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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ(ルチ視点)。ルチがTF主くんの日記を盗み見る話。

    ##TF主ルチ

    日記 風呂から上がり、身支度を整えると、僕は洗面所の扉を開けた。籠っていた空気が外に流れ出し、冷たい風が室内に入り込んでくる。扉を全開にして空気を入れ換えると、今度は廊下へと足を踏み出した。薄暗い廊下を通り抜けつつ、青年の待つリビングへと足を向ける。
     しかし、廊下の奥にあるはずのリビングからは、一切の灯りが漏れていなかった。入り口から室内を覗いて見るが、青年の姿はどこにもない。ここにいないとなったら、残りの選択肢は彼の部屋だけだろう。踵を返して暗闇に背を向けると、僕は目的の部屋へと足を向ける。
     案の定、家の隅にある彼の部屋には、煌々と灯りが灯っていた。部屋の主であるタッグパートナーの青年が、学習机の前に腰を下ろしている。真剣に手を動かしているところを見ると、何らかの作業をしているようだ。室内に足を踏み入れると、僕は彼の背中に声をかける。
    「おい、風呂が空いたぞ」
     しかし、僕が声をかけても、青年は返事を返さなかった。黙って椅子に腰を下ろしたまま、真剣に手を動かしている。どうやら、手元の作業に意識を乗っ取られて、僕の声が聞こえないようだった。仕方なく彼の元まで歩み寄ると、さっきよりも大きな声で声をかける。
    「おい、風呂が空いたぞ」
    「わっ……!」
     さすがにここまで近づいたら、彼にも僕の声が届いたようだった。全ての言葉が言い終わらないうちに、彼の身体が大きく跳ねる。それほど大声を出したわけでもないのに、随分と過剰な驚きようだ。不審に思って手元を覗き込むと、彼は両手で何かを隠した。
    「もう上がったんだね。思ったより早かったからびっくりしたよ」
     両手で手元を覆い隠したまま、彼は上ずった声で言う。誰が見てもはっきりと分かるほどの、違和感を感じる態度だった。ここまで動揺しているということは、隠し事をしていると見て間違いないだろう。彼の手元に視線を向けると、僕は鋭い声で告げる。
    「様子が変だぞ。君、何か隠しごとしてるだろ」
    「してないよ。ちょっと、日記を書いてただけで」
     しかし、僕が追及の言葉を向けても、彼は認めようとはしなかった。両手で机の上を覆ったまま、ちらりとこちらに視線を向ける。僕の様子を窺う両の瞳は、迷うように宙を泳いでいた。
    「嘘吐くなよ。ただの日記なら、わざわざ隠したりしないだろ。いったい、何を書いたんだ?」
     机の上のものを奪い取ろうと、僕は彼の手元に手を伸ばす。しかし、対する彼の方も、思った以上の抵抗を示してきた。両手でしっかり冊子を押さえると、力一杯机に押し付ける。僕が指を伸ばそうとしても、一切の隙間すら作らなかった。
    「やめてよ。日記の内容はプライベートなことなんだから。嫌だって言われたら見ちゃダメなの」
     僕との攻防戦を繰り広げながら、彼は必死の声色で言う。ここまで抵抗を示されてしまったら、無理矢理奪い取ることもできなかった。まあ、今ここで見れなかったからといって、チャンスがなくなったわけではないのだ。すぐ隣から身を引くと、僕は彼に背を向けた。
    「分かったよ。今回は見逃してやる」
     そのままベッドに歩み寄ると、音を立てながら縁に腰を下ろす。真っ直ぐに見つめた視線の先には、青年の姿が映っていた。僕が諦めたと思って安心したのか、彼は手元の手帳から手を離す。鍵つきの引き出しを引っ張り出すと、中に手帳を仕舞い込んだ。
     そのまま引き出しを閉じると、どこからか取り出した鍵を差し込む。くるくると回して鍵をかけると、流れるようにそれをポケットに入れた。どうやら、僕に奪われることのないように、肌身離さず持ち歩くつもりらしい。彼にしてはよく考えているが、僕の前では無駄な努力だった。
