Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 470

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチの季節もの。2人が焼きいもを半分こする話です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    焼きいも 建物の外に出ると、前方から強い風が吹き付けていた。ひやりとした風は僕の身体を通り抜けて、上着の中まで入り込んでくる。いつの間にか、季節はすっかり秋になっていた。急いで上着の前を締め、襲いかかる寒さから身体を守る。
     こんなに寒いのに、ルチアーノはけろっとした顔をしていた。いつもの変わった衣服に身を包み、平然とした顔で僕の隣を歩く。身を縮める僕を見ると、呆れた声で言った。
    「何してるんだよ。とっとと行くぞ」
     慌てて足を踏み出すと、ルチアーノの隣に並ぶ。彼は小柄なわりに足が早いから、油断していると置いてかれてしまうのだ。
    「ルチアーノは、寒くないの?」
     尋ねると、彼は呆れたように鼻を鳴らした。僕の方を見ることもなく、粗雑な態度で返事をする。
    「何度も言わせるなよ。僕には、人間のような五感はないんだ」
     そのまま、僕たちはしばらく町を歩いていた。それにしても、今日は寒すぎる。少し前までは夏の温かさだったのに、季節の変化というものは分からない。
     そう思っていると、どこからか音が聞こえてきた。ガサガサと掠れた音声が、繰り返し繰り返し流されている。それは少しずつ大きくなり、ついには言葉が聞き取れるようになった。

