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    enyakoya

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    ビマヨダになるもの、出来たところまで

    #ビマヨダ

    花は、既に咲いていた 口上を述べ終わると近づいてくる複数の人影があり、手を挙げてそれに応える。自分を召喚したマスターであり、母と同じくする自慢の弟アルジュナ、アルジュナのあとに続いて来たサーヴァントはアルジュナと瓜二つで、真ん中の弟は双子ではなかったのにと首を傾げて、同一人物と気付いたから話を聞かねばならなくなった。
    近づいてくる者たちも入れば遠巻きに眺めてくる者もいて目を向けてみると、あの大戦で敵対したカルナとアシュヴァッターマンだった。なるほどこの二騎では近づいてくることはないだろうと納得してしまう。
    なにはともあれランサー、ビーマはこのノウム・カルデアのサーヴァントとして無事召喚を果たす。

    「先輩!」

    マスターに握手を求められたので、この力で従兄弟たちを泣かしてきた覚えのあるビーマは細心の注意を払い手を握った時だ。視界の端に金色の粒子が浮遊して消えていく。
    おそらくマスターのことなのだろう、先輩と呼んだ少女は召喚陣をまっすぐに見つめているので、同じように見てみるとぶわり、甘ったるい匂いが召喚陣から香ってきた。今まで気付かなかったのが不思議なほどの匂いは、光の輪がグルグルと回り続ける間も止まるということを知らないとでも言うように溢れるように香ってくるのはまるで匂いの洪水。
    あまりにも強く甘い匂いに鼻を覆い、万が一毒であったならとマスターを庇い前に出たと同時に召喚陣の中央に光の柱が立つ。召喚されたのだ。
    弟と弟に瓜二つな者も身構えているというのは、今までになかった現象なのかもしれない。
    召喚されてすぐにこれかと、光の柱が消えていくのを見つめていると、カツンと一歩を歩む音が皆の耳に入ってくる。


    「我が名はドゥリーヨダナ!ドリタラーシュトラの息子にして百王子の長け……い……。なんだぁ、わし様が召喚されたのだからもっと喜ぶのが筋だろう!」

    何があったかと把握しようとしている皆と、歓迎ムードではないことに気付いて口上が途中で止まってしまったドゥリーヨダナ。
    かくして召喚されたビーマとドゥリーヨダナは噎せるような匂いの中で、顔を合わせることになったのだ。





    「これ霊基異常じゃないよ。無辜の怪物に似ているものだ」
    ドゥリーヨダナの召喚は喜ばしいことであるが、召喚に際しての出来事はノウム・カルデア内でも滅多にお目にかかれないことであり、霊基異常の可能性もあるからと調査する事になった。ダ・ヴィンチを中心に足の先から髪の先までデータが取られた結果の発言である。
    話を聞いているのはドゥリーヨダナはもちろん、マスターとあの時召喚に立ち会っていたサーヴァントたちだ。
    無辜の怪物、何人かのサーヴァントたちが所持しているスキルであり効果は【生前の逸話によるイメージから過去、在り方が歪められる】というもの。
    例えばヴラド三世は故国ルーマニアで召喚すれば絶大の強さを誇るサーヴァントであるが生前の串刺し公の逸話と、その後生まれた小説「ドラキュラ」のモデルとなったことから人間であるにもかかわらず吸血鬼の特長を持つサーヴァントとなった。
    アンデルセンは有名な童話作家であるために、あの衣服の下は彼の出版した童話のイメージが混じり合ったものとなっている。
    イメージ、もしくは批評したものが身体、能力的に現れてしまう。ちなみにスキルとは言ったがこれは召喚した時にそうなってしまうものなので、解除もできなければ回復もしくは消し去る事もできないので厳密にはスキルでもないのだ。
    では次になぜドゥリーヨダナが無辜の怪物に近いものがついたか、である。

    「当時は制度に逆らう悪の象徴であったドゥリーヨダナだけども、近年で再評価の流れに変わってきているんだ」

    勿論当時から一定の人気はあったよ、とダ・ヴィンチは付け加えながらも説明を続けた。
    マハーバーラタは言葉を変えインドのみならず世界で読まれ続け、情勢や文化、身分の考え方が変わった当世では身分制度に囚われないドゥリーヨダナは評価を高めていく。高まると次に望むのはその逸話に相応しい特徴、である。
    ドゥリーヨダナの場合、その特徴付けが上半身はヴァジュラの集積から下半身は女神が花で作ったという逸話から来たのであろう。特に花の方に、ヴァジュラは文化圏によって知らない者は多いが花はこの世界のどこにでも咲いているためにイメージもしやすい。花で下半身を作ったからには花の匂いを纏わせていて、動く度に匂いを振りまいていたのではないか。
    そのイメージは人々に着いていきたいと思わせ、大戦争に発展しても味方する者がいた人たらしのカリスマのようなドゥリーヨダナにはぴったりだと考える者が多数いた。
    結果、そのイメージが絡みつき花の匂いを纏ったドゥリーヨダナが召喚されることになったのだ。