    「じゃあ、お風呂に行ってくるね」
     引き出しから着替えを引っ張り出すと、彼は僕の方を振り返る。日記を見られないための牽制のようだったが、僕の前では無力だった。神の代行者として産み出された僕の前では、鍵など無用の長物なのだ。その気になればいつだって、彼の秘密を暴くことができるだろう。
     彼が部屋を出る姿を見届けると、僕はそっと耳を澄ませた。青年の、見かけによらず軽快な足音が、少しずつ寝室から遠ざかっていく。それは等間隔なリズムを刻むと、唐突に一切の音を止めた。しばらく様子を窺っていると、風呂の扉を閉める音が響き渡る。
     彼が風呂に入ったことを確かめると、僕はベッドから腰を上げた。静かに部屋の中を横切ると、隅に置かれた勉強机の前で足を止める。視線の先に捉えられているのは、青年が日記を隠した引き出しだった。ためしに窪みに手をかけてみると、中で金具の引っ掛かる感覚がした。
     しかし、こんな子供騙しの鍵なんて、僕の前では気休めにしかならなかった。イリアステルとしてあらゆる知識を詰め込まれた僕には、大抵のセキュリティを破るシステムが搭載されているのだ。それはデジタルだけに留まらず、アナログの鍵にも対応している。つまり、この世に設置された大抵の鍵なら、僕のピッキング技術で外すことができるのだ。
     大まかに鍵の状態を観察すると、僕は左手を宙に翳す。時空の隙間から引っ張り出したのは、細長い金属の道具だった。爪先で金具の隅を掴むと、先端を鍵穴に差し込んでみる。感覚を頼りに手を動かすと、奥で何かが引っ掛かる気配がした。
     鍵穴から金具を引っ張り出すと、僕は引き出しに指をかける。少し力を入れて引っ張ると、それはスムーズに前にスライドした。少し浅めの棚の中には、通帳やカードがひと固まりに仕舞われている。取り出して中身を確かめると、通帳の間に見慣れた冊子が見つかった。さっき青年が隠していた、プライベートを記した冊子とやらである。他のものを引き出しの中に押し込むと、僕は取り出した冊子に指をかける。
     周りを一見した限りでは、それはよくあるノートブックだった。A5サイズの薄型で、外側にはビニールのカバーがかかっている。表紙に描かれたイラストの中には、筆記体で『Diary』の文字があった。どこからどう見ても、さっき青年が隠した日記帳である。
     カバーをかけられた表紙に手をかけると、僕は思いきってページを捲った。遊び紙を挟んだ次のページには、商品名を示すデザインが描き込まれている。さらにページを一枚捲ると、そこには質問形式の記入スペースが作られていた。何気なくそこに視線を落として、僕は大きく声を上げてしまう。
    「なんだよ、これ!」
     そこに書かれていたのは、あまりにも奇妙な内容だったのだ。まず、この日記帳そのものが、普通の日記帳とは大きく違っている。ページの上半分を多い尽くすように、男女のイラストが描かれているのだ。そして、そのイラストのすぐ隣には、二人のプロフィールを記入する欄が作られている。
     しかし、僕の瞳が引き付けられたのは、イラストそのものではなかった。イラストの左右に書かれている、男女のプロフィールが原因だったのである。そこに書き込まれていたのは、どう見ても僕たち二人の情報だ。それも、ご丁寧なことに、僕が女側になるように記入されていた。
     嫌な予感に胸を襲われながら、僕は次のページを捲った。案の定、中の日記欄のレイアウトも、普通の日記帳とは異なっている。一日の出来事を記入する点は変わらないが、その下にカップル向けの質問コーナーがあるのだ。既に記入されている一問一答は、どれもこれも見ていて恥ずかしくなるものばかりだった。
