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    enyakoya

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    シャアシャリ
    自分は無欲でないというシャリアの話

    シャリア・ブルは強欲である 友愛とはなんだろうと調べると「友人に対する情」という文章が画面上に浮かび、では友人とはなんだろうと更に調べ「志を共にする者」が出てきたのでこれにはしっくりきた。あの夜語ってくれた未来を現実のものとするために今は下地を作っている最中、共にしているから自分たちは友人で間違いない。
    しかしその隣にあるもう一つの意味を見た時に、生まれたばかりの自覚はすぐに消えてしまいそうになっていた。



    キャノンからこちらに向かって放たれたレーザー、左足部分に当たる予感がしてスラスターを噴射した瞬間レーダーが背後の敵を感知する。
    前方の敵にはスラスターで逃げつつダミーを使って射線を邪魔しつつの牽制、その間に後方の敵をバズーカを使って撃破。
    頭の中で対応する図が出来上がりすぐに行動に移す、ボタンを押して前面にダミーの放出を確認しないままに振り返ってバズーカを構え発射する。
    「っ……あ」
    液晶モニターには『lost』の単語が表示されて自分が落とされた事を知り、コックピットが外から開けられた。
    「最後は相打ちでしたか」
    「えぇ、撃墜数9です」
    外の明るさに目を細めながらコックピットを開けてくれたであろうマリガンに聞いてみると、肯定と結果を教えてくれる。
    「もう少しいけると思いました」
    「初シミュレーターで9はお見事過ぎると言うしかありません」
    シャリアの脳内ではバズーカで後ろの機体を撃破し、その爆風を更に目眩しの材料として寄ってきた機体にバズーカなりビームサーベルで相対する予定だった。脳内と実際に動かすことの難しさに上手くいかないと話すも、自分より戦場を知っているだろうマリガンに言われて礼を言う。
    「操縦は初めてだと思っていました」
    「MSの操縦は初めてですが、船団で工業用MAの操縦を教わっていました」
    専用の者は船にいたが操縦出来る者は多い方がいいからと教えて貰っていた事がある。何せ木星船団では人員の補充は出来ないのだから不都合があった場合、自分たちで対処するしかない。
    優秀までとはいかずとも平均的にこなす能力を求められた。
    「船団では安全性と正確性を求められましたがやはり戦場は違います。ただ」
    「ただ?」
    「命に関わるという根は同一だと感じます」
    敵が人なのか環境なのか、時間を求められるのかそうでないのか、どちらにしろ一つのミスが今後の皆の命に関わってくる。直接的か間接的かの違い位だと感じる。
    「木星から無事に帰還した大尉が言うならそうなのだろうな」
    「っ、シャア大佐」
    上から声が掛けられたのはそんな時で、上を見る前に同じ足場まで下りてきたシャアに敬礼した。右手を上げたので敬礼を解くと、好奇心を含ませた声が響く。
    「シミュレーション戦闘は終わってしまったのか?」
    どうやらシャリアがこの時間シミュレーションをする事を知り、わざわざ来てくれたらしい。
    答えてくれたのはマリガンで、簡潔にシャアに結果を伝えてくれた。
    「終わりました。拝見していましたが戦場に出た際活躍されるでしょう」
    マリガンの話してくれた言葉にはお世辞も冗談も含まれていない、そうなのが分かってしまうから謙遜するのも違うと思いありがとうございますと話す。
    それを聞くとなるほど、と呟いたシャアがデータを見たいと言い出してコックピットに入ってしまったので見終わるまでは出てこないだろう。
    戦場と言われて気になっていた事を思い出しマリガンに話し掛ける。
    「ニュータイプ部隊は現在大佐と私だけでしたか。追加要員はいるんですか」
    「いいえ、現在ジオン軍内でニュータイプと目されているのはお2人だけです」
    シャアは戦場で、シャリアは木星での実績でニュータイプではないかと予想されたから、該当する者が現れたらすでに実績があるはずだ。それが無いということは追加要員の目処もない。
    それならばやれる事は全てやっておきたい。
    「中尉、頼みがあります」
    「なんでしょう」
    「各宙域で行われた戦闘データを見たいのです。私は戦場を知らな過ぎる」
    木星から帰還した時すでに戦争は始まっていて、ソドンにいるシャアの下へ配属された。ニュータイプという誰も聞いたことの無い、戦果を上げるかすら分からないモノがある程度なんとかなると思われているのはシャアがいるからだ。
    それだけの事をしているから当然ではあるのだが、今度からはシャリアも結果を求められる。しかし戦闘経験はなく操縦技術もシミュレーターだけではあまりに頼りなさすぎて、ならば知識を詰めるだけ詰めるしかないと考えた。