    「大雑把に花っていうイメージだから色んな花の匂いがしてるよね。一番大きい割合は蓮、かな」

    今は空調で匂いをどうにかしているが、なければこの医務室も花の匂いで満たされていたのは想像がしやすい。
    なにせこの匂いは時間と場所関係なくドゥリーヨダナから発せられるのだから、医務室に向かっていた間も匂いは発せられていたのでその付近を歩く者がいればあまりの匂いに驚くことだろう。

    「わし様が優秀で美麗であるからイメージを付けられたのは仕方あるまい。現代で言う有名税だ」

    ダ・ヴィンチの説明を受けて始めに問うてきたのはドゥリーヨダナ本人だ。自分では匂いに気付けないようだが、周りからの反応で何かあったのは把握しており説明を受けて今に至るのだが、実際に匂いを確認できていないから一番冷静なのも本人なのかもしれない。
    何せ召喚されて口上を述べはしたが、その場にいた三騎には戦闘態勢を取られ、残りの二騎はその三騎と対抗するように構えていた。カルナとアシュヴァッターマンが召喚されたのに気付いて近寄ってくれたが、三騎の敵意に気付いて対抗する構えを取っていたのだ。
    とても歓迎される雰囲気ではないと、口上の途中で思わず叫んでしまったから五騎のサーヴァントはとりあえず武器を収めてくれ今に至る。

    「イメージが刻み込まれた状態で召喚されたのも理解した。だが強弱くらいは付けられんか?」

    この召喚に応じたということは根でどう思っているかは別として人理を救うというカルデアの目的に賛同を示したということで、どんな振る舞いをしようともそこだけは変わらない。それはドゥリーヨダナにも言えることだ。だから考えることは何故こうなったかより、これをどうするか。

    「カルナやアシュヴァッターマンから聞く話とは印象が違うね」
    「……状態を把握するのは基本の基本というだけだ」

    どんな話をしたのだろうか、後ろにいる二人を見てみるととてもいい顔で頷いているので良い話をしたのだと思いたい。いや、わし様なら良い話とちょっとだめな話しかないから大丈夫、と自己完結することにした。
    なおちょっとダメ、は本人の評価なので第三者とは差異がある。

    「可能性があるとしたら再臨だね」

    サーヴァントは霊格を核とした魔力で構成された肉体で構成されており、カルデアにおいては素材を提供することで座にいる本体には及ばないまでも能力は向上し新たなスキルを得ることがある。
    それを使って制御は可能かもしれないという、あくまで可能性の話だが何も無いというよりは余程いい。

    「おいマスター。わし様の再臨は出来そうか?」
    「第一再臨までならいけるよ」
    「まずは第一再臨まででいいと思うよ。再臨して匂いが更に強くなる可能性だってあるんだ」

    なるほど、とその場にいた全員が思う。制御できる可能性もあればイメージも強化されて匂いが強化される可能性もあると、聖杯から与えられていた知識もあるが一端でしかなかったのだ。

    「それともう一つ、まずは花の匂いがする理由を突き止めただけなんだ。匂いだけでなく花としての性質も刻み込まれているかもしれない」

    ダ・ヴィンチの言葉に、まだあるのかと思わなくもないがイメージが刻み込まれるとはこういう事なのだろうと、聞いた皆はそう思うしか無かった。
    ひとまずは再臨をしてみてどうなるかを確認してみるという方向にまとまり、医務室から出ていく。
    カルナとアシュヴァッターマンと行動を共にしようとしたドゥリーヨダナはそういえば、とマスターを呼び近付いた。
    召喚された際、ビーマの後ろに下がりながら目を逸らさずに状況を見極めようとしていた心の強さと医務室での話を聞いていても動揺すること無く受け入れた度量の広さ。

    「うん、お前はわし様のマスターに相応しい人間。わし様は気に入った」

    聞けばサーヴァントをそのまま魔力の塊に返すことも出来るらしい。

    「わし様に尽くしてくれる者は大好きだ。今はまだだが、その後は報いよう」

    肩にポンと手を置く、もうすぐ成人だというマスターの肩は薄く決して闘う者ではないのに、数多のサーヴァントの力を借りて人理を守っているという。
    ニヤリと片方の口端を上げる笑い方をすれば、マスターも同じようにニヤリと笑う。性格も良さそうだ。
    今日は騒ぎと解析で時間がかかってしまった為、強化と再臨は明日と決まっている。それまでは心の友であるカルナとアシュヴァッターマンの武勇伝を酒の肴にすると決めていて、マスターから離れようと手を外した。

    「おいドゥリーヨダナ」
    「なんだ」

    そんな時に声を掛けてきたのは、生誕日はおろかまさかの召喚日まで同じという因縁がありすぎるビーマであった。召喚した時にはこの匂いで殺気を向けられ(と言ってもそれは生前からなので問題はないが腹の立つものは立つ)、騒動に実際立ち会ったのでまとめて説明を受けていた時も何も言わずにいた男に名前を呼ばれたのだ。口を挟む必要が無かったと言えばそうなのだろうが、このタイミングで何なのかと半分睨みつけるように見つめているとその口が開く。

    「まずは匂いを出す理由は分かったがその成分が何か分かってねぇからマスターに必要以上に近付くな、次にその匂いを撒き散らされると敵わねぇから霊体化しろ」

    ぴしり、ドゥリーヨダナの変化を表現するとこんな音だった。凍り付いたと思うほどの硬直は、見守っていたカルナとアシュヴァッターマンが真後ろまで近寄ってくるがまだ押さえるような事はしない。あくまでドゥリーヨダナの反応を見守っている。
    心の中で数えて三つ、ドゥリーヨダナの頭と口が仕事を始めた。

    「はぁ!?万が一悪いものであればあのダ・ヴィンチとやらが危険性を話している事だろう。よってマスターに近寄っても大丈夫だ。そしてお前はわし様の匂いを無償で嗅げるのだから光栄に思え、逆にお前が霊体化するがいいわ!」
    「あぁ?俺よりお前が霊体化した方が早ぇよ」
    「いーや、お前だ」

    距離を置いていたはずが一言話す度に一歩、また一歩と近づいて行き遂には距離などあってはないような鼻の先がくっついてしまう寸前の距離で二人は睨み合う。
    召喚当日であるにも関わらず既にドゥリーヨダナはこの身長で召喚されたこと、見上げる訳でも見下ろす訳でも無く真っ直ぐにそのまま睨み付けることの出来る身長を持つ年齢であったことに感謝をしていた。無論睨み付ける相手は現在進行形で睨んでいるビーマであり、視線を逸らしたら負けと言わんばかりに鋭い視線を送り続けているがビーマだってそうだ。
    元々薄い藤色の瞳が感情が昂り正に目の前で更に薄くなっていくのを見て、見慣れたビーマの瞳だと瞬間的にドゥリーヨダナは思う。倒してやると決めた瞳だ。
    マスターが隣でメンチを切り合う不良だと呟いていて、しかし反応しては押し負けるとさえ言うような二人の状態はきっかけさえあれば爆発してしまう爆弾になっている。そう、召喚当日でなければ。

    「旦那、今日はここまでにしとこうぜ」
    「兄ちゃんもです」

    互いの背後から声を掛けてきたのはアシュヴァッターマンとアルジュナ、だが先に動けば負けると思っている二人は反応しなかったのだが肩を引っ張られて距離が出来る。

    「ほ?」

    こんなにも呆気なく簡単に動かせるものなのかとドゥリーヨダナから出たのは困惑の声であり、ビーマもまた声こそ出さなかったが不思議そうに目を見開いていた。
    自分を引き寄せたアシュヴァッターマンを見ると、そりゃここが長いからなと話されて納得する。ダ・ヴィンチの言っていた霊基再臨を経ているから何もしていない自分とは力の差があるのだ。まさに軽々と離されたのだから霊基再臨の有用性を理解すると同時にマスターへ向き直る。

    「マスター、明日の再臨よろしく頼むぞ」
    「うん勿論。でもさっきみたいのはヒヤヒヤするからやめてね」
    「すまんがそれは約束出来ん」

    えー、とマスターは言うが約束出来ないものについて頷くよりは余程親切な対応をしたと思うことにして、隣にいるアシュヴァッターマンとその後ろにいるカルナへ笑いかける。

    「お前たちのここでの武勇伝を聞きたい」
    「ドゥリーヨダナお前の望むままに」
    「よし。じゃあ行こうぜ」

    マスターに手を振って、ビーマ達には礼儀だからと目線だけをくれてやってアシュヴァッターマンに与えられた部屋へと三騎で向かう。
    匂いはまだドゥリーヨダナから発せられているし、さっそく一触即発状態にもなってしまったが喚ばれた以上はなんとかなるだろうと楽観的であった。
    ビーマの視線はいまだドゥリーヨダナに注がれているし、背中に視線を感じてもいた気になんてしてやらないと決める。
    廊下に匂いという濃い痕を残して、カルデアのサーヴァントとしてのドゥリーヨダナは始まったのだ。












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