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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチが手持ち花火で遊ぶだけの話。ルチはデータとしてしか花火を知らなそうだなと思いながら書いてました。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    花火 夏と言ったら、花火の季節だ。スーパーの片隅には色とりどりの花火セットが売られ、ライターや蝋燭が並んでいる。定番は大きな袋に入った数種類のセットだが、大きなお店には線香花火だけのものや打ち上げ花火も置いてあった。子供の目を引くカラフルなパッケージは、僕を懐かしい気持ちにさせてくれる。
     ルチアーノは、花火に興味があるらしい。実家のお祭りに参加した時、子供たちに配られた花火を、彼は興味津々で見つめていた。学術的な知識には詳しくても、人間の風俗文化を知らない彼にとって、火薬を利用した娯楽というものは珍しいのだろう。色とりどりに散る光を見つめるルチアーノを見て、もっとたくさんの花火を遊ばせてあげたいと思ったのだ。
     僕は、スーパーで大容量の花火パックを買った。バリエーション豊かな手持ち花火が六十本入っている、ファミリー向けのセットだ。丁寧に蝋燭もついていて、すぐにでも遊べそうな感じだった。
    「今日は、外に出ようか」
     日が暮れて、外が少しだけ涼しくなると、僕はルチアーノに声をかけた。時刻は夜の八時だ。普段だったら、お風呂に入って寝室兼自室で涼む頃である。
    「外? こんな時間にか?」
     ルチアーノは怪訝そうな顔をする。僕が夜に出かけることはほとんどない。何かを企んでいると思ったのだろう。
    「そうだよ。夜にしかできないことをしたいんだ」
     そう言うと、僕は花火のセットを取り出した。空っぽのバケツの中に、花火の袋とライターが入っている。花火の包装紙があるから、ごみ袋もちゃんと入れてあった。
    「いつの間にそんなものを買ってたんだよ」
     張り切って準備をする僕を見て、ルチアーノは呆れたようにため息をつく。バケツの中を覗き込むと、退屈そうに言った。
    「わざわざ買ったのかよ。花火なんて、どれも同じようなもんなのに」
    「そんなことないよ。手持ち花火には種類があって、光り方や火薬の燃え方が違うんだ。ルチアーノだって、お祭りの時に見たでしょ」
    「似たようなもんだったろ。光の色が違うくらいで」
     ルチアーノは言う。彼は、バラエティ花火を見たことがないのだ。お祭りの時にもらったのは、定番のすすき花火の色違いだった。スパーク花火も手筒花火も、彼は見たことがないのだ。
    「実は、違うんだよ。それを見せてあげたくて、このパックを買ってきたんだ」
     バケツを持つと、僕は玄関の扉を開けた。つまらなそうな顔をしながらも、ルチアーノは後をついて来てくれる。家に一人で残される方が退屈だと思ったのだろう。
     僕は、近所の公園へと向かった。砂の敷かれた狭い敷地内に、ブランコが一台置いてあるだけの、こじんまりとした佇まいだ。昼間はこどもたちが集まっているが、日が暮れた後の今は、人の姿は一切無かった。
     僕は、公園の真ん中へと向かった。花火の袋を開けて、備え付けの蝋燭に火をつける。空っぽになったバケツを手に取ると、隅の水道で水を汲んだ。
     昨今では、花火禁止の公園も増えているらしいが、この町では禁止まではされていなかった。シティとサテライトが統合された時に、そのあたりのルールも明文化されたらしい。かつてのシティを知らない僕には、あまりピンと来ない話だった。
     花火の袋を切り開くと、個包装のひとつを手に取る。線香花火のような画像が印刷されたスパーク花火だった。
    「まずは、これをやってみようか。スパーク花火って言うんだよ」
    「その説明の仕方はやめろよ。子供扱いされてるみたいで不快だ」
     僕の言葉に、ルチアーノは拗ねたような声を返した。確かに、言い方が幼稚だったかもしれない。彼の容姿は幼いから、ついつい言葉遣いが緩んでしまうのだ。
     袋を開けると、そのうちの一本をルチアーノに差し出す。自分の分を手に取ると、蝋燭に近づけて火をつけた。
     花火の先から、パチパチと光が弾けた。線香花火のような黄色い花が、火薬の周りを彩る。初めて見る形状に、ルチアーノは小さな歓声を上げた。
    「ルチアーノもやってみて」
     彼も、僕と同じように火薬に火をつけた。パチパチと弾ける光を、興味深そうに眺めている。面白かったのか、続けて二本目にも火をつけた。
    「人間は、火薬をこんなことに使うのか。まあ、ある意味平和の証なのかもな」
     そんなことを呟くルチアーノに、僕は別の花火を差し出した。パッケージによると、こっちは白い色の光が舞うらしい。火をつけてみると、真っ白な光が星の欠片のように散らばった。
    「この花火は、星花火って言うんだって。星屑みたいで綺麗だね」
    「星屑って、不動遊星のドラゴンと同じ名前じゃないか。キングだからってあやかってるのか?」
     そんなことを言いながらも、彼は火薬に火をつける。短時間で消えていく光を見て、楽しそうに笑い声を上げた。
    「もう消えちゃったぜ。星屑の命は短いな」
     次に開けた袋は、定番のすすき花火だった。一口にすすきと言っても、勢いよく吹き出すものや途中で色が変わるものなど、種類は豊富にある。一つ一つ袋を見せながら、ルチアーノに差し出していった。
    「そういえば、花火のこの部分は切って使うものらしいね。僕は小さい頃から燃やしてたから、今でも燃やしちゃうけど」
     花火の先のひらひらを指差しながら、僕は言う。パッケージにも書いてある基本事項らしいが、切っている人はほとんど見たことがない。ごみが増えるからだろうか。
    「ちまちま剥がすなんて面倒だし、そのままでいいんじゃないか? どっちにしても、火をつけたら同じだしな」
     ルチアーノも、僕たちと同じ考えのようだった。色の違う花火をまとめると、豪快に火をつける。僕が子供だった頃には信じられないような、贅沢な遊び方だった。
     次に手に取ったのは、手筒花火だった。袋の中に一本しか入っていない、少し大きめの花火である。他の花火よりも火薬の量が多くて、燃える勢いも強いのだ。お店にはデュエルモンスターズとコラボしたドラゴン柄の花火もあったが、子供っぽすぎると思ってやめたのだった。
     僕は、ルチアーノに手筒花火を握らせた。何もない方向に身体を向けると、落とさないように手を添える。
    「しっかり握っててね」
     声をかけると、着火紐に火をつけた。勢いよく火薬が燃え、鮮やか光が公園を照らす。ずっしりと詰まった火薬は、一メートル近い光の柱を吹き出した。眩い光は園内を明るく照らし、少しずつ勢いを失いながら消えていく。豪快な光の演出に、ルチアーノが満足そうな歓声を上げた。
    「今のはなかなかに迫力があったな。全部この花火でもいいんだぜ」
    「こういうのは、一袋に一本しか無いんだよ。ひとつしかないからこそ、特別感があるんだ」
    「まあ、金もかかるだろうしな。コストを考えたら、何本も入れられないよな」
     にやにやと笑いながら言うと、彼は数本のスパーク花火に火をつけた。花火はひとつの大きな花になって、周囲を明るく照らし出した。なんだか勿体ない気もするが、楽しんでくれているならいいだろう。
     最後は、線香花火だ。花火の〆になる、小さくて控えめな花火である。ビニールの袋を開けると、一本をルチアーノに差し出した。
    「これが、最後の花火だよ。線香花火って言って、上手くやらないとすぐに落ちちゃうんだ」
     手渡した花火を、ルチアーノはまじまじと見つめた。紐のような形状は、これまでの花火とは全く違う。それが花火だとは思えないのだろう。
    「これは、どっちが火薬なんだよ。ただの紐にしか見えないぜ」
    「こうやるんだよ」
     僕は自分の分の花火に火をつけた。小さな炎が膨らんで、パチパチと光がはぜる。光はゆらゆらと揺れると、ぽとりと地面に落ちた。
    「あっ…………」
     炎が溶けて消えるのを、僕は呆然と見つめた。線香花火は、揺れるとすぐに落ちてしまうのだ。最後まで燃やすのは至難の技だった。
    「つまり、火薬を落とさないように燃やせばいいんだな。貸してみろよ」
     線香花火を引ったくると、彼は火薬に火をつけた。パチパチと弾ける光を、真剣な表情で見つめる。ゆらゆらと揺れる光は、途中でぽとりと地面に落ちた。
    「あっ…………」
     思わず声をあげると、ルチアーノは鋭い瞳で僕を見た。二本目の線香花火を手に取ると、勢い込んで火をつける。
    「次は最後まで燃やすからな!」
     鋭い声を上げると、真剣な表情で花火を見つめる。普段が飄々としているから、なんだか新鮮な気分だった。
     ルチアーノは、何本も線香花火に火をつけた。袋の中身が空になるか、成功するまで挑戦するつもりらしい。難しいことに挑戦したがるのは、神の代行者としての性だろうか。
     五本目の線香花火で、ついに完全燃焼に成功した。燃え尽きた紐を手に取ると、自信満々な表情で僕に見せつける。
    「ほら、最後まで落とさなかったぜ。すごいだろ」
    「そうだね。ルチアーノはすごいな」
     答えると、彼は嬉しそうな顔で胸を張った。彼なりに楽しんでくれているみたいで、僕も嬉しくなる。買ってきて良かった。
    「じゃあ、そろそろ片付けようか」
     蝋燭の火を消すと、残った花火を袋の中に纏める。バケツの中身は、水だけ流してごみを纏めた。残りは、家に帰ってから片付ければいい。忘れ物が無いことを確認すると、バケツを持ち上げる。燃え尽きた火薬の臭いが鼻をついた。
     夜も更けて、少しだけ涼しくなった住宅街を、ルチアーノと並んで歩いていく。風が吹く度に、火薬の臭いが漂った。
     家に着くまで、ルチアーノは一言も話さなかった。むきになって線香花火に挑戦していたことが、今になって恥ずかしく思えたのかもしれない。たまに子供っぽい姿を見せるのが、彼のかわいいところなのだ。
    「また、花火をやろうね」
     僕が言うと、ルチアーノは静かに顔を上げた。にやりと徒な笑みを浮かべて、僕の顔を見る。
    「全部手筒花火にしてくれるなら、考えてやってもいいぜ」
    「それは難しいかな。大きな花火ばかりしてたら、セキュリティに注意されちゃうし」
    「それもそうだな」
     今日のことは、ルチアーノの思い出になってくれるのだろうか。僕の幼い頃の記憶のように、離れ離れになったあとも思い出してくれるのだろうか。柄にもなくそんなことを考えてしまって、僕は少しだけ寂しくなった。
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