    (特別な存在である貴方なら必要ない、と言っても大尉は新兵に近い状態。自信を付ける意味でも良いだろう)
    「分かりました、連邦の機体データも判明した範囲でお渡しします」
    「ありがとうございます」
    マリガンが口にする前に礼を言いそうになってしまうがどうにか堪え、耳で聞こえた後できちんと礼を言う。
    心の声とでも言うのだろうか、深層心理は分からないものの浮かんできた相手の気持ちが頭の中で響く事がある。今では区別が付くからいいものの、昔は大変だった。 成人し木星に行くようになってから区別ができるようになり、対応出来ていたがソドンに来てから状況が変わった。
    はっきりと声が分かるようになったのだ。と言っても全てではない。強弱のタイミングがあり先程のマリガンは強の時にあたる。
    ジオンに帰ってきたばかりの頃ギレンと面会し、ニュータイプ候補だとキシリアにも顔を合わせ二人の思惑が聞こえた時は心はすり減っていたが今は違う。
    「そろそろ大佐もデータを見終わる頃でしょう。大佐が良いと仰ってくれたら食堂でも行きませんか?」
    (この人から誘ってくるとは。隊長であったから交流の大事さを分かっているのか)
    「えぇ、是非」
    この力を自分の意思で制御出来ればいい、なんて考えるようになっていた。



    クルーとしての休み時間、ベッドで休む前にマリガンから受け取った戦闘データを展開し勉強していた時。今ドアを開けたら良い事があると、タブレットを机に置き部屋のドアを開けると目の前には特徴的な白いマスクとヘルメット。
    「良いタイミングだ大尉」
    「シャア大佐!」
    ノックをしようとしていたのだろう、手が半端な位置で上がっているシャアを部屋に通そうと体をずらす。そこから部屋に入ってきて部屋を一通り眺められた。
    「狭いですがどうぞ」
    「整っていていいではないか」
    しまったなと思ったのは部屋に入れたのはいいが客人用の椅子がない事だ。椅子はあるがクッションが硬く、柔らかいのはベッドだが椅子では無い。この二択なら柔らかい方がいいだろうとベッドに座ることを薦めて座ってもらう。
    「どうされました?」
    「なに食堂では話し切れなかったので来たのだ」
    シャリアのシミュレーションデータを見てもらい、マリガンを含めた三人で食事をしている後、講評と操縦技術について聞くことが出来たのだ。
    シャア自身が既に戦場を何度もくぐり抜けてきた身なので大変為になった。
    「食堂でもあんなに教えて頂いたのに、私を呼んで頂いてもいいところを自室まで。御足労をお掛けしました」
    改めて礼を言い、 そこで飲み物を出していないことに気付いて小さな冷蔵庫から急いで炭酸飲料を取り出し手渡す。
    同じものを手に取って椅子に座ると、聞く体勢に入った。
    「あのシミュレーションの事だがあれだけでも良い戦果だったが大尉は戦場でこそ更に活躍出来る」
    「それは何故ですか?」
    「私の勘、と言いたいところだが。あれはあくまで戦闘データだ」
    「……なるほど」
    あれはあくまでシミュレーターのランダムな敵出現だが戦場に出ればパソコンではなく、シャリアを襲ってくるのは意思のある人間の攻撃である。レーダーより先に攻撃する意思を感知して、反撃出来るということである。
    「なんなら先に位置を感知して先手を打てるだろう」
    「勉強になります」
    戦場に出てみないと分からない事は多く、それを先に教えて貰えたのはありがたい。
    そして申し訳なさもある。
    「私はまだまだですね」
    「そうだ、活躍出来るのはこれからだからな」
    手にある炭酸飲料を飲むと喉を通る際にパチパチと弾けるような感触があっても、気分は晴れない。
    「大尉、頼めるか?」
    ベッドと部屋に備え付けられた椅子で向かい合っていたら、シャアが手袋を外し差し出してきたので察したシャリアも手袋を外し手を出す。が、届かない。
    「お隣失礼します」
    シャアを呼ぶ事なんて出来ないので、こちらからベッドに向かい隣に座って外に晒されている手を重ねるために伸ばす。
    『私は大尉のように読むのが得意ではない。コツがあれば教授願いたい』
    そう請われたのはいいが、気付いてみればこうだったので何がコツなのかは分からない。そんなシャリアでも分かる事があった。
    無線通信より有線通信の方が安定しやすい。
    なのでこうして手を繋ぎシャアが読みやすく、伝えやすいようにしている。
    隠し事はなくなると言われた仲であるし、シャアの望みであるから出来るだけ気持ちを伝えられるように頭に浮かべた。その為か繋いだ手の力は自然と
    強くなる。
    (駄目だな、まだ感情としてしか伝わってこない)
    「これは……シミュレーションでの事を私に言われて安堵を覚えたのと、申し訳なさ、だろうか」
    「そうです」
    感じ取りながら言葉を交わしていくのも訓練の一つで、今は言葉も感じ取ったことも同一の内容であり、慣れてきたら会話では思ったことと別の事を話していく予定でいる。
    「申し訳なさは最近友人という意味を調べたのです。私が見たものには意味が二つあり、志を共にする者」
    「うむ、大尉と私だな」
    (うむ、大尉と私だな)
    どちらも同じ言葉が伝わってきて、心の方はより喜んでいるのは伝わってきた。
    「もう一つは助け合える者同士、とありました」
    「助け合っているから友人だろう」
    (大尉はそう思っていないのか)
    ただ握っていただけの手は、シャアが一旦外して指を絡める握り方に変えてきた。接触部分を増やして読み取れるものを多くしたいのが分かる。
    「大佐の考え通り私はそう思っておりません」
    「何故」
    出した声は大きくなり、握られた手もまた強くなった。痛みに顔を顰めると伝わったのだろう、力を弱めてくれるが何故という声は頭の中で何度も響く。
    それはとても、とても簡単な事。
    シャリアが助けられてばかりだと感じている。
    シャアとワインを飲み交わした夜にギレンとキシリアからとき離れ、生きる為の新しい光を見せてもらった。助け合いに質や量は関係ないという者もいるだろう。
    そんなものは個人の考えで異なるもので、シャリアはこれから助け続けても助け合いになるかどうか分からない位に助けられたと思えた出来事だったのだ。その上で戦闘におけるアドバイスをもらいニュータイプとしての心構えすら教わっていると、助けて貰っていると感じている。
    こうして感応の補助訓練をしてもまだ足りない。
    戦闘に役立つかはまだ未知数、助け合いにならずとも足を引っ張ることだけは避けたいと己が持っているものを高めていても間に合うかどうか。
    「……真面目な大尉だものな。基準を緩めろと言ってもすぐには無理か」
    (その性格を分かっているからこそ大尉を友にしたのは私か)
    大佐が既に友人だと思ってくれている事はとても嬉しい、どちらかと言うとシャリア自身が胸を張って友人であると思いたいがために動いていることだ。
    「私の心の持ちようなのです」
    「大尉はあれだな、ストイックだ」
    (私には求めないのに自身には求めすぎる傾向がある)
    「それは違います大佐。私はストイックなどでは無いです」
    自分に厳しいという意味ではそうだろうが、禁欲的ではないと言い切れる。
    「私は隣で貴方が作る世界を見たい」
    シャアの目指すものは決して簡単な事では無い。そのために友人、共犯者として求められたことも知っている。
    友人でありたいから助けられてばかりの自分は嫌だし、共犯者としてもそれが出来る能力を持っていたい。シャアが作戦にいらなくなったと自分を切り捨てるのはいい、作戦開始するにあたっての向き不向きがあるから。しかし能力が無いからと見捨てられるのはいやだ。
    「隣にいればいい」
    (何故いられないと思うのか)
    「大佐は一人しかおられないのだから隣にいられるのは二人です」
    だってシャアは他に友人がいるだろうが、シャリアにとっての友人はシャアしかいない。
    なので語ってくれた未来を形にした時、もしくはシャアが新たな道を見つけて辿り着こうとした時その友人たちから隣に並ぶ者を選ぶだろう。
    それが自分でありたいと思っている。
    感応で全てを伝えるには情報量のせいで負担をかけるかもしれない。言葉で伝えるにはシャリアの知っている言葉が少なすぎる。
    「私の為なのです」
    どうにか少しでも伝えたくて話したが、突然言われても困るだろうと後から思った。
    「私の問題なのに話し過ぎてしまい申し訳ありません」
    「……」
    言葉も心も聞こえてこなくなってしまい、失敗した事を悟る。友人としての適切な距離が分からず、訓練しながら交流をはかるいい機会だったのに、なんてことをしてしまったのか。
    今では嫌な気分にさせたなと握っていた手を緩めたら、シャアの手が重ねられ両手でしっかりと包み込まれる。
    「大尉は隠さずに話してくれたのだと感じる中で訂正しておきたいことがある」
    「はい……」
    気が付けば膝どころか隣合っていた太ももがぴったりとくっつくまでに距離が近付いていた。いや、距離はないのだ。
    「私はもう隣にいて欲しい者を決めている」
    「お早い判断です、流石大佐で」
    す、を言い終えたかどうかのタイミングで唇が塞がれて混乱する。シャアの手はまだシャリアの手を包んでいるから塞げるものなんてないはずなのに、いや、でも、まさかと信じられないでいると頭の中に声が響いてきた。
    (貴公だ!)
    頭を揺らす程の感情と、口に入り込んできた舌の柔らかさにシャリアは目を閉じた。
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