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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    POIPOI 52

    いなばリチウム

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    https://poipiku.com/594323/10131977.html
    これの続きのようなやつ。主へし。

    続・社畜審神者と近侍の長谷部電車が参ります。
    ホームドアよりお下がりください。

    電車が止まる。
    電車と乗り場の間のホームドアが開く。人が流れ出し、吸い込まれる。閉じる。電車が動く。俺はホームに立っている。1歩、2歩と踏み出しても、線路に落ちることはできない。つま先がこつんと硬いドアに当たるだけだ。
    お下がりください、とアナウンスが俺を咎める。

    一、二歩下がって次を待つ。
    電車が参ります。ホームドアよりお下がりください。
    電車が止まる。最終電車です、お乗り遅れのないように、とアナウンスが急かす。
    ドアの前で佇む俺に、最終電車です、と駅員も急かす。酔っ払いやくたびれた同類と共に、電車に乗った。

    空いた席に深く腰掛けると、もう立ち上がれない気がしてくる。明日も会社に行きたくないな、と思うのに、頭は勝手に帰宅と始発時間から睡眠時間を計算している。
    3時間、いや帰って布団に直行なら4時間は寝られるな、と考える。
    ズキズキと痛む頭の中で、上司の罵声がまだ響いている気がした。怒るのが仕事と言わんばかりの罵声の嵐も、数年も続けば慣れてしまった。
    最後に本丸にいったのはいつだったろうか。
    そろそろいかなくちゃ、そう思いながらうとうとしていた。終電だから寝過ごすのはまずいと分かっているのに、瞼は重い。がくん、と落ちた頭が隣の人にぶつかる。
    「っ、すみませ」
    「いいえ」
    穏やかな声だった。
    「どうぞ、寄りかかってください」
    優しい微笑を浮かべた長谷部が、自らの肩をそっと示す。
    「お疲れでしょう、主」
    「……いや、いいよ。悪いよ」
    俺はどうにか首を振った。そうですか、と長谷部は残念そうに眉尻を下げる。違和感があったけれど、言及する元気はない。
    ゴトトン、ゴトトン、と電車が走る音だけが響く車両で、長谷部のささやき声はしっかりと聞き取れた。
    「本丸に帰りませんか」
    「帰る?」
    思わず長谷部の顔を見上げる。細めた紫の中で、くたびれた男がきょとんとしていた。
    「現世に思い残すことでも?」
    長谷部もきょとんとしたように首を傾げる。
    「思い残すこと……」
    あるよ、と言おうとして、言葉に詰まった。ある、あった、はずだった。そのために、毎日へとへとになっても働いていたはずだった。考えることを放棄して、働く理由があったはずなのに。
    「ありませんよ、そうでしょう?」
    囁きは優しく、甘やかだった。声と同じくらい優しく手を取られ、軽く引っ張られただけで、あんなに重かった体はすぐに立ち上がれた。
    「帰りましょう。ね?」
    「……うん」
    いつの間に駅に着いたのか、電車は止まっていた。開いたドアから、外へ出る。

    最終電車です。声が追いかけてきた。
    お乗り遅れのないように。声は、遠のいていく。


    おわり


    【蛇足】
    審神者(アラサー)
    父親は3ヶ月前に死んだ
    審神者を辞めさせるために存在する会社にも耐えられる異常者
    会社がブラック過ぎてこんのすけと連絡が取れないことで有名だった
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    Norskskogkatta

    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    緑の下で昼寝する主くり
    極の彼は適度に甘やかしてくれそう
    新緑の昼寝


     今日は久々の非番だ。どこか静かに休めるところで思う存分昼寝でもするかと、赤い方の腰布を持って裏山の大桜に脚を伸ばす。
     とうに花の盛りは過ぎていて目にも鮮やかな新緑がほどよく日光を遮ってまどろむにはもってこいの場所だ。
     若草の生い茂るふかふかとした地面に寝転がり腰布を適当に身体の上に掛け、手を頭の後ろで組んでゆっくりと瞼を下ろす。
     山の中にいる鳥の鳴き声や風に吹かれてこすれる木の葉の音。自然の子守歌に本格的にうとうとしていると、その旋律に音が増えた。
    「おおくりからぁ~……」
     草葉の上を歩き慣れていない足音と情けない声にため息つき起き上がると背を丸めた主がこちらへと歩いてくる。
     のろのろと歩いてくるのを黙って見ていると、近くにしゃがみ込み頬を挟み込まれ唐突に口づけられた。かさついた唇が刺さって気分のいいものではない。
    「……おい」
    「ははは、ごめんて」
     ヘラヘラと笑いあっさりと離れていく。言動は普段と差して変わらないが覇気が無い。観察すれば顔色も悪い。目の下に隈まで作っている。
    「悪かったな、あとでずんだかなんか持って行くから」
     用は済んだとばかりに立ち上 780

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    徹夜してたら大倶利伽羅が部屋にきた話
    眠気覚ましの生姜葛湯


     徹夜続きでそろそろ眠気覚ましにコーヒーでもいれるかと伸びをしたのと開くはずのない障子が空いたのは同時だった。
    「まだ起きていたのか」
     こんな夜更けに現れたのは呆れたような、怒ったような顔の大倶利伽羅だった。
    「あー、はは……なんで起きてるってわかったんだ」
    「灯りが付いていれば誰だってわかる」
     我が物顔ですたすた入ってきた暗がりに紛れがちな手に湯呑みが乗った盆がある。
    「終わったのか」
    「いやまだ。飲み物でも淹れようかなって」
    「またこーひー、とか言うやつか」
     どうにも刀剣男士には馴染みがなくて受け入れられていないのか、飲もうとすると止められることが多い。
     それもこれも仕事が忙しい時や徹夜をするときに飲むのが多くなるからなのだが審神者は気づかない。
    「あれは胃が荒れるんだろ、これにしておけ」
     湯呑みを審神者の前に置いた。ほわほわと立ち上る湯気に混じってほのかな甘味とじんとする香りがする。
    「これなんだ?」
    「生姜の葛湯だ」
     これまた身体が温まりそうだ、と一口飲むとびりりとした辛味が舌をさした。
    「うお、辛い」
    「眠気覚ましだからな」
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