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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    POIPOI 52

    いなばリチウム

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    2月月刊主へし
    webイベント先行公開▶︎アフター用

    近侍「新しい刀の収集ですか」

     心なしか、ひやりと冷たさを帯びたような声が背中に刺さる。

    「そうみたいだな」

     俺が手にしているのは近いうち全ての審神者を対象とした確定任務の知らせで、これまでも何度かそうであったように、江戸城潜入調査で新しい刀が手に入る、というものだった。その資料を捲りながら近侍の視線をひしひしと感じている。ちらりと振り返るとすぐに目を逸らすが、見ているのはバレバレだ。大体の情報は分かったので資料を机に置き、俺は長谷部の方へ振り返った。あ、また目逸らした。

    「……長谷部、分かっていると思うが」
    「はい」

     この説明をするのももう何度目だろうか。新しい刀が来る度に、俺は近侍の長谷部を前に同じことを言い訳のように繰り返している。

    「近いうちに、江戸城への潜入調査任務が命じられることになる。小烏丸や日光一文字の時もそうだったが、鍵さえ集めれば確定報酬みたいなもんだから、うちの本丸に迎えられるのは間違いない」
    「はい」
    「新しい刀が来るってことは……」
    「俺を近侍から外す、ということですよね」
    「一時的に! 一時的にな。部屋割のことも相談したいし、ある程度本丸に慣れるための手ほどきは俺から直接してやりたい。今まで通りに。……分かってるよな?」
    「はい。その為に俺を近侍から外すんですよね」
    「一 時 的 に な ?」

     説明をしている間も終始眉間に皺が寄っているのを、本人は気付いていないのだろうか。思えば初めて近侍を外す、と告げた時はこの世の終わりを告げられたくらい真っ青になっていたから、その時に比べればまだいい方だが……。

     審神者になった当初、近侍は交代制にしていた。顕現させた刀は少なかったし、負担を分散させる意図もあった。刀が増えてからもほとんど惰性的にそれは変わらず、しかし、不都合なども時折あった。内番と同じようにある程度の周期で近侍の役割が回るようにしていたものの、刀が増えれば一周が終わるのには時間がかかる。回ってはきたものの該当の者が長く手入れ部屋に入っていたりだとか、前に近侍をした時と勝手が変わっていて混乱したりだとか、まあ色々だ。よその審神者にそれとなく相談してみれば、そもそもうちみたいな本丸の方が珍しいようだった。近侍は固定だとか、あるいは決まった数人で回しているとか。そっちの方が効率がいいかな、と思った時に偶然近侍だったのが長谷部だ。そういえばうちの本丸では古株だし、近侍にしていて困ったことは思い当たらない、と感じて、まずは試しに固定にしてみるかな、と考えた。
    『近侍、固定にしようかと思うんだけど、長谷部はいい? 明日も』
     試しに、という言葉は続かなかった。明日も、と口にした途端長谷部の顔がぱっと分かりやすく輝いたからだ。え、と戸惑って、同時にきゅんとしたのもその時だったりする。お前、そんな顔できたのか、というか、そんな可愛かったのか、とか。もっともそれは一瞬のことで、すぐにいつもの得意げな笑顔になった長谷部は、『もちろんです』と胸を張った。
    『主の、思うままに』
     そう、畏まって頭を下げられて……あれからもう、何年経っただろうか。もちろん、かと言って永久に近侍を任せるわけがなく、非番だとか遠征の関係で組み替えることはあるものの、それだって長谷部は実に不満たらたらな顔で毎回無駄な抵抗をする。いや、抵抗ではないか……嫌だとは絶対言わないあたりたちが悪いんだよな。

    「お前って、ほんと近侍にこだわるよなあ」

     やれやれと溜息交じりに言うと、ぎゅっと皺が寄っていた眉毛がぴくりと持ち上がる。

    「主の俺が言うのもあれだけど、近侍ってそんなにたいそうなものじゃないでしょ。特別手当が出るわけじゃないし、得なこともあるとは思えない。偉い役職ってわけでもないし、本当にただの当番みたいなもんじゃん。言ったら馬当番、畑当番みたいなさ。近侍とか、耳あたりがいい言葉にしてるけど、主当番って感じ? そんなにこだわりたいもの?」
    「……主はそうお思いかもしれませんが、じゅうぶん特別です、近侍は……」
    「わかんないなあ」

     なんなら、そこが一番わからない。だって、

    「お前、俺の恋人でしょ」

     書類を机の端に追いやって、今日の”審神者”はもうおしまいモードだ。じい、と長谷部の顔を見れば、眉間に寄っていた皺はなくなって、代わりにへにゃりと情けなく下がっている。
     長谷部との関係が主従のみにおさまらなくなったのは、近侍を固定にしてから間もなくだった。あれ、長谷部って、こんな風だっけ、という戸惑いや気付きはどんどん増えて、そこが愛おしいと思うようになるのに時間はかからなかったし、長谷部の方も俺を憎からず思ってくれていると分かり、言葉以外でそれを確かめ合うことも数えきれないくらい、何度か。それなのに。