     一通り文章に目を通すと、僕はその場から立ち上がった。日記を片手に握りしめたまま、足音を立てて室内を横切る。羞恥と怒りが胸を満たしていて、いてもたってもいられなかったのだ。しかし、部屋の入り口まで歩を進めても、聞こえてくるのは浴室の音だけだった。思うように感情を吐き出せなくて、僕は再びベッドの縁へと戻る。
     結局、あの青年が部屋に戻ってきたのは、それから十五分ほど後のことだった。とことこと間抜けな足音を立てながら、呑気な顔で部屋の中へと入ってくる。僕が怒りに震えていることすら、今の彼は気づいていないようだった。何事もなくベッドに腰を下ろしたところで、手に持っていた日記帳を見せつける。
    「おい、これはなんだよ」
    「えっ……?」
     唇から間抜けな声を溢すと、彼は僕の手元に視線を向けた。そこに握られているものを捉えると、驚いたように瞳を大きく開ける。寝間着のポケットに手を突っ込むと、確かめるように鍵を取り出した。しかし、今さらそんなものを確認したところで、何の解決策にもならなかった。
    「ルチアーノ、どうして、それを……?」
     信じられないとでもいった声色で、彼は小さく言葉を発する。自分の目の前に広がっている光景が、にわかには信じがたいようだった。鍵つきの引き出しにしまっていたものが持ち出されているのだから、信じられなくても当然だろう。しかし、神の代行者である僕にとっては、そんなことは関係なかったのだ。
    「忘れたのか? 僕は、神に作られた代行者なんだぜ。引き出しの鍵を開けるくらい。五分もあれば充分だ」
    「あっ…………」
     突きつけるように言葉を発すると、彼は小さく息を飲んだ。自分の犯した最大の過ちに、今になってようやく気づいたようである。まあ、そんなことは日常茶飯事だから、今さら深掘りすることでもないだろう。それよりも重要なのは、彼が書いていたこの日記だった。
    「で、君はどうしてこんなものを書いてたんだよ。他人の恥ずかしいところばかり書くなんて、どういうつもりだったんだ?」
    「そんなの、僕が覚えておきたかったからに決まってるでしょ。ルチアーノこそ、人の日記を勝手に読むなんて、プライバシーの侵害だよ」
     溢れるままに感情をぶつけると、青年は上ずった声で反論した。早足で僕の前に歩み寄ると、日記帳を奪い返そうと手を伸ばす。彼の手が触れそうになったところで、僕は差し出していた手を引っ込めた。青年の伸ばした指先は、虚しく宙を横切っていく。
    「人の醜態を書き留めておいて、プライバシーも何も無いだろ。君の方こそ、僕のプライバシーの侵害だ!」
    「もう! ルチアーノは横暴だなぁ。誰にも見せないんだから、ちょっとくらい書いたっていいでしょ!」
     堂々巡りの口論を続けながらも、彼は日記帳を取り返そうと手を伸ばす。せっかく入手した証拠を失いたくはないから、僕も両手を動かして抵抗した。口では下らない言い争いを続けながら、手元では争奪戦を繰り広げる。何度かやり取りを繰り返しているうちに、全てが馬鹿らしく思えてきた。
    「分かったよ。今回だけは見逃してやる。その代わり、もう二度と僕のことは書くなよ」
     手に持っていたノートを差し出すと、僕は言い聞かせるように言葉を発する。これ以上自分の醜態を書かれるなんて、腹の虫が収まらなかったのだ。しかし、これを書いた当の本人は、あまりピンと来ていないようである。怪訝そうに瞳を細めると、惚けた声で口を開いた。
    「どうして? せっかくの僕たちの思い出なのに」
    「そんなの、僕が恥ずかしいからに決まってるだろ!」
     わざとらしい振る舞いが癪に触って、僕は大きな声で言葉を返す。このこっ恥ずかしいやり取りを思い出と言うなんて、この男はどれだけロマンチストなのだろう。人間の色恋という概念は、僕には理解のできないものばかりである。大人しく日記帳を返したことを、僕は今になって後悔した。
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