけど……」
     反論の余地のない言葉を浴びせられて、僕は力なく返事をする。ここまで彼の機嫌を損ねてしまったら、これ以上付き合ってもらうことは難しそうだった。心残りではあるが、カードは次の機会に探しに行くしかない。我先にと店舗を出ていくルチアーノを追いかけて、僕も早足で先へと進んだ。
     狭くて古い階段を降りると、人通りの少ない通りへと出る。個人経営の小さなカードショップは、大通りから一本逸れた場所にあることが多かったのだ。それも、決まって小さなビルに入っていて、古い階段で登ることになる。ルチアーノは早足で進んでいくから、人とすれ違わないか心配だった。
     入り組んだ通りを抜けると、僕たちは大通りに合流する。道幅が倍ほどに広くなって、歩道にも人の気配が戻ってきた。同じ商店街の通りだというのに、メインストリートと横道は大違いだ。そんなことを考えながら歩いていると、不意にルチアーノが足を止めた。
    「なあ、あれを見ろよ」
    「どうしたの?」
     意外にも弾んだ声が飛んできて、僕は彼の方へと視線を向ける。少しだけこちらを振り返ると、彼は通りの先を指差した。誘導されるままに視線を向けてみるが、そこにはビル看板が並んでいるだけだ。彼の真意が掴めなくて、僕は首を傾げてしまう。
    「どこ? そこに何かあるの?」
     きょろきょろと視線を揺らしている僕を見て、ルチアーノは呆れたようにため息をついた。僕の視線の先を確かめると、投げやりな声で言葉を並べる。
    「ちゃんと見ろよ。そこの、ビルの看板だ。見れば分かるだろ」
    「看板? 別に、何もないけど…………あっ!」
     言われるがままに視線を向けて、僕はようやく彼の意図に気がつく。彼の指先が示す先には、真新しい看板が掲げられていたのだ。それも、いかにも彼が喜びそうな、刺激の強い施設の紹介である。彼が喜ぶということは、僕にとっては避けたいものだった。
    「もしかして、あれのこと?」
     恐る恐る確認すると、彼は嬉しそうに口角を上げる。僕の視線の先を確かめると、嬉々とした態度で歩き始めた。
    「ようやく分かったのか。ほら、行くぞ」
     立ち止まっている僕を置き去りにして、ルチアーノは早足で歩を進める。人混みの中に紛れそうになるその背中を、僕は慌てて追いかけた。前に進めば進むほどに、看板は僕たちの方に近づいてくる。赤地に黒で印刷された文字は、僕にとって恐ろしいものに違いなかった。
    「待ってよ。あれって、どう見てもお化け屋敷でしょう!」
     なんとか彼の動きを止めようと、僕は必死で声をかける。彼の示した看板に書かれていたのは、『お化け屋敷』の文字だったのだ。この前まではなかったところを見ると、つい最近できたばかりなのだろう。恐ろしさを強調するような看板の作りが、余計に危機感を感じさせた。
    「そうだよ。僕が行きたいんだ。もちろん、付き合ってくれるよな」
     しかし、僕の必死の抵抗も、ルチアーノには伝わらなかったようだ。振りきるように人混みの間を進みながら、楽しそうな声で言葉を続ける。止まってくれそうな気配がなかったから、僕には追いかけるしか手段がなかった。
    「嫌だよ。びっくり系は苦手だし、周りの人の迷惑になるから。ルチアーノ一人で行ってきて」
    「言っておくけど、君に拒否権なんてないんだぜ。散々僕を付き合わせたんだ。今度は、君が僕に付き合う番だろ」
     何度か言い争いを続けているうちに、僕たちは看板の前へと辿り着く。思ったとおり、その看板の立っている建物は、改装されたばかりのビルだった。どうやら、フロアをまるごと作り替えて、屋内型のお化け屋敷を作ったらしい。おどろおどろしいイラストの看板を見て、僕は胃がひっくり返りそうになった。
    「嫌だよ。いくらルチアーノのお願いでも、これだけは無理なんだって。一人で行ってきてよ」
     必死に抵抗するが、彼は聞く耳を持たなかった。僕の手首を握りしめると、無理矢理ビルの方へと連行する。なんとか足を踏ん張ってみるものの、僕の身体は引きずられていってしまった。
    「つべこべ言ってないで、とっとと行くぞ」
    「待ってよ。本当に無理なんだって……!」
     逃げるような体勢になりながらも、僕の身体は建物へと吸い込まれていく。流行りの言葉を使うならば、散歩を拒否する犬のような構図だった。どれだけ本気を出して抵抗したとしても、機械の力には敵わないのだ。無理矢理エレベーターに押し込まれて、僕は仕方なく力を抜いた。
    「意地悪だなぁ。…………心臓が止まっても知らないよ」
    「子供じゃないんだから。そんなことで心臓が止まるかよ」
     最後の抵抗も虚しく、僕は受付の前に引きずられてしまう。券売機でチケットを購入すると、ゲートを通って中へと入った。説明を聞いているだけでも恐ろしくて、ルチアーノの手を離すことすらできそうにない。これから体験する恐怖を想像して、僕は微かに身体を震わせた。
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