    「恋人以上に特別なことなんて、ないと思うけどなあ」
    「そ、それはそれ、これはこれ、です」
    「そういうもん?」
    「そういうものです」

     きりっ、みたいな顔で俺を軽く睨む長谷部だけど、俺の方はもうすっかり面白くなってしまって、拗ねている長谷部をにやにやしながら眺めている。実はこのやり取りも一度や二度ではなかった。お互い、半ば流れを分かっていながら拗ねたり言い訳したりしてるところはあるよな。これも間違いなく、恋人同士ゆえの特権だとは思うけど。

    「まあ、でもとりあえず近侍交代は決定ね。そろそろ夕飯だからこの話はおしまい」
    「主、俺は、」
    「今夜さあ、予定なかったら、俺の部屋に来てくれる?」
    「……」

     拗ねてる長谷部も可愛いし、何度でも同じやり取りを俺はしたいけど。

    「なあ、こんなこと、近侍には絶対言わないよ」

     駄目押しのように付け加えれば、そこにはもう拗ねていた近侍はいない。ただ、恋仲のへし切長谷部が真っ赤な顔で小さく頷くだけだった。



    おわり
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
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    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
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    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
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    「いつまでもうだうだしてても仕方ない」
    意を決してうさぎに向かって好きだよという傍から見れば恥ずかしい練習をしていると、がたんと背後で音がした。振り返ると目を見開いた肥前くんがいた。
    「……邪魔したな」
    「ま、待っておくれ!」
    肥前くんに見られてしまった。くるっと回れ右して去って行こうとする赤いパーカーの腕をとっさに掴んで引き寄せようとした。けれども彼の脚はその場に根が張ったようにピクリとも動かない。
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    厨に行くと珍しい姿があった。
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    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
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    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
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    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
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    「…………わすれてくれ」
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    新緑の昼寝


     今日は久々の非番だ。どこか静かに休めるところで思う存分昼寝でもするかと、赤い方の腰布を持って裏山の大桜に脚を伸ばす。
     とうに花の盛りは過ぎていて目にも鮮やかな新緑がほどよく日光を遮ってまどろむにはもってこいの場所だ。
     若草の生い茂るふかふかとした地面に寝転がり腰布を適当に身体の上に掛け、手を頭の後ろで組んでゆっくりと瞼を下ろす。
     山の中にいる鳥の鳴き声や風に吹かれてこすれる木の葉の音。自然の子守歌に本格的にうとうとしていると、その旋律に音が増えた。
    「おおくりからぁ~……」
     草葉の上を歩き慣れていない足音と情けない声にため息つき起き上がると背を丸めた主がこちらへと歩いてくる。
     のろのろと歩いてくるのを黙って見ていると、近くにしゃがみ込み頬を挟み込まれ唐突に口づけられた。かさついた唇が刺さって気分のいいものではない。
    「……おい」
    「ははは、ごめんて」
     ヘラヘラと笑いあっさりと離れていく。言動は普段と差して変わらないが覇気が無い。観察すれば顔色も悪い。目の下に隈まで作っている。
    「悪かったな、あとでずんだかなんか持って行くから」
     用は済んだとばかりに立ち上 780

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    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555

    いなばリチウム

    DONE肥南と主へしとむつんば要素を含みます(混ぜすぎ)
    タイトル通りひぜなんにちょっかい出すというか巻き込まれた主へしとむつんばの話。
    肥南にちょっかい出す主へしの話「肥前くん、主が呼んでいたよ」
     振り返る。肥前はいつだって南海の顔を真っ直ぐに見るのに、ここのところ、そうするとほんの少しだが目を逸らされることが増えた気がした。なんだよ、と思う。思うだけだ。
    「おれを? なんだって?」
    「さあ。部屋に来て欲しいと言っていたから、直接聞いてみてはどうかな」
    「……分かったよ」
     つまみ食いに忍び込んだ厨を追い出され、時間を持て余していたところだった。ちょうどいいか、とそのまま審神者の部屋へ向かう。肥前がこの本丸に来たのは特命調査の折であった。その時点でも刀の数は多かったが、今や百に届く程の刀剣男士が生活している本丸だ。近侍を務める刀は数振りで、ひとりひとりと話す時間が取れないことを憂いた審神者はこうして時々自室に刀剣男士を呼び出すのだ。不満はないかとか、最近どうだとか、肥前にとってはどうでもいい話ばかりではあったが、何度か呼び出しを無視すると機動の早い近侍が文字通り首根っこを捕まえに来る上に最近では部屋に行くと茶菓子やちょっとしたつまみをふるまわれる。食べ物で釣られている自覚はあったが、適当に話をしていれば損はないのだ。久方ぶりに大人しく呼ばれてやるか、という気持ちだった。
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