    ──石焼~きいも~。焼きいも~。

     音の正体は、焼きいも屋のアナウンスだった。それも、最新機器の綺麗な音ではなく、昔ながらのノイズが混じった音声だ。この町にも焼きいも屋が走っていたなんて、去年は全く気がつかなかった。
    「何笑ってるんだよ。気持ち悪いな」
     僕の方を見上げながら、ルチアーノが顰め面を見せる。いつの間にか、口角が上がっていたみたいだ。彼に視線を向けると、僕は弾んだ声で答える。
    「ついに、秋が来たんだなって思って」
    「はあ? なんでそうなるんだよ」
    「ルチアーノにも聞こえるでしょ。あれは焼きいも販売の車で、秋の風物詩なんだよ」
    「それくらい知ってるよ。……人間って、季節の移り変わりを喜ぶよな。変なやつらだ」
     そんな話をしているうちに、音声はどんどん大きくなってきた。どこを走っているのかは知らないが、すぐ近くにいるらしい。繰り返し流される声を聞いていたら、あの甘さが恋しくなってしまった。
    「そうだ。今日のおやつは焼きいもにしよう!」
     そう言うと、僕はルチアーノの手を取った。腕に力を込めると、元来た道を戻っていく。後ろで、彼が不満そうな声を上げた。
    「急にどうしたんだよ。まさか、あの車を探すつもりなのか?」
    「さすがに、そこまではしないよ。いいからついてきて!」
     ルチアーノの手を引きながら、僕は繁華街を駆け抜ける。秋が始まったのだとしたら、焼きいもはどこにでも売っているだろう。近くのコンビニを探そうと思った。
     コンビニの中に入ると、暖かい風が身体を包み込んだ。少し湿気を含んだ温風が、強ばった身体を溶かしてくれる。ルチアーノの手を引いたまま、僕はレジの横に向かった。
     そこには、焼きいものマシンが置かれていた。石を敷き詰められたガラスケースの中に、紙袋に入った芋が並べられている。数日前に入った時に、見かけたような気がしたのだ。
    「あったよ」
     僕が言うと、ルチアーノは眉を動かして機械を見つめた。焼きいものことは知っていても、業務用マシンを見るのは初めてなのだろう。目の前に鎮座した機械を、前衛芸術を見るような顔で見ていた。
    「なんだよ、これ」
    「焼きいもの機械だよ。この中で焼きいもを温めてるんだ」
    「わざわざこんなもので温めてるのか? 人間の考えることって変だな」
     僕はルチアーノの手を離すと、レジへと向かった。焼きいもを注文し、ケースから取り出してもらう。紙袋に包まれた焼きいもは、ほかほかと湯気を立てていた。店員さんは慣れた手つきで焼きいもをレジ袋に入れていく。差し出された袋を受けとると、ほんのりと温かみが伝わった。
     ルチアーノは、扉の前で待っていた。僕を見ると、とんとんと足踏みをして催促する。レジ袋で暖を取りながら、肩を並べてお店の外に出た。
     僕は、真っ直ぐに繁華街を歩いていく。少し歩いたところに、小さな休憩スペースがあるのだ。空いているベンチを見つけると、腰を下ろして袋をあけた。
     袋の中から、湯気を立てる焼きいもを取り出す。中に籠った温かい空気で、紙袋はしっとりと湿っていた。柔らかくなった包装紙を真ん中で破ると、半分になるように切り分ける。すんなりと二つに切れたということは、このさつまいもは柔らかいのだろう。
    「はい」
     半分を渡すと、ルチアーノは眉を寄せて僕を見た。目の前に差し出されたいもの断面を、呆れたような顔で見つめる。
    「なんだよ」
    「半分あげる」
     そう言うと、彼はようやく包みを手に取った。断面を顔に近づけると、何度か匂いを嗅ぐ。戸惑ったような動作に面白さを感じながら、僕はさつまいもを口へと運んだ。
     焼きいもはほくほくとしていて、とろけるように甘かった。そういう品種を使っているのだろう。料理に使われるものよりも、糖度が高いように感じる。片手で皮を向きながら、すぐに半分ほどを平らげてしまった。
     ルチアーノも、恐る恐るさつまいもに口を付けた。前歯で齧り取ると、小動物のように咀嚼する。音も立てずに飲み込むと、平淡な声で言った。
    「ただの芋だな」
    「そうだよ。でも、おいしいでしょう」
     確かに、焼きいもはただのさつまいもだ。さつまいもをホイルに包んで焼いただけの、シンプルな料理である。でも、それ故に家庭で作るのは難しいのだ。
    「まあ、芋の味だな。特別旨いわけじゃないけどさ。不味いわけでもないよ」
     ルチアーノは淡々と言う。彼は食事の娯楽性を知らないのだ。焼きいもを食べるという行為に情緒を感じることがないのだろう。この感覚を伝えるのは難しそうだった。
    「僕は、焼きいもが好きなんだよ。お店に焼きいもの機械が並ぶと、秋が来たって気分になるから」
     なんとか説明しようとするが、彼は気の無い相槌を打つだけだった。本質的に興味がないのだろう。いつものことだから、僕も気にしない。
    「丸々一本の焼きいもって、家ではなかなか作れないでしょ。お店で買うからこそ、秋を実感できるんだよ」
     そう言うと、彼はようやくこちらに視線を向けた。にやりと広角を上げると、からかうような声色で言う。
    「お前たちって、本当に食にこだわるよな。そういうことをするのって、日本人くらいらしいぜ」
    「らしいね。グルメ番組が放送されてるのも、日本だけだって」
     そんな話をしているうちに、僕は焼きいもを食べ終えてしまった。紙袋と皮を小さく丸めて、ごみ袋の中へ入れる。口の中の水分を全部吸われたから、ペットボトルのお茶で喉を潤した。温かい食べ物を食べたからか、身体がほんのりと温かくなる。
     それから少し遅れて、ルチアーノも焼きいもを平らげた。ごみをくるくるとまとめると、黙って僕の前へと差し出す。レジ袋を開くと、ごみを中に落とし仕込んだ。
     いつの間にか、空はすっかり暗くなっていた。もう、秋本番なのだ。これからどんどん寒くなって、日が暮れるのも早くなる。夜を楽しむ季節が来るのだ。
    「じゃあ、帰ろうか」
     声をかけると、僕はそっと席を立った。レジ袋をごみ箱に捨てると、ルチアーノの手をとって歩き出す。
     秋には、たくさんの楽しいことがあるのだ。紅葉も見に行きたいし、月末にはハロウィンだってある。これからのことを考えると、僕の胸は高鳴るのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏💖💖🍁